シャーロック・ホームズとサセックスの海魔 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者はジェイムズ・ラヴグローヴ。

 

1903年、50代になったシャーロック・ホームズは探偵の仕事を引退し、サセックス州イーストボーンで養蜂の研究を始めた。邪神との戦いもひと段落していたが、1910年にかつてないほどの脅威が襲い掛かってくる。それはワトソンがサセックスのホームズ邸を訪問したのがきっかけだった。その地で邪神教団との戦いに勝利した翌日、二人は悲報を聞く。ホームズの兄であるマイクロフトの死である。しかも彼の死とほぼ同時に邪神との戦いをサポートしてくれていた6人の仲間がマイクロフト同様に自殺していた。仇敵である邪神ルルロイグが動き出したに違いないと考えた二人は、急ぎロンドンへと向かった。

 

ホームズとワトソン、二人と邪神との戦いを描いた作品の三作目にして最終巻。50代後半になった二人にルルロイグは総力戦を仕掛けてくる。ワトソンが体力の衰えを嘆く一方、ホームズは蜂蜜を食べているおかげで若々しい。コカインより遥かに有益で害がない、とはかつての中毒者が良く言ったものだ。

 

舞台はロンドン、そしてサセックスの近くにあるニューフォードという小さな村へと移り変わっていく。ここはアメリカのインスマス同様に海の悪魔との交流があるとされている場所で、奴らは人間を拉致し交配種を生み出している。ルルロイグの活動が始まった途端、海魔たちの活動も活発化していた。

 

時代としては第一次世界大戦も近づいてきており、邪神たちの背後にはドイツの影も見え隠れしている。そんな設定も三作目ともなると若干の慣れが生じてしまい、面白いのだがちょっとだるい、という雰囲気だったのを吹き飛ばすような最後の戦いが最高だった。そう思うと中盤からの停滞も必要だったと思える。

 

本編が終わったあとのメタ的なあとがきも面白くて、好きだったシリーズが終わってしまう寂しさも感じた。そうはいっても短編はミステリマガジンで邦訳版が掲載されたようだし、いずれは長編の合間が語られる短編集も出来るんじゃないか、という期待が持てる。それを楽しみに待とう。

 

次は日明恩。