大学での研究プロジェクトに参加した学生の調査で、ポーランド南西部にあるプロホビツェという小さな街にやって来た。

人口は4000人弱。

 

ポーランドには、大戦中、ナチスドイツ軍が大量虐殺を行ったアウシュビッツ収容所がある。現在でも町の一角には、当時を思い出させる石碑がある。

 

この街のクラブであるプロホビチャンカ・プロホビツェというポーランド4部(トップリーグから数えると5部相当)に所属するチームと、大学の研究プロジェクトに参加したデグが契約したということで、彼の様子を見にきた(デグの今までのストリーはこちらから)。

 

早速、デグにクラブハウス諸々を案内してもらった。

 

ポーランド5部へ移籍したデグ
 

クラブハウス外見

 

 

 

 

クラブハウス内に掲げられたチームフラッグ

 

4部とはいえ、立派なホームグランドを持っている

 

 

 

自分がオーストラリアでサッカーをしていた頃から思っていたが、ヨーロッパのクラブ(オーストラリアは昔はイギリスの植民地)は、どんなに小さな街クラブでもこういう立派な設備を持っている。

 

日本では、都道府県や地域リーグに相当するカテゴリーだが、上の写真のような環境を備えている日本のチームは数少ない。

 

また、ポーランド4部リーグは、カテゴリーとしてはアマチュアだが、選手たちは、試合に勝利すれば勝利給をもらえる(この点もオーストラリアと同じ)。

 

もちろん、ユニフォーム代や遠征費などはチーム持ち(日本では、選手たちが払うのが基本)。

 

下のカテゴリーにも関わらず、なぜこうした環境が整うのか。

 

今回も感じたのは、行政とコミュニティの力。

 

よく聞く言葉であるが、地域密着型クラブが、ヨーロッパではどのクラブでも徹底されている。

 

ドイツやオーストラリアでも同じだった。

 

どんなに小さな街に行ってもサッカーチームがあり、自前のクラブハウスがあり、グランドを持っていて、スポンサーがついている。

 

日本のサッカー環境で慣れていたせいか、最初はこうしたヨーロッパの環境はなんて恵まれているんだろうと思っていたが、今では、日本の環境が逆に不自然に思えてくる。

 

クラブハウスを訪問すると、会長さんがクラブのクラブハスに通してくれた。

 

クラブのプレシデントと。現地の高校教師も兼ねている。

 

せっかくの機会なので、いろいろと話を聞いた。

 

以下、通訳さんを挟んでの会話だったので、やや不正確な箇所もあるかもしれないが、わかったことを箇条書きにした。

 

・昔は3部にも所属していたことがある70年以上も続く伝統クラブである

・選手たちは、空いている時間をサッカーに費やしているサッカーオタク(笑)

・チームのスポンサーは、チームを昔から応援してくれる街の企業

・現監督は、元選手

・チームの資金源は、スポンサーとともに、町長さんが払っている

 

資金源が町長さんであるということは注目に値する。つまり、行政管轄のクラブということ。

 

そして、この4部リーグの殆どのチームが行政の支援を受けているということである。

 

ここが日本の社会人リーグと決定的に違う点。

 

競技レベル的には、正直、日本の地域リーグの方がレベルは高いが、地域密着という意味では、はるかにポーランド地域リーグが上。

 

今回感じたことは、行政がバックアップに付いている一番のメリットは、「サッカーを中心としたコミュニティ作りができる」という点。

 

まずは、ホームグラウンドの存在。これが大きい。

地域の大人、子供たちにとっての溜まり場になっているのだ。

 

 

練習や試合の日に限らず、グラウンドは地域に解放されていて、誰もが自由に出入りできる。

 

学校帰りの子供達がふらっと練習場に立ち寄り、地元選手たちが練習をしている横で、他愛もない会話をしたり、じゃれあったり。

 

そして、練習が終わった選手は練習場にきている子供達と一緒にボールをける。

 

そんな他愛もないコミュニケーションから子供達はいつのまにか、街のサッカーチームへの帰属意識が高まる。

 

トップチームと同じグラウンドで、アカデミーも。

 

そんな地域とクラブの自然な関係性が築かれていると感じた。

 

実際にデグも練習場にいるとしょっちゅう地元の子供達が訪れ、一緒にボールを蹴るそうだ。

 

デグと一緒に公園に行くと、子供たちが集まり、すぐこんな光景ができあがる。

 

 

事実、会長さんに話を聞くと、人口4000人という小さなコミュニティにある街クラブに、今回日本人が所属しているということで、かなり街自体が盛り上がっているらしい。街全体が活気付いていると教えてくれた。

 

チームのFacebookページで、日本人(デグ)が加入することが報道されると、地元の子供や大人たちが、連日のように彼の部屋に遊びに来るという。

 

「サッカーの試合を見にくるというというよりも、いつもよく一緒に遊んでくれる近所のお兄さんの試合を見に行く」という感覚に近い。

 

そんなデグは現在、チームのクラブハウス内にある一室で暮らしている。これも、チームから無償で提供されているとのこと。

 

 

なんとも生活感があふれるチェンジングルームだ(笑)

 

仕事も、チームのスポンサー会社であるケバブ工場で働くオファーをもらったり、現地の学校で日本語を教えるオファーをチームから紹介されているとのこと。

 

またデグは、地域の大人とも密な交流をしている。

 

中でも、特によく接しているのが、日本好き23歳の男性、マックスさんだ。

 

マックスさんは、日本語を勉強していて、今年の10月には日本の上田市に留学に行くというほどの大の日本好き。

Tシャツのピカチュウも可愛い(笑)

 

デグとマックスさんは、毎日language exchangeをしているという。

 

デグの練習後に、マックスさんの家に招待してもらった。そこで、3人でお酒をのみ、マックスさんは自分の好きな日本のアニメなどの話をたくさんしてくれた。

 

いつも思うのだが、日本のアニメが好きな外国人は、日本人よりも日本のことについてよく知っている。

 

夜も遅くなったので、この日はマックスさんの家に泊めてもらった。ありがとう。

 

翌日は、いよいよデグの試合初観戦。

ここまで、2試合やって、2連敗。

 

わざわざ日本からやってきたので、せっかくだから、デグが試合に勝って喜ぶ姿を見たい。

デグ本人も、「3試合勝てば、その勝利給だけで1ヶ月の食費が稼げる」なんて冗談も言っているぐらいだ(笑)。

 

午後4時キックオフ。

相手は、Karkonosze Jelenia Góra。

デグ、スタメン。右サイドハーフ。

 

ワルシャワという街で知り合ったイガちゃんも応援にかけつけてくれた。

 

 

 

 

試合全体の印象は、球際が激しい。フィジカル重視。

 

オーストラリアのサッカーと同じ。

 

そんな中、デグは、チームメイトとのバランスを取りながら、ポジショニングに気を配っている様子。

何本か、良いセンタリングを上げていた。

 

前半0対0で折り返す。

後半も引き続き、プレー続行。

 

70分、デグ交代。

 

83分、味方DFのハンドで相手チームにPKを献上。PKを決められ、0対1。

デグの勝利給が遠のく。

 

そしてそのまま、試合終了のホイッスル。0対1の敗戦。

嗚呼、負けてしまった。

 

これで、3連敗。惜しかった。いいチャンスも作っていたんだけど。

個人的にはやっぱりデグに点を決めて欲しかった。

 

 

明後日には、日本の帰国するということで、試合後は、デグとイガちゃんと一緒にブロツワフに移動。

 

最後、プロホビツェの駅でバスを待っているときに、近くにいた少年少女たちと一緒に記念撮影。

 

 

デグが散髪屋を探して、街を歩いているときに、子供達が地元の散髪屋に連れて行ってあげたなんていうエピソード聞かせてもらった。

 

今回1週間プロホビツェという街にお世話になったが、クラブの関係者、地域のみなさんによくしてもらいお世話になった。

たった1週間という短い滞在だったけど、すごくこのチームのことが好きになった。

 

たった1週間でこれだけの親近感がわくのだから、この街で生まれ育ち、そして長い間暮らしている人たちは、もう家族みたいな存在になるのだろう。

 

チームの監督(写真向かって右)も、昔はこのグラブの選手。マネージャーも監督の息子。監督は地元の小学校の教師。

 

日本でもよく言われる地域密着型とは何か、こうした小さな街クラブに来ると、本当に体感できるのだ。

 

日本のクラブも、地域住民と交流したり、いろいろなイベントをやっているが、本当の意味での地域密着になっているのか。

 

選手トークショーやボランティア活動、各種イベントをやるのも良いが、クラブと地域住民が、一緒の空間で"生きる"ことが一番の地域密着へのつながっていくはずだ。

 

立派な施設やグランドを作るのも良いが、まずはクラブ関係者と地域住民が一緒になって日常と過ごせる場所、それが大切。そして、それを可能にしているのが、やはり行政の力であることは言うまでもない。

 

それが自然とできているヨーロッパの草の根リーグ、やはりスポーツの原点を感じた。

 

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