ダークザギ「え…あれ…やりすぎた?」
隔離空間「無へと還る檻」を内側から破壊し脱出したダークザギは周囲をぐるりと見回す。
元々荒廃している星ではあるものの、大小様々な岩柱や起伏に富んだ地形ではあったのだが「無へと還る檻」が崩壊した際、空間内で抑圧されていたエネルギーが一斉に開放されて周囲全てを消滅させ、今では地平線を見渡せるほど見晴らしの良い更地へと変貌していた。
ダークザギ「…上か。」
ダークザギの視線の先にはフィクス達がいた。
「無へと還る檻」が崩壊する寸前にはるか上空へとワープしたのだ。
フィクス「あの短時間で破るなんて…破壊神ってあだ名も伊達じゃないわね」
黒霧「助かりました、Msフィクス。私はともかく、そこのお二人は肉体のダメージを見るに反応が遅れていたでしょうしね。」
白井(黒霧と言ったか…この男の観察眼も中々…)
フィクス「お礼はいいわよ…時計は?」
黒霧「止めてます。」
フィクス「ありがと。」
会話しながらフィクス達はゆっくりとダークザギの前へと降下する。
ダークザギ「…閉じ込めて時間を浪費させるなんて、以外とセコい戦法を取るね。」
フィクス「そうねぇ、そのセコい戦法を破るのに随分と息があがっているようだけど?…まぁ、そこら辺が「ツクリモノ」である貴方の限界って所かしら?」
ダークザギ「……グッ!!!」
フィクスの言葉を聴いたダークザギは数秒頭を抱えた後、周囲の地面がひび割れる程のエネルギーを全身から放出しながら咆哮した。
普段は奥底に眠っているダークザギ本人の意思が、フィクスの言葉によって一体化した人間『光野ユイト』の人格を押しのけて現れたのだ。
黒霧「ふむ…急に雰囲気が変わりましたね。」
フリーザ「いや、雰囲気とかそういう次元じゃないでしょう!?」
白井「暴走…終わったな、あの女。」
変貌したダークザギの姿を目にしても素知らぬ顔でフィクスは言葉を続ける。
フィクス「やーねー、ちょっと煽っただけでキレちゃうなんて以外と子どもっぽい」
尚もダークザギを煽るフィクスの言葉は末尾で途切れた。
5、6メートルは離れていた距離を一瞬で詰め、フィクスの眼前に迫ったダークザギが放った一突きがフィクスの右腕を粉砕したのだ。
言動は軽いが、フィクスは決してダークザギの事を舐めても油断していたわけでもない。
それでも、ダークザギのスピードはフィクスの予想を上回り咄嗟に防御に張った相殺ゲートも、破壊の力を集中させた一撃があっさりと砕いた。
ダークザギは怒りに付き動かれるままに2撃目…フィクスの頭部へと先程とは逆の腕を振るう。
破壊の力を纏った爪先が、一撃目以上の速度と威力を以てフィクスへと迫る。
しかし、その爪が穿ったのは虚空だった。
いつ動いたのか、フィクスは拳のあたる場所の更に内側、香る甘い花のような微かな匂いがはっきりとわかる程の密着する距離に彼女はいた。
そして、その事をダークザギが理解したのは胸部に凄まじい衝撃を受け、音速に匹敵する速度で吹き飛ばされている最中のことだった。
白井「バ…バカな…!(み、視えない…いや、違う…わからなかった…何がおきた…!?)」
黒霧「やはり八極拳、でしたか。」
フリーザ「ハッキョ…なんですかそれは?」
黒霧「通常の打撃よりも更に内側、相手が防御出来ない超接近での攻撃を主とする、数ある中国拳法の中でも最も実戦的なものの内の一つです。フリーザさんと白井さんの体のダメージの受け方からもしやとは思っていましたが…」
ダークザギを吹き飛ばした直後のフィクスの姿勢は、まるで寄りかかるかのように背を向けた姿…いわゆる貼山靠のそれであり、砕けた大地は彼女が「震脚」を使った証であった。
フリーザ(成る程、ルケツピで私が食らった一撃もそれだったという訳ですか。)
白井「だとしてもだ」
黒霧「ええ、瞬間的にダークザギさんに匹敵するほど膨れ上がった『気』といい、私達の感知出来なかった『何か』といい、底のしれない人ですね。」
フィクス「ふう…あぶないあぶない。」
前腕の半ばから失った片腕をぷらぷらと振りながら事もなげに呟くと、砕かれた腕を脱落させ、ワームホールから出現した新品の腕が接続された。
フィクス(…咄嗟に『クリア・マインド』を使って避けてなかったら頭を砕かれてたわね…自覚はしてなかったけど、ちょっとナマっちゃってたかしら?)
取り替えた腕を軽く握りしめながらフィクスはダークザギが飛んでいった先を見つめた。
フィクス「…さて、ここからどうなるかしらね…?」
衝撃を受けた影響で痺れていた体の感覚が戻って来たダークザギは、空中で急停止し先程以上に怒りの感情を顕にし全身から赤黒いエネルギーを発した。
黒霧「…おや、この気の膨れ上がり方は…」
白井「まずい…主はこの星ごと破壊するつもりだ…!!」
フリーザ「完全に我を失っていますね…もう条件は満たしていますし、全員で止めますか…?」
大仰に両腕を振りかぶったダークザギは、ピタリと動きを止めた。
ダークザギ「グ…!!」
ダークザギの頭に「光野ユイト」の声がこだまする。
ユイト(落ち着いて、ダークザギ…白井さん達ごとこの星を吹き飛ばすつもり?!)
ダークザギ(…ウルサイ…アイツハ…オレヲ…ブショク…シタ…!!)
ユイト(…これ以上はダメだ、一撃を与えてこちらの勝ちは決まっている!それに、彼女は強い。こっちが全力を出してないように多分彼女もまだ全力じゃない。…『アレ』を使えば対抗できるだろうけど、ダメージを受けて消耗した今の状態じゃ難しいし…このまま戦いを続けるのは得策じゃない!!…今は彼女を味方にすべきだ!!)
ダークザギ(グ…ググ!)
ユイトの説得にも関わらず、ダークザギは構えを解こうとしない。
照準を定めるダークザギが目にしたのは、こちらへ向けて頭を下げるフィクスの姿だった。
フィクス「ゴメンナサイ…挑発とはいえ言い過ぎね、さっきの言葉は撤回するわ」
ユイト(ザギ!!)
ダークザギ「………」
ダークザギは一際大きく吠えたかと思うと、構えを解き全身から力を抜いた。
主導権をユイトに戻したのだ。
ユイト(ありがとう、ザギ。)
ダークザギ「さてと…」
ダークザギはフィクス達のいる所へゆっくりと降下していく。
ダークザギ「勝負はボクの勝ち…でいいんですよね?」
フィクス「ええ、もちろん。…ゆるふわ愛され暗黒破壊紳士の力、身を持って味あわせてもらったわ…」
ダークザギ「混ざってます混ざってます…ッゲボ!!ゲボゲボッ!!」
フィクスのボケにツッコんだダークザギは胸を抑え咳込み出した。
白井「主、大丈夫ですか!!」
黒霧「少し失礼…ふむ、内部のダメージですね、これは酷い。」
フィクス「はいはーい、そこは私におまかせあれ!!」
フィクスはいつの間にか手にしていたゴツい銃をダークザギへと向ける。その銃は、色こそ違うものの仮面ライダーWの使う「トリガーマグナム」に酷似していた。
続けて取り出したガイアメモリを銃へ装填しフィクスは引き金を引いた。
『ヒーリング!』
淡い色の光弾がダークザギの胸へと着弾すると、ダークザギの全身は淡い光に包まれた。
ダークザギ「これは…!」
フィクス「全回復ってわけには行かないでしょうけど、多少は楽になったでしょ?」
ダークザギ「…すごい、もう殆ど痛みがない…というか全体的に調子が良くなった!!」
黒霧「ヒーリング…中々貴重なメモリを持ってますね。」
フィクス「まーね、作るの大変だったけど。」
ダークザギ「それじゃあ、改めて…これからよろしく。フィクサーXさん」
フィクス「ええ。それと、フィクスでいいわ。」
ダークザギとフィクスは握手を交わす。
フリーザ「ホッホッ…丸く収まったようで何よりですね」
白井(なぜお前が占める)
フリーザ「では早速、私の軍に納入してもらう兵器の商談といきましょうか」
フィクス「いや、貴方の所に協力しないわよ。」
フリーザ「は?!」
フィクス「そうね…あとで高級カニでも送ってあげるわ。」
フリーザ「いりませんよ?!…たまに言われますが、私は別に特段カニが好物な訳ではありません!!」
フィクス「え?そうなの?」
……………
…………
………
……
…
こうしてダークザギ達の協力者としてフィクスが加わったのだった。
『越えて交わる悪党達』〜fin〜