となりのナースエイド | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は知念実希人。

 

桜庭澪は姉の死をきっかけにPTSDを発症した。半年経った今でも血まみれの姉の姿が夢に現れる。それでも精神科医の力を借りて仕事を出来るまでには回復し、いまは星嶺大学医学部付属病院でナースエイドとして働いている。医療行為は出来ないものの、忙しい看護師に代わって雑用を一手に引き受け、患者の話し相手になり不安を覚える彼らに寄り添う。看護師らは底辺仕事と見下すが、この道30年のベテランの悦子からは「医者や看護師と患者の大事な橋渡し役」と励まされている。ある日、澪はがん手術を控える一人の患者の様子がおかしいことに気づき、主治医の竜崎に報告したところ、とんでもないトラブルが巻き起こる。

 

ドラマ化もした知念さんの連作短編集。ナースエイドとは聞きなれない言葉だが、看護助手のことをそう呼ぶらしい。主人公の桜庭澪は新人ナースエイドで、医療に携わった経験はないはずなのだが、患者の状況から的確に医者が見落としていた症状を見抜く。彼女の正体は果たして。

 

もう一人の主人公と言える存在が星嶺病院でエースと呼ばれる天才外科医、竜崎大河だ。合理的で無駄がない医療行為こそが患者の命を救う、という信念を持っており、患者に丁寧に接して寄り添う澪の医療とは真っ向から対立する。正反対の気質を持つ二人のやり取りは緊迫しているようで、どこか可愛い。

 

物語の根幹を成すのはシムネス、というこれも聞きなれない言葉だ。全身性多発性悪性新生物症候群というこの病気は全身の臓器に同時多発的に腫瘍が発生し、従来の手術での治療は不可能という難病だ。星嶺の統括外科部長である火神はこの病気を根治させるカギは澪の存在にあるという。

 

知念さんらしいアクションありコメディありのエンタメ作品だが、さすがにいろいろタイミングが良すぎて、ちょっとご都合主義が過ぎると感じる場面もある。続編ありきのラストなのも気になる。まあ、なんだかんだ言っても面白いので、続編が楽しみではあるのだけど。

 

次は加納朋子。