「GX推進法」案——脱炭素社会をめざして社会・経済・産業構造の大転換をめざした「GX推進法」案が衆院で可決、参院で修正可決され再度衆院で可決されようとしている。

  10年間で20兆円規模の「GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)」という名の国債を発行し、150兆円を超える官民によるGX投資を呼び起こそうという。

  岸田政権は、この「GX経済移行債」でかき集めた20兆円を「エネルギー・原材料の脱炭素化と収益向上等に資する革新的な技術開発・設備投資等」を行う大独占企業へばらまくというのだ。他方、この「GX経済移行債」を「化石燃料賦課金・特定事業者負担金を徴収して2050年までに償還するという。

 これは、化石燃料の輸入業者、そして化石燃料を大量に消費する鉄鋼、セメント、ゴム等化学、運輸などの各企業にとって死活問題である。発電事業者もまた、発電単価の高騰を消費者へと転嫁せざるをえない。岸田政権の唱える「産業競争力・経済成長」の同時的実現などできるわけなどない。むしろ化石燃料を大量に消費せざるをえない独占体、そのほとんどが「基幹産業」といわれる産業の大独占体の倒産・整理縮小・撤退を必然化させる代物である。それによって大量の労働者が路頭に放り出されるのだ。

 さらに、以下のような問題もある。経済産業大臣の認可法人として、GX投資の支援やカーボンプライシングの導入に向けて運営を担う「GX推進機構」を新たに創設する。この「GX推進機構」が150兆円もの金融支援、債務保証を決定するなどの業務を行うという。電通、博報堂、竹中平蔵らの「中抜き」トンネル会社による資金流用などが引き起こされることは必至だ。

 

  しかし、なぜこのような「GX推進法案」なるものを岸田政権は考えたのか。

  2020年に、二酸化炭素排出2大国たる中国が、そして米国がカーボンニュートラルを宣言した。そのことを結節点として、世界的規模で二酸化炭素などの温室効果ガスを発生させる化石燃料から、太陽光、風力、水素発電そして原発などの非二酸化炭素エネルギー中心の社会、経済システムへの変革を為そうという取り組みが開始された。

 各国権力者は、CO2排出が地球温暖化をもたらすことを阻止するための「カーボンニュートラル」ということを名目とした「クリーンエネルギー」への転換を開始した。それは、コロナパンデミックによる、世界的な経済活動の縮小による自国経済の不況からの脱出を軸にした、化石エネルギーにとって変わるあらたなエネルギーへの開発競争を開始したことを意味する。小型原子炉開発、水素関連技術(水素製造技術、水素インフラ整備、水素発電所)、そして核融合発電所など。熾烈な開発競争の開始である。開発された技術諸形態の生産過程や運輸物流過程、消費課程への導入は、経済・社会構造の一大変革をもたらすことになる。それこそ彼ら支配階級が世界経済危機をのりこえる最後のチャンスと観念し、必死に行っていることなのだ。

たとえば、米国・バイデン大統領は、ジーナ・マッカーシーをホワイトハウス気候問題アドバイザーに登用した。このジーナ・マッカーシーは「米国は、クリーンエネルギーや新たなテクノロジーを生み出す最前線に立つ。それによって米国内に安定した雇用を生み出す」と発言した。このための技術開発、開発された技術諸形態の実用化が急ピッチで行われている。2021年3月31日バイデンは「EV、クリーンエネルギー技術への大規模投資(約280億ドル)」と「化学燃料業界への補助金廃止」と風力・太陽光発電の税優遇を10年間延長することを打ち出した。さらに、ディーゼル車両5万台を引退させ、EV充電設備50万カ所設置するという。翌日、マッカーシーはこの「クリーンエネルギー技術」を「原子力ほか、CO2回収、貯蔵技術」とも言っている。

  中国は、国内エネルギーの90%を化石燃料に依存している経済再生の切り札として、高度な技術を必要としない風力、太陽光発電を軸にした再生可能エネルギーへ転換した。設備容量で原発120機ほどの風力発電、太陽光発電設備をわずか1年で建設したのである(実際の稼働率でいうと原発30機程度であるが)。さらに、習近平は石炭火力の設備容量並の風力、太陽光発電の設備容量の引き上げを号令してもいる。水力、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーでの発電量で8割近く、原発は1割程度を2060年に達成することを目標にしている。そのための発電力量調整のための技術の開発も目指されているという。さらに、水素社会を展望して、燃料電池車の技術開発への財政支援を行い、水素インフラのモデル地区をつくりだそうと計画している。トヨタ自動車と合弁会社を設立し、燃料電池車を製造しようとしている。また、太陽光発電設備を国内で大量に設置するだけでなく、太陽光発電設備やリチウム電池の輸出も行っている。

  このような世界のグリーントランスフォーメイションへの競争のただ中にあって、日本の財界主流は危機感をもって日本の技術開発の遅れをのりこえようとしているのだ。このような日本独占資本の要求にこたえて、日本経済の起死回生をこそ、岸田政権が狙った法案なのだ。その意味からも「GX脱炭素電源法案」の政治的階級的意味を考えなければならない。

 

「GX推進法」案を廃案にしよう!!

 

「GX脱炭素電源法案」については立原歩さんの投稿を読んでください。