ある朝の雨の情景


その日の朝は、そぼ降る雨に、いつも目にする風景も、
ぼんやりと霞んで見えた。

引っ越して間もないので、少しばかり聞きたいことがあって、
少し離れた隣家に向かったのだが、
やはり、傘が要りそうだと思い直して引き返した。

そして、また隣家に向かって歩き出すと、今度は路傍の草花に眼がいった。
しっとりと、そぼ降る雨が、時間をかけてゆるやかに、
木の枝を、花びらを、草の葉を流れ落ちていくのだろう、
水晶とも見紛うほどの、透明で丸い水滴が、
そこかしこで、ぴたっと、
まるで時間を止めたように静止して輝きを放っている。
その美しさに虚を衝かれ、あわててまた引き返し、
今度はカメラを持ち出した。

するとなぜか、唐突に少年時代を思い出した。
学校帰り、よくした道草も、そうしたものだったのだろう。
本来の目的を後回しにするほど、
今しかないだろうものに取り憑かれたようになる。
そして、目的の場所に遅れて辿り着いて、
きつくお叱りを受けることになるのだ。
理由を問われても、正直には云えないのだ。
とても大人を納得させるに足る理由にはならないことが、
幼心にもわかっていたからだ。

話が飛躍して恐縮だが、
転じて云えば、きっと人は、大きくなって世に出れば、
そういう些細な、あるいは、放っておけない出来事や事象に遭遇して、
本来の目的や約束をあとまわしにしてでも、
立ち止まざるを得ないことがあるし、
とっさに、いくべきか、とどまるべきか、
瞬時に微妙な決断をしなければならないことがある。
遊び心や詩心や自尊心がそうさせることもあるし、
人として、見捨てては行けないと思うこともあれば、
見捨てて行ってしまって、人たるもの後悔することもある。
その想定外の行動心理の裏側には、
どことなく、つい何ものかに惹かれて道草をしてしまう、
少年の心理に相通じるものがある。

そぼ降る雨に、カメラを濡らしながら、しばしシャッターを切った。
そして、あらためて思い直し隣家へと向かった。
道草も、ときに人を幸せな心地へといざなうものである。
それは、決して少年だけの特権でもなく、
いくつになっても、捨てがたい、
胸の奥にひそむ一種の遊び心なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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