新任の駐英大使のエリザベス女王への信任状奉呈式。オックスフォード大学での学位授与式。バッキンガム宮殿の舞踏会にアスコットの競馬。テムズ川のヘンリーレガッタにチェルシーのフラワーショー。

 1年の間にそれぞれ何百年もの歴史を持つ英国の重要な伝統行事にことごとく参加できた。こんな日本人は私しかいないはずだ。

信任状奉呈には黒光りする4頭立ての馬車で向かう。御者は真っ赤な中世風のガウンを羽織って出迎える。大使も随行する私もホワイトタイの正礼装。大使の公邸からかしこまって乗り込む。

 バッキンガム宮殿まで30分ほどの旅。通り抜けていくハイドパークの緑に御者の赤が美しく映える。接見の間で私もエリザベス女王からお言葉をかけられた。おごそかな雰囲気の中にもユーモアのこもった和やかな会話に引き込まれる。

 オックスフォードでは72年に学位の認定を受けたが、授与式はいつでもよい。19年後に家族を連れて赴いた。儀式はラテン語で執り行われ、古式ゆかしい衣服に身を包んだ学長が修士号を受け取る一人一人の頭を本でたたく。「これであなたは人を教えることができる」という意味だそうだ。


3月12日 日経新聞夕刊 「心の玉手箱」第5回(最終回) 文中より抜粋


<コメント>

本で頭を叩かれて、こんな文章を書く人になっちゃった、わけね(笑)

くだらねー 

言ってろ、って感じ