「経済安保情報保護法」の成立に抗議する!!

 

  2024年5月10日、「特定秘密保護法」(2014年12月施行)が監視対象とする国の安全保障に関する機密情報(防衛、外交、スパイ・テロ防止の4分野に限定)の保全対象を経済安全保障分野にまで広げる「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(※以下、「経済安保情報保護法」とします)が、参議院本会議で自民・公明・立憲民主・国民民主党・日本維新の会の賛成をもって、可決・成立した。

 

 ☞この法案は、政府が基幹インフラや重要物資のサプライチェーン(供給網)などに関し、漏れると安全保障上、支障がある機密情報を重要経済安保情報に指定。その取り扱いを、国が適性を認めた人のみが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(SC=適性評価)」制度を導入し、漏えいした場合、最長5年の拘禁刑などを科すもの。「特定秘密保護法」と一体運用され、より機密性の高い情報は同法の指定対象(最高、懲役10年)となる、というものである。そして、機密漏えいに刑罰を設けながら、何が機密情報の対象となるのかの情報を事前に明かさない、という仕組みになっている代物だ。

 国会審議では個人の性的関係も調査対象になることが、高市経済安全保障担当大臣が質問に答える形で明らかにした。

 親類や友人の政治傾向まで探られかねないという強権的な手法はプライバシーの侵害どころではない。これこそ、「新たな戦前」である、といえる。「SC=適性評価」は任意となっているが、これを拒否することによる人事上の不利益を禁じる法的保障は法には明記されず、事実上の強制となる。

 故に、そのことは〔身辺調査の対象になった人たちのプライバシーが侵される〕という問題ではもはや済まされず、国策に従順に従わないのならば、職場などからも排除し、生活の糧すら奪っていく、強権的な内容をはらんでいる、といえる。

 

 ☞さて、連日、マスメディア総体を動員し大宣伝を行い、自民党派閥裏金事件に国民の目を釘付けにさせたそのスキに、「特定秘密保護法」の適用対象(=監視対象)を一挙に拡大する意味合いをもつ悪法がまんまと成立してしまったのである。多くの市民団体がこの法案の成立に危機を表明し反対してきたが、「連合」指導部は、「法整備の必要性には理解を示せる」として反対運動を組織してこなかった。そのうえ、「本制度を健全に運用する上で最も重要なのは、附帯決議にあるとおり、労使間の適切なコミュニケーションであるとし、労働者を上記のような不利益から守れる、と開き直っている始末である。

 

 ☞そもそも「SC=適正評価」制度は、2022年5月に成立した「経済安保推進法」に盛り込もうとしたが、反対の声が大きく、審議が難航した。「経済安保推進法」自体が中国・ロシアとの経済活動を排除するために民間企業の動きを国が監視する法律で、批判が根強かったからだ。そのため、当時の政府は、同法案の必要性に理解を示しながらも、企業の経済活動に国の関与が強まるとして追及姿勢だった立憲民主党、国民民主党・日本維新の会を修正協議(※1)で抱き込み、「経済安保推進法」本体を急ぎ成立させ、「SC=適正評価」制度の部分は先延ばしにしたのでる。そして、昨年2月に有識者会議を設置し、法案提出時期を窺っていた、というわけである。そして、政府は、自民党派閥裏金問題に国民の目が釘付けにされていたそのスキに、5党(自民・公明・立憲民主・国民民主党・日本維新の会)の協力により、「経済安保情報保護法」を可決・成立させたのだ。

 ※1修正協議の結果は、付帯決議として「事業者の自主性を尊重」などの文言が盛り込まれた。付帯決議には、法的拘束力はない。

 

「経済安保」をかかげた「経済安保情報保護法」の背景にあるものは何か?

 高市経済安保相は、常々、主要国の多くがすでに同様の制度を持っており、国際共同研究や技術開発の入札等で、日本企業が不利にならないためにも、国際水準に合わせた情報保全制度の整備が急務だと訴えていた。

経団連や日本商工会議所は、「軍事転用可能な民生技術の獲得競争が激化するとともに、国家を背景としたサイバー攻撃の頻度が増す中、経済・技術分野においてもセキュリティ・クリアランス制度を創設することなどにより、わが国の情報保全を強化する必要がある。また、セキュリティ・クリアランスは、企業が国際共同研究開発等に参加する機会を拡大することにも資することから、わが国の戦略的優位性・不可欠性の維持・確保にもつながり得る。」と基本的に歓迎する立場だ。しかし、「経済界としては、既存制度と併せて企業ニーズの受け皿として有効に機能することを確保する観点から、必要に応じて意見していく所存である。」と釘をさしている。

 高市経済安保相は、「(「特定秘密保護法」を成立させた)安倍総理からの宿題」と公言し、「適性評価」の導入を目指してきたが、その究極の目標は米国など同盟国との軍事情報を共有し、国際的な兵器ビジネスに本格参入する方向へと向かっているように思われる。

 この「経済安保情報保護法」で浮き彫りになってくるのは、国が罰則付きで監視する〝特定秘密〝を「軍事・防衛関連」だけではなく、インフラや生活関連物資にまで拡大し、こうした情報もいずれは機密資格を持つ有資格者以外には秘密にしてしまう、という内容である。ちなみに「経済安保推進法」に基づき安定供給を図る「特定重要物資」としては、これまで12分野(抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物及び船舶の部品、先端電子部品)を政令で指定している。また、「経済安保推進法」に則って国が企業を審査(サイバー攻撃対策等)する「基幹インフラ」対象には、すでに210事業者(東京電力ホールディングスやNTTドコモ、日本郵便、JR東日本、三菱UFJ銀行等)を指定している。5月17日、「基幹インフラ制度」の運用が開始し、こうした事業者を含めて、「適正評価」という名の身辺調査を求められる対象が大幅に広がるのは必至だと思う。

 

しかし、「経済安保推進法」や「経済安保情報保護法」の背景にあるものは、いったい何なのだろうか?

 岸田首相が、この4月の日米首脳会談に手土産としたのは、「経済安保情報保護法」の衆議院で可決した事実である。NHKは、4月11日、「アメリカを訪れている岸田総理大臣はバイデン大統領と会談し、自衛隊とアメリカ軍の指揮・統制の向上など、防衛協力を深めるとともに、経済安全保障や宇宙など幅広い分野での連携強化を確認しました。また地域情勢をめぐり、中国の力と威圧による行動に強く反対していくことで一致しました。」と伝えている。岸田首相の持参した手土産が、実に功を奏している。

☞ところで、世界市場で劣勢に立たされている米国は、中国系のITを米国経済から排除するために、ファーウェイ、ZTE、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー、ハイテラの5社を指定し、第1弾の規制として、2019年に政府調達においてこの5社の利用を禁止し、納入させないこととした。そして、翌2020年には、第2弾の規制として、5社とその関連企業の製品を使う企業が米国政府と取引することを禁止した。この第2弾の規制開始の数日前に、米国のクラック国務次官はテレビ会議で日本を代表する通信企業6社――NTT、KDDI、ソフトバンク、楽天、富士通――を呼び出して、「企業の諜報活動を支援している中国に対抗し、われわれは協力し合って、信頼できるネットワークを構築しなければならない」と訴え、第5世代移動通信システム(5G)のネットワークから排除することを強く求めたという(ダイヤモンドオンライン 2024.09.28)。

 政府は、このようなことは、全く国民に知らせようとはしないが、「経済安保推進法」や「経済安保情報保護法」の背景には、米国の軍事戦略とリンクした経済戦略があり、米国の先端技術を世界で打ち勝つためのものにする、そのために日本に協力を求めている、ということがあるのだと思う。そして、これらの法案の成立の背景には、米国と中国・ロシアとの対抗的・軍事的角逐の激化があるのだ、ということを見逃してはならないと思う。

                

 (🦉シマフクロウ 2024.05.31)