昨日,「右」の語釈のことを書きましたが,辞書ごとの用例を載せるのを忘れていました。
今回は「恋愛」についての語釈です。
飽きてきた方は,スルーしてください。
岸辺さんと同棲していた男性が,「距離をおきたい」と言って,去って行ったあとのことです。
岸辺さんは「恋愛」という言葉を辞書で引きます。
語釈には「男女が互いに相手をこいしたうこと。また,その感情」,あるいは「異性同士が…」となっていて,同性愛は含まれていないことに岸辺さんは気づき,違和感を感じます。
それを,周りの人に伝えたところ,岸辺さん自身で「恋愛」の語釈を考えてみてください,ということになります。
岸辺さんは,付き合っていた男性との日々,言葉のやり取り,お互いの態度など振り返りながら,語釈を考えます。
そして,できたのはこれです。
「特定の二人の互いの思いが,恋になったり愛になったり,時に入り交じったりと非常に不安定な状態」
「恋愛」を広辞苑(私の電子辞書です)で引くと,まず「Love」の訳語と出てきます。
「恋」と「愛」は古くからある言葉で,万葉集などにも見られます。
「恋愛」という言葉が小説などに使われるようになったのは,1800年代の後半(明治時代)のようです。
※芥川龍之介は「恋愛」を使っています。
つまり,もともと日本にない言葉=日本にはLoveというもの(感情とか状態とか)はなかったという人もいます。
「恋愛」という訳語を作り,それが広がったことによって,「恋」,「愛」と3つの言葉が存在することになりました。
そして,それぞれの意味するところや印象が微妙に異なり,
「これは恋?」
「愛を感じるなぁ~」
「恋愛してみた~い」
などと使い分けたりします。
それでは「Love」をウィズダム英和辞典(電子辞書)で引くと,こんなことが最初に書いてあります。
[元来は異性ではなく,家族・親友に対する愛情をさした]
「Love」の意味は時代ともに,変化してきたんですね。
「恋愛」をいろいろ調べていたら,
2018年5月に実施した「あなたの言葉を辞書に載せよう。2018」キャンペーンでの「恋愛」への投稿から選ばれた優秀作品,というのがありました。
「特定の人に特別の愛情を感じて恋い慕うこと。また、互いにそのような感情をもつこと。」
「愛」,「恋」,「恋愛」という言葉についえ考えてきましたが,夫婦の感情を表す言葉はなんでしょうか?
「愛」,「情愛」などでしょうか?
「愛」,「恋」,「恋愛」は特定の人に特別の愛情を「感じ始めた」ころの状態を示しているようにも思います。
「結婚」したあとの感情は,言葉にするほどのものではない(あまり強い感情ではない)のかもしれません。
最後に。
「舟を編む」を見て思ったのは,作り手側からの強いメッセージです。
制作者は,言葉に対して強い危機感を抱いていると感じました。
ウェブ上の誹謗中傷,なるべく短い文で伝えようという風潮,断定的(決めつけ)な言い方,そういうものに対する警鐘が含まれているように思います。
何度も出てくるセリフ「言葉にしなければ伝わらない,わからない」
けれど,私たちは,言葉にすることを放棄したり,諦めたりすることが多いです。
私は「舟を編む」に出会わなければ,「右」について一生懸命考えることもありませんでした。
「恋愛」や「Love」を辞書で引くこともなかったでしょう。
言葉は本当に面白いです。