ときときチャンネル 宇宙飲んでみた | 山田屋古書店 幻想郷支店

山田屋古書店 幻想郷支店

物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は宮澤伊織。

 

ときときチャンネルは今日が初配信だ。十時さくらが同居人の天才科学者、多田羅末貴のすごい発明品を紹介しちゃおう!というチャンネルである。目標はチャンネル登録者数1000人で、目的は生活費のための収益化。器用なさくらは仕事を転々としながらも生活費を稼いでいるが、末貴は生活能力が皆無で外出すら稀だからだ。なので家賃分くらいは稼いでもらおうというわけである。初配信の本日は末貴が空間から汲み上げた宇宙をさくらが飲む、という企画だ。よくわからないままにさくらがマグカップを口に運ぶと、自らが宇宙の一部であると実感し、多くの知識が彼女に流れ込んでくる。

 

中学生にしか見えないが、末貴の分まで生活費を稼いでいるさくら、いちいちうるせえひょろ長いもじゃもじゃ眼鏡の天才科学者である末貴。二人の配信の様子が描かれる連作短編集。さくらと末貴と茶々を入れるリスナーたちの会話で物語が構成されており、軽いノリで読める。

 

あらすじに書いたとおり宇宙を汲んだり、時間を飼ってみたり、家をダンジョン化させてみたり、などは末貴がアクセスしているインターネット3から得た技術が使われている。これは超越的な知性が通信手段として利用している超高次元のネットワークで、地球人で利用しているのは末貴のみだ。

 

初回の配信ではネットワーク側からも内容に関する反応があったり、ノリは軽いのだがちゃんとSFしているのが面白い。宮澤さんの作品は読みやすいが、設定が非常にしっかりしており、野崎まどにも通じる。野崎さんの域には達していないが、ストーリーテリングは非常に巧みだと思う。本作も続編が読みたい。

 

次は横関大。