いきなりだが、「35㎞の壁」について考えてみた。
「35kmの壁」・・・マラソンで35㎞以降、パタリと足が止まってしまい、大失速を招いてしまう現象。
 
私はこれまで4回のマラソンを走ったが、「35㎞の壁」を経験したことがない。
強いて言えば、1回目のマラソンで37㎞付近から目の前がふらつくというか、ハンガーノックというか、そんな状態になったくらいだ。
 
キロ4分で完走を目指した2回目のマラソンは、ラスト10㎞は最速でキロ3分30秒台を記録するネガティブスプリットで走れた。
 
今回も35~40㎞では十数秒ラップは落ちたものの、ほぼイーブンペースで走れている。正直なところ、まだ35㎞の壁にぶつかっていない。
 
以下は直近のマラソンのタイムとラップ↓
 
このレースも、終盤は「純粋に疲労」こそすれど、「パタリと足がとまって動かなくなる」ようなことはなかった。
 
そもそも「35㎞の壁」にぶつからないといけないのか?
そんなことはないと思う。もちろん、42㎞を走るから、疲労や苦しさはある。
けれど、「もれなく35㎞の壁にぶつかる」必要はないと思う。
 
ご存じの方もいるだろう。男子の世界記録がマークされたときはネガティブスプリットだった。そのレースにおいてキプトゥム選手も、おそらく「35㎞の壁」にぶつかってはいないと思われる。
何故なら、35kmの壁で大失速してはネガティブスプリットは成立しない。
 
 

 

  なぜ、「35㎞の壁」は出現するのか?

要因は大きく分けて2つあると考える。

 
要因① 足が「売り切れる」
これは筋持久力の問題になるかと思われる。
私もそうだが、普段の走トレーニングが10㎞そこらの選手がいきなりマラソンという普段の4倍の距離を走ると、単純に足の筋肉がもたない。
途中でつりそうになったり、動かなくなったりする。
 
私の場合、2回目のマラソン時は30㎞ですでに脚にきていた。
こうなってくると、「35㎞の」壁とは言わないかもしれない。
ランニングエコノミーを高めつつ、40㎞以上を走れる体にすることで、この要因は解決される。
 
 
要因② エネルギー枯渇
「肝臓に貯蔵できるエネルギー(グリコーゲン)には限りがあり、それが尽きるのが35㎞あたり」
このような説をご存じの方もいらっしゃるだろう。
 
これは「グリコーゲンだけをエネルギー源として走るならば35㎞あたりでグリコーゲンは尽きてしまう」という解釈になるかと思う。
 
この場合、要因①を克服(=40㎞以上を走れる体になっていたと)しても、失速は避けられない。
 
ではどうすればいいのか?
シンプルに考えるなら、「グリコーゲンを枯渇させなければいい」
ということになる。
 
よって、マラソンではグリコーゲン以外のエネルギーを利用しながら走る必要がある。

 

  脂肪を燃焼させて走る

では、そのエネルギーとは何か?
脂肪である。
 
ここで押さえておきたいことがある。
それは以下の事実だ。
 
速いスピードで走るほど、グリコーゲンがつかわれやすい
遅いスピードになるほど、脂肪がつかわれやすい
※かなりざっくりと表現している。
 
運動時には複数場所からエネルギーが供給されている。
これもざっくりした例えになるが、
 
少し息があがるくらいのスピードなら、脂肪が3割、グリコーゲンが7割。
かなり息があがるくらいのスピードなら脂肪は1割、グリコーゲンが9割。
※注意!割合は例を作るために、適当にあてはめた数値
 
といった具合である。
 
つまり、脂肪をエネルギー源として活用できればできるほど、ペース配分を間違えなければ、エネルギーは枯渇しない。
 
すなわち、「35㎞の壁」は回避できるということになる。
 

 

  中学校数学で「35㎞の壁」を回避する

では、「エネルギーが枯渇しないペース配分」について考えてみた。

今回は、以下の前提と設定をもとに連立方程式を利用してみた。

 

【前提】

①体重60㎏の人で考える

②エネルギーの消費量(kcal)は「距離(km)×体重(kg)」

つまり、3km走った場合は3(km)×60(kg)=180(kcal)

③肝臓に貯蔵できるグリコーゲンの量は35kmで枯渇することから35(km)×60(kg)=2100(kcal)

 

【設定】 

①脂肪燃焼によるエネルギーを主とする区間を「守り区間」とする。

②守り区間は脂肪とグリコーゲンを半分ずつ消費して走る。

③グリコーゲンによるエネルギーを主とする区間を「攻め区間」とする。

④攻め区間はグリコーゲンのみを消費して走る。

 

計算過程と結果↓
以上の計算結果を
 
すごーく、ざっくりまとめると
 
24㎞まで我慢したら、あとは攻めちゃえ!
(そうすれば、ゴールでちょうどエネルギーが枯渇する)
 
ということになる。ただし、要因①はクリアしていることも前提になる。
 
※もちろん、ツッコミどころ満載の雑な理屈ではある。
例えば、エネルギー源として脂肪をつかう割合はテキトーに定めている。
エリートから市民ランナーまで、この割合はバラバラだ。
また、攻め区間においても実際のところは脂肪燃焼によるエネルギー供給がある。
他にも気象条件やコースの高低差など、上げればきりがない。
 

 

  改めて「35㎞の壁」は回避できる

とはいえ、「エネルギーの枯渇を回避できる」ことは何となく実感していただけたのではないだろうか。

 
エネルギーの供給源に着目して、ペース配分を工夫(管理)することで35㎞以降の大失速は回避できる。あわよくば、スピードアップをしてゴールラインを駆け抜けることができる。
 
2024年2月現在の男子マラソンの世界記録は2時間00分35秒
前半と後半のハーフはそれぞれ、60分48秒ー59分47秒
 
特に、30~35㎞が13分49秒、35~40㎞が14分01秒と終盤の10㎞で圧倒的なスピードアップをしている。
 
我々がこのスピードで走ることはできないが、同様のスピードアップをすることは十分可能であると私は思う。
 
くどいようだが、直近のレースのラップタイムである。
スピードは全く異なるが、キプトゥム選手同様に、後半以降に最速のラップ(18分38秒)を刻んでいる。
 
 

  地道なトレーニングを忘れるべからず

誤解がないように、最後に断っておきたい。

ペース配分を工夫(管理)することで「35㎞の壁」のないマラソンをすることは可能だと私は思う。

そして、そういうマラソンをこれからも目指す気でいる。

 
ただし、それは地道なトレーニングがあってこそ実現可能であることを忘れてはいかない。
 
先ほど紹介した世界記録。この記録をマークしたケルビン・キプトゥム選手は鍛錬期には週間300㎞近くを走りこんでいたという情報もある。
 
私は全くその領域には及ばない。けど、及ばないながらも直近のマラソンには
 
「2か月間で30㎞走を4回実施」
 
など、自分の状況下でできる準備をして臨んでいる。
 
マラソンには様々なレース戦略がある。
ポジティブスプリットしかり、ネガティブスプリットしかり、戦略を実行するためには確かな下地がいる。
 
これからもマラソンを走るものとして、ここだけは間違えないようにしたい。