リバー | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は奥田英朗。

 

渡良瀬川で犬の散歩をしていた老人が、全裸の女性の遺体を発見した。現場は桐生南署の近くで、他殺の疑いが濃厚とのことで群馬県警捜査一課三係も出動する。ついこの前強盗事件を解決したばかりなのに、また家に帰れなくなる。二人の子供を持つ斎藤一馬警部補は心の中でぼやいた。その数日後、同じく渡良瀬川の河川敷、今度は栃木県側で同様の遺体が発見される。ベテラン刑事たちは10年前の連続殺人事件の犯人が動き出したのか、と嫌な予感を覚える。その事件は未解決で、両県警の汚点になっているのだ。今度こそ犯人を捕まえるべく、群馬と栃木は警察庁主導の共同捜査を開始する。

 

600ページほどある奥田さんの長編。10年前の事件では渡良瀬川の河川敷で両手を縛られた全裸の遺体が発見され、群馬と栃木が合同捜査を実施したが、お互いをけん制しての情報の出し惜しみがあり、捜査は失敗した。今回はお互い別々に捜査して情報を共有する共同捜査で進めることになる。

 

この地域は工場が多く、期間工が多数出入りする地域である。出稼ぎ労働者や外国人の姿もあり、彼らが犯人なら既に姿を消している可能性もある。その中で群馬は刈谷という期間工に目をつけ、栃木は10年前の捜査で被疑者として取り調べをした池田にターゲットを絞る。どっちも危うい見込み捜査だ。

 

あらすじに書いた斉藤警部補や栃木の野崎刑事、10年前の捜査本部にいた元刑事の松岡など様々な視点で捜査を描く。そのなかで異色なのが、10年前の事件の被害者の親で、写真館を営む松岡だ。彼は警察を信用せず、時間を見つけては河川敷に通い、怪しいと思われる人物の写真を撮り続けていた。

 

丁寧に警察の捜査やその周辺の人々の心情を描いた力作だ。結果的に曖昧な部分が残るものの、それがかえってリアリティがあるとも言える。奥田さんのシリアスな作品は悲惨な結末を迎えることが多いのだが、今回はそれも回避されていて後味も良い。ちょっと長かったけど、面白かった。

 

次は月村了衛。