【観劇】極上文學「ドグラ・マグラ」 | East-C

East-C

日々のツレヅレ事とか特撮の事とか猫とか趣味の事とか観に行った舞台の事とか。

今晩は。YAHOです。

新宿は紀伊國屋ホール&紀伊國屋サザンシアターで、極上文學「ドグラ・マグラ」観劇完了。
全13公演中、5回を観に行った。一応、ド・グ・ラ・マ全部のver観たかったから(^_^;)

以下、過去記事からの抜粋を交えつつ感想メモなどを思いつくままにつらつらと。



極上文學 【ドグラ・マグラ】
(6/26~29 紀伊國屋ホール・7/11~13 紀伊國屋サザンシアター)


原作: 夢野久作
演出: キムラ真(ナイスコンプレックス)
脚本: 神楽澤小虎(MAG.net)
キービジュアル:丸尾末広


【読み師】 (メイン出演)


・青年I
  玉城裕規/廣瀬大介/小野賢章/(7/12昼のみ)植田圭輔
・モヨ子
  植田圭輔/桑野晃輔
・若林教授
  松本寛也/Kimeru
・正木博士
  酒井敏也/ブラザートム


【具現師】 (アンサンブル出演)


 赤眞秀輝(ナイスコンプレックス)
 濱中太(ソラトビヨリst.)
 神田友博(ナイスコンプレックス)
 小西章之


【奏で師】 (劇伴の作編曲・演奏者)


 橋本啓一




◆キャストの演技は素晴らしかった。舞台美術は相変わらず美しかった。生劇伴は感動した。
全体的にやはり、6月よりも7月の方がこなれてきていて、演者の皆さんの「台詞カミカミ度」も下がってたし、いくらかの「あそび(アレンジ)」も入れてきてたし、少し余裕が感じられた。



◆今回の公演は、マルチキャスティング(1つの役ごとに俳優が複数人居て、公演によって演じるメンバーが変わる)な上に、「ウロボロス構成」。
ちなみに「ウロボロス構成」って、こんなの。
シナリオ内容は同じなのですが、どのシーンから入るか、どのシーンで終わるかが違う、っていう。これによって、各公演の印象も全く変わってきます。


ドver. 起→承→転→結
グver.    承→転→結→起
ラver.       転→結→起→承
マver.          結→起→承→転


公演ごとにverが違うので、観劇日程によって、観られるverが違ってくる。個人的には、原作未読の場合は、スタンダードな「ドver」推奨だな…。
転や結が先に来るverは、必然的にネタバレ…というか結末くさいものを前半に観る事になるので、観客はそこに至る経緯の部分が解らず、最初は「えっ?えっ?」ってなる事必至(笑)
古畑任三郎やコロンボみたいに、「そういうパターン」も有りっちゃ有りなのですが、いかんせん内容が複雑な為、観劇後の印象が「…?」となっていた人も居た模様。
多分、一番「?」ってなるのは、「転結起承」となる「ラver」。いきなりご先祖話(昔々、中国に、呉青秀という絵描きがおりました…的な)から始まるので、観客キョトン度はMAXだと思われ(^_^;)



◆全体的には、あのクッソ長い原作の中の、どうしても削れない部分だけを抽出したような印象。
良くも悪くも「“極上文學”版!です!」という感じで、「耽美」なつくりになっているなとは思いました。
女性客がほとんどなのを考慮してか、オドロオドロしさや気味悪さも、カナリ封印されてるなと…。それ故にか、重要キーワード「変態性欲」のへの字も出なかった辺り、チト残念(^_^;)
あれかな、女性(あくまで一般的な)が観て、「いやーん気持ち悪い~こういうの苦手~」と言われそうな箇所はほぼカットだったのかなぁ。
また、「アンポンタン・ポカン君の演説(に含まれる「脳髄論」)」の辺りや、正木・若林の恩師、斉藤先生の変死のクダリの辺りも丸削りだったんで惜しいけど、致し方ないのか。本筋とは関係無いっちゃ無いし。
それでも、「キチガイ地獄外道祭文」と、「胎児の夢」を入れてくれたのは凄いと思った。



◆今作は、あえて正木父子のエピソードに絞り込んで作られた感じを受けました。
原作には無い、正木博士が一郎に対して言う、「すまない…ッ…」ていう台詞も有ったし。原作よりも、“父親”の感情が強く出ている「正木博士」っていうか。



◆でも、千代子殺しのクダリだけは入れて欲しかったかな。
今回の舞台では、“呉一郎は父を知らない”っていう説明の際、「…母は殺されました」だけで流されちゃったんだけど、誰に殺されたのかとか、なんで殺されたのかとか、一切ノータッチだったので…。
原作ではこれは、呉一郎が自宅で就寝中、隣で寝ていた母・千代子を無意識の内に絞殺したもので、「心理遺伝」の症状が出ちゃった一端なんだけど…この「母殺し」が端折られた事によって、呉一郎の業が「母殺し&嫁殺し」から「嫁殺し」だけになってしまい、何と言いますか、一郎の【心理遺伝が発動すると女なら誰でも殺しちゃうぞ的な異常度】が軽減されてしまったようで…。



◆「裁判所における呉一郎の精神鑑定」の時に、警察と正木博士と若林教授立ち合いのもと、正木が若林を指して、一郎に「このおじさんを知ってるかね?」と聞いたら、一郎は「僕のお父さんです」と答えて若林がものすごくうろたえ、「じゃあ私は誰だかわかるかね?」と正木が自分自身を指すと、やっぱり「…お父さんです」と答えた……っていうエピソードも個人的には面白いところなのですが、今回の舞台では入らなかったか…。



◆劇伴は生演奏。舞台下手奥で橋本啓一氏が、演者の動きやタイミングに合わせて、生で弾くスタイル。あれ良いですね。(楽器はシンセ鍵盤のみ・上演中の全ての劇伴をカバー)



◆演者が台詞の一部分ずつを被せながら同時に喋るのは、キムラ真さんの演出でよく見られる方法な気がしますが、今回は割と重要な事を複数人が同時に喋っていたので、原作未読での観劇だとかなり辛いのではと感じました。



◆役者さん達のビジュアルはとにかく綺麗。衣装、メイク、雰囲気。具現師さん達も含め。毎回役者ヲタには堪らんよなぁ「極上文學」シリーズは…(*´¬`*)



◆木魚ラップ風な「キチガイ地獄外道祭文」は、正木博士(酒井敏也さん または ブラザートムさん)の見せ場だったけど、全く違う「外道祭文」になっていて、これぞダブルキャストの醍醐味といった感じ。
トムさんはミュージシャンらしく橋本氏の演奏に乗って軽快に。酒井さんは独特の間でもってクレイジーに。スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ。
トムさんと言えば、「起」のパートにあった、プチダンスみたいなクダリ(寛也氏のダンスも拝めて眼福)の時に、演奏に合わせてスキャットを入れてくれていた。これはトムさんバージョンならでは。



◆極上文學名物エチュード(というかほぼコント)、赤眞さんコーナー。
毎回、その場で「お題」を出され、メイン役者がそれをこなす。劇中、コーヒーブレイク的なコーナーです。
ここが毎回違うから、贔屓役者の出る回は全部観たくなっちゃう、というのもある…(^_^;)
今回は、「あなたの前世の記憶」と称して、青年役・モヨ子役・若林役の役者にお題の書いてあるカードを1枚ずつひかせ、アドリブで演じてもらい、正木博士役のトムさんor酒井さんが、何を演じているかあてる、というもの。
お題は人物とは限りません。物だったりもします。それを役者は何が何でもw体現せねばなりません。
(お題カードの内容は、役者達が自分で考えて書いているようでした。…という事は、自分で、自分自身の書いたムチャブリカードを引き当てる可能性もあるわけだw)
このコーナーだけは、皆一旦自分の役を離れ、役者の「素」でイキイキとwやってくれるので、ファンには嬉しいサービスコーナーです。



◆若林教授が、呉モヨ子の死体を別の少女の死体と入れ替えるシーン。先述のように、オドロオドロしさ大幅カットのせいか、めっちゃアッサリしていた。
若林教授が、背格好だけ一緒で、あとは似ても似つかない、どこぞの炭鉱で虐待されて殺された少女の死体を出してきて、屍体台帳を破って書き換えて、形だけのテキトーな検死(お腹をメスでバーッと切って内臓をホイッと一回出しただけで収納、目玉もただ取り出してまた元の眼窩にほいっと戻し、頭蓋もバーッと切って、脳みそを、目玉焼きを返すかのように掌でホイッとクルリンさせただけで収納、あとは顔もワカランくらい、すげーぞんざいに針でザクザク縫っておいて、モヨ子風に白粉で塗りたくって、包帯でグルグル巻きにして終了)をして、ゲヘゲヘハァハァしながら、麻酔剤で眠らせたモヨ子の着衣をひん剥いて、その包帯少女に着せて、「モヨ子のご遺体」に仕立て上げる、それを夜中コッソリ全部一人で行った、っていうクダリなのですが。
ここが一番、いつもは冷静で優しげな態度(曲者ではあるが)の若林教授の、ちょっとありえない偏執さや凄絶さが出ているシーンだと個人的に思っていたので、舞台版では若林教授の変態レベルが抑えられていて惜しいw

――まあ、そんなに詳細にやるシーンでもないんだろうけど(^_^;)なんせ2時間にまとめなきゃいけないんだから(笑)
ていうか、寛也氏のそのゲヘゲヘハァハァ演技が見たかったっていうだけなんですが(笑) 観たかったけど観れなかったから、ザザッとだけど自分で描いてしまったが、ちょっと病的にしすぎたか…(汗)
ツイッターのアカウントが入ってるのは、いずれツイッターに上げようかな?と思ったからで…まだ現時点では上げてませんが(汗)


dgmgw

◆「正木博士と若林教授のなんと壮絶な知恵比べであろうか!」みたいな台詞があったが、舞台版ではさほど壮絶な知恵比べには見えなかった…です…(汗)ゴメンヨ
いや本来は本当に壮絶な知恵比べだったはずなのですが、やはり端折りが多すぎて、そう見えなかったんだな。



◆呉一郎が「心理遺伝」の発作を起こして、狂人解放治療場の狂人達を鎌で斬殺するシーン。BGMはパイプオルガン。厳粛系な感じで。
なんだろうこれすんごいデジャブだよなんだろうと思ってたら、月蝕歌劇団のお芝居でよく見るやーつだった。ここの曲だけは、マジでJ・A・シーザー氏みたいだったよ…(^_^;)
なぜ大量惨殺シーンは、ちょっとスローモーションな感じでパイプオルガンBGMなんだろうwww…お約束?なのか?



◆結末近く、主人公の青年に向かって放たれる台詞「これがお前の人生だ…!」は、回によって違う役(確認できたのはブラザートム演の正木博士、植田圭輔演のモヨ子、松本寛也演の若林教授)が言ってたけど、法則が見つけられずオワタ(^_^;)
上演verによって、というわけでもないみたいだったし……。



◆何度も述べてますが、舞台美術は毎回美しくて好き。
今回は、赤と白と黒をベースに作られている気がしました。「赤・白・黒」は「メルヘンの色」なのだと昔某所で教わりました。
童話の白雪姫や、川端康成の「雪国」にも、この「赤・白・黒」のモチーフが登場します。美しく、それでいてダーク。赤白黒、イイネ。
また、中央で回る舞台装置や、下手に作られた精神病室、上手に作られた正木博士の研究室なども、アヤシイ雰囲気ムンムン。
上手下手には、それぞれ階段が作られてましたが、特に上手階段は、正木先生のデスク周りに積み上げられた本を模してあって、背表紙に「胎児の夢」「キチガイ地獄外道祭文」「絶対探偵小説」など文字が入っているのもステキ。
そしてその正木博士のデスク脇書庫に貼られた、「ドグラ・マグラ」にとって非常に重要なアイテムである「カレンダー」。
これ、下手客席からだと全く見えません。上手側に座ってる人だけが見えます。
意図してではないのかもしれないけど、なんかこういうのが、天井桟敷…じゃなかった、万有引力の実験公演みたいでちょっと楽しい。



◆最後に、我が贔屓・松本寛也氏について。
どこか慇懃無礼な感じの、松本寛也版・若林教授。ルックス的には、もう完全に原作版とは切り離されている感じなので、そこはもういい。言及しない(笑)
この若林教授、一応「結核を患ってて病弱」っつー設定なのですが、どう見てもピンピンしているぞ若林先生www――とは思ったw
時々思い出したように「咳」が入りますが、それ以外は「おまへ健康そのものだろっ!」と言いたくなるほど元気な感じ(笑) 踊るし!(笑)
 若林教授は、表面の物腰は丁寧なんだけど、ドウモ心根は冷たいのかな?…と思わせて、実はそうでもないのかな?…みたいな、よく分からないキャラクターです。(私の読み解きが足りないと言われればそうなのかも・汗)
原作の作中でも、若林教授は正木博士のライバルっぽい「悪役」のような立ち位置なったり、そう思うと実は本当に正木博士に敬意を払っている「善い者」っぽくなったり、その印象がかなり変わっていくキャラだと思っています。
そもそも、この物語の「語り手」である青年I(呉一郎?)自身が精神病なわけで、彼から見た若林先生の姿だけで「若林鏡太郎」をどんな人物か推して考えて創ろうとしても、これは大変難しい作業ですよね(;´Д`)(作中の青年の語りはあくまで主観であり、事実を言っているかどうかも分からないのですから…)
元から掴みどころが難しく、また感情移入もしにくい位置にいるキャラクターなので、役作りもきっと大変だっただろうと…。
それでも、いつもの「松本寛也節」をきかせ、若林を演じきった寛也氏に惚れ直しつつ、「ドグラ・マグラ」観劇は終わったのでした…。
あああー!本人から役作りどうだったのかとか、いっぱい聞きたいなー(*´¬`*)
 そうそう…寛也氏の千秋楽となった7/13のマチネ・ラストシーン。青年Iに向けて、何ともいえず凄味のある笑いの表情を見せていたのがとても印象的でした。
(他の回でもやってたのかなぁ?座席の関係上、間近で観られたのが7/13だけだったので分からないけど)
先述の「赤眞さんコーナー」では、前世、「トロサーモンの寿司」とか「少女時代」とか「にわとり」などを演じ、安定のイジラレ役っぷりも健在。「三の線の松本寛也」を思い切り堪能させて頂きました。
あーちくしょうかわいいなあもうなんであの28歳はあんなかわいいんだ




総じて――
今回の「ドグラ・マグラ」は、原作が好きなだけに、観劇はハナからハードル上げまくりでしたが、良い舞台でした。
複数回観劇しても「観ていられる」ってのは、そういうことだ。
その割には「マイナス採点方式多くてごめんね…」という感じですが、良いと思わなければ、こんな沢山感想出て来ないし(^_^;)(ふーん、で終わっちゃうから…)
良い所いっぱいあったし、「極上文學」らしい美しい舞台になっていたけど、ただ原作好きとしてはちょっと物足りなかったかな…というのも正直あったかなというところ(^_^;)
今回は原作が原作なので、「極上文學」シリーズが得意な、“雰囲気で観せる”っていうのが通用しづらい題材だったのかも、と。シリーズ初の「怪奇系」だったし…。
いきなり「ドグラ・マグラ」は背伸びしすぎた感があったかな(汗)…やっぱ「少女地獄」やろうよー。(←しつこい)
でも夢野作品で一番知名度あるのは、やっぱ「ドグラ・マグラ」なんだよなぁ…(^_^;)
個人的には今後も夢野久作作品を扱って欲しいけど…。
もういっそのこと江戸川乱歩作品とかやろうぜ!(笑)