ICC元判事ピレイ氏がノーベル平和賞受賞――数時間後、ICC本体が制裁対象リスト入り
■ピレイ氏はガザ攻撃を「ジェノサイド」と認定した国連の独立国際調査委員会・前委員長
2026年10月9日、南アフリカ出身の元ICC(国際刑事裁判所)判事のナビ・ピレイ氏が、「平和と国際法の促進」に貢献したとして、ノーベル平和賞を受賞した。ピレイ氏は、国連のルワンダ国際法廷やICCの判事、国連人権高等弁務官などを歴任。最近まで、国連の独立国際調査委員会・委員長を務め、現在は国際司法裁判所(ICJ)の判事をしている。
ノーベル委員会のフリードネス委員長は、ピレイ氏の活動は、「戦争犯罪、人道に対する罪、そしてジェノサイド(集団殺害)が、確実に訴追されるようにするために、不可欠なものだった」と授賞発表にあたって述べた。
独立国際調査委員会・委員長だったピレイ氏は、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃(2023年10月~)について、「ガザへの攻撃はジェノサイド」である、と認定した。独立国際調査委員会(※以下、「調査委員会」とする)は、約2年にわたり膨大な情報を精査し、決定的な証拠を踏まえ、2023年10月7日以降のネタニヤフのイスラエルによるパレスチナの人民への殺戮や人権侵害等について、国際法※で定義されている5件のジェノサイド行為の少なくとも4件が行われた、としている。
ここでいう国際法とは、通称「ジェノサイド条約」(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)のことで、第2条において、5件の行為(下記の(a)~(e))をジェノサイドと定義している。
(a) 集団構成員を殺すこと。
(b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
(c) 全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。
(d) 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
(e) 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。
調査委員会が昨年の9月16日に提出した『報告書』では、イスラエルの指導者による発言およびイスラエル軍の行動パターン(上記(a)~(d))を、パレスチナ人民に対するジェノサイドの意図を示す証拠として挙げている。そして、調査委員会は、イツハク・ヘルツォグ大統領、ベンヤミン・ネタニヤフ首相、そしてヨアヴ・ガラント元国防相が、「ジェノサイドの実行を扇動した」と主張している。
*ジェノサイドの意図(報告書より)
それがジェノサイドであると認定される上で重要なのが、加害者側が集団の全体または一部を滅ぼすことを、明確に意図しているかどうかである。これについて、調査委員会はネタニヤフ首相の発言に注目し、ジェノサイドを意図するものだと指摘している。
その発言とは、ネタニヤフ首相が、2023年10月28日に行ったヨアブ・ギャラント国防相、ベニー・ガンツ国防相(※副首相兼)との共同声明の中でのガザ攻撃についての演説の中で、「アマレクがあなたにしたことを思い出さなければならない」と呼びかけたのである。この「アマレク」とは、旧約聖書における古代イスラエルの民とは敵対関係にあったとされる民族で、旧約聖書の歴史書の一つであり、ユダヤ教の預言書である「サムエル記」(15章3節)では、「今、行ってアマレクを撃ち、そのすべての持ち物を滅ぼしつくせ。彼らをゆるすな。男も女も、幼な子も乳飲み子も、牛も羊も、らくだも、ロバもみな、殺せ」と神・ヤハウエが命じたと書かれている。調査委員会は、イスラエルの国民は、ネタニヤフ首相の演説の意図を理解し、実際に軍関係者らが呼応したこと、ネタニヤフ首相はイスラエル軍に送った書簡の中でも「アマレク」という言葉を使っていたことを指摘している。
さて、このネタニヤフ首相の旧約聖書をだしにした「声明」は、イスラエル国民に対する、プロパガンダを超える意味を持つものだと、思う。なぜならば、「声明」として言葉に出しただけでそれを実践しなければ、ユダヤの民を裏切ることになるからである。ナント!
また、イスラエルは度重なる国際司法裁判所(ICJ)からジェノサイドを行わないよう命じられているにもかかわらずそれに応じていないことや、ガザへの人道支援物資の搬入を極端に制限していることもジェノサイドの意図であると調査委員会は指摘している。
■ピレイ氏の受賞後、米政権がICC本体を制裁対象リスト入り
さて、このような『報告書』を提出した調査委員会を率いていた、元ICCの判事であるピレイ氏がノーベル平和賞を受賞した直後、トランプ政権は赤根所長を筆頭に裁判官や検察官という個人への制裁から、むき出しの敵意をもってICCの組織本体への制裁へとふみきった。
ルビオ国務長官は、「ならず者の裁判所との取引を禁止し、資金源を断つ」との声明を発表した。ICCを金融システムから締め出し、存続困難にする目的である。さらにルビオ国務長官は、日本や欧州の同盟国を念頭に「ICCを抑え込む」役割を期待すると述べた。まさに、ICC締約国である同盟国への恫喝だ。ICCから脱退せよ、といっているに等しい。
2026年は、戦争責任の追及、国際法の維持、人道支援がノーベル平和賞の大きなテーマになっていた。毎年受賞予測を行うオスロ国際平和研究所(PRIO)が、有力候補としてICCとICJを挙げたと報じられていた。そのICCの赤根所長は、すぐさま「当裁判所は、これらの制裁を断固として拒絶します」、と抗議声明を発表した。
赤根所長は、「それは、当裁判所を設立した主権国家への攻撃であり、国際法の秩序に対する攻撃です。残虐行為の責任者に対する裁きを何年も、時には何十年も待ち続けている被害者への攻撃でもあります。……当裁判所は、各国の司法制度に取って代わるものではありません。国家が真摯(しんし)に捜査や訴追を行う意思がない場合、あるいはその能力がない場合にのみ行動する『最後の拠(よ)りどころ』なのです。裁判所の管轄権は、世界の法制度に共通する原則に基づいています。国家は領内で罪を犯した者や、自国民によって犯された罪について裁きにかけることができるということです。ローマ規程(ICC設立条約)への加入により、締約国は当裁判所を通じて権限を共同で行使することを選択したのです。……ローマ規程は、国際社会全体が懸念する重大な犯罪を決して処罰せずにはおかないという誓約です。その約束の重みは、それを誓った人々の決意の強さにかかっています。……各国に対し、活動継続のために必要な手段を確保することを含め、具体的な行動をとるよう求めます。これはひとつの機関を守るという問題ではありません。『法の支配』に基づく国際秩序を守れるかどうかという問題です。」、とトランプの圧力に負けて脱退する国が出てきている中で、締約国および支援者たちに、そして母国日本の高市首相に呼びかけている。
国際法により大国の軍事・経済制裁行動を制約し、国際法により秩序を守ろうとする赤根所長たちへの支持表明としてノーベル平和賞はあるように思う。だが、選考委員会は、トランプの圧力に屈し、赤根所長ではなく、元ICCの判事をしていた人権法学者のピレイ氏を選んだ、というわけではないのか? やはり、ノーベル平和賞は、政治色が強いと言わねばならない。
*トランプがICCの存在を恐れ、敵視する理由
今回のトランプ政権によるICCへの制裁は、ガザへの攻撃をめぐり、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出したことへの対抗措置としてICCへの圧力を強めた、というだけではないと、わたしは思う。イスラエルへ露骨な支持・支援をし、かつ膨大な兵器を米国の公的資金を使って提供してきたトランプ大統領の国際法上の責任も問われる、ということへの危機感があるように思える。
それだけではない。9月18日BBCが報じているように、トランプ自身がもっとも恐れていることは、「国連人権理事会の調査団は(9月)17日、アメリカがイランで行った2回の空爆で少なくとも177人の民間人を殺害したとして、アメリカが戦争犯罪を犯したと信じるに足る「合理的な根拠」があるとの見解を示した」ことである。BBCは、さらに、次のように伝えている。
「イランに関する国際独立事実調査団による新たな報告書は、今年2月にイラン南部ミナブの小学校とラメルドのスポーツ複合施設に対して行われたミサイル攻撃について、無差別攻撃であり、民間人の死傷者と民間インフラへの被害をもたらしたと述べた。」
「独立専門家らは、この学校は同日に攻撃を受けたイスラム革命防衛隊(IRGC)の海軍施設に隣接していたものの、学校自体は明確に識別可能であり、軍事目的で使用されていたことを示す情報はなかったと述べた。」
「また、米軍の予備調査で米軍に責任があると結論されたという報道や、アメリカが紛争当事国の中で唯一トマホークミサイルを保有している事実などの収集した証拠に基づき、学校への攻撃はアメリカが実行したものだと信じるに足る合理的な根拠があると述べた。
専門家らは、この学校は『意図された攻撃地点であり、被害はイラン革命防衛隊施設への攻撃による誤射や巻き添え被害によるものではない』と結論した。また、生存者の証言として、この学校が2度攻撃されたことを挙げた。」
「同じ2月28日には、ラメルドのスポーツ複合施設と住宅地にタングステン製ペレットを散布する性質の精密攻撃ミサイル(PrSM)が撃ち込まれた。地元当局によると、子ども7人を含む少なくとも21人の民間人が殺された。
調査団の専門家らは、スポーツ複合施設は明確に識別可能で、軍事目的で使われていたことを示す情報は一切なかったと改めて述べた。
そのうえで、アメリカがPrSMを保有する唯一の紛争当事者だという事実を含め、複数の証拠を挙げ、この攻撃についても、実行したのはアメリカだと信じるに足る合理的な根拠があると結論付けた。」
ヘグセス国防長官は「民間人を標的にすることは決してない」と白々しく述べている。米軍は、この国連人権理事会の調査団報告を真っ向から否定している。米軍は、指摘された日付にラメルドへの攻撃は行っていないと述べている。また、使用された兵器がPrSMだという報道を否定した。
*重要なことは、調査団報告が明らかにしているように、イランの民間施設(小学校やスポーツ複合施設)へのトマホークによる空爆は、AIによる誤爆や巻き添えによる被害などではなく、米軍による意図した攻撃である、ということだ。その攻撃命令は、最高司令官であるトランプ大統領が行ったものである。
このことにより、トランプは、ICCから訴追されるかもしれない、という状況にある。中間選挙どころの話ではなくなるのだ。
このような窮地にたたされている世界の破壊者=トランプにとって、ICCは壊滅しなければならない機関なのである。
【追記】2026.10.13
ロイターは、4月2日、「米軍のイラン攻撃は『戦争犯罪』の可能性=米専門家」と題して以下のように伝えている。
「米国内のハーバード、エール、スタンフォード、カリフォルニア大学などの教授を含む国際法の専門家100人以上は2日付の公開書簡で、米国のイラン攻撃が戦争犯罪に該当する可能性があると述べた。書簡は政策ジャーナル『ジャスト・セキュリティー』のウェブサイトに掲載された。
国際法の専門家たちは書簡で米軍の行為と米高官の発言が『戦争犯罪の可能性を含め、国際人権法と国際人道法に違反しているとの重大な懸念を抱かせると』述べた。」
トランプによるICC赤根所長への制裁を弾劾する!
トランプによるICC本体への制裁を弾劾する!
ネタニヤフによるパレスチナ人民へのジェノサイドを弾劾する!
トランプによるイラン侵略を弾劾する!
(🦉 シマフクロウ 2026.10.12)