エアル名作劇場『幸福の王子』3 | Ноль минус пять минут

エアル名作劇場『幸福の王子』3

≪『幸福の王子』その2


 夜が明けると、ツバメは上機嫌で旅仕度をはじめました。
「おはようございます、王子様。私たちそろそろ出発しようかと思います」
 王子はまた涙をこぼしていました。
「まだ涙とまんないの?」
「ああ。街はずれの屋根裏部屋に若い絵描きの姿が見えるだろう。女の絵描きだ。でも女は評論家に認められないので男の格好をしている。絵描きは紙に埋もれた机に突っ伏している。彼女はコンテストのために絵を完成させようとしているのだけど、あまりにも寒くひもじいのでもう描くことができないんだ」
「わかりました。もう一つ金剛石を持っていけばいいんですね」
「それがもう金剛石はないんだよ」王子は言いました。
「僕の目は青玉でできている。これは移民歴以前の珍しい宝石なんだ。僕の片目を取り出して彼女のところに持っていっておくれ。そうすれば彼女はそれを宝石屋に売り、食べ物と燃料を買って絵を完成させることができるだろう」
「大事な目をくれてしまうなんて、それは気前が良すぎというものですよ」
「残った目で彼女の絵を見ることはできる」

仕方なくツバメは王子の目を取り出して、絵描きの部屋へ飛んでいきました。


ゼロ・マイナス5分 二羽のツバメは屋根にあいた穴を通ってさっと飛び込み、部屋の中に入りました。
「ぼろっちいし、散らかっているし、一体どこに置いたものかしら」
「ここがいいんじゃない」
 二羽のツバメは相談して置き場所を決めると、素早く青玉を置いてもときた穴から出て行きました。
 絵描きが物音に気付いて顔を上げると、美しい青玉がパレットの上に乗っているのをみつけました。
「これはきっと支援者がくれたに違いない。この街にも私の絵を認めてくれる人がいる」
 絵描きは青玉を光にかざして眺めると、キャンバスに明るい青色を付け加えました。



 ツバメは王子のもとに急いで帰りました。
「さて、今度こそ南の島に行くことにします」
「そんなに南の島はいいものなのかい」
「そりゃあもう、どこまでも青く突き抜ける空、深く透きとおった海。優しく頬をなでる温かい風……」
「美味しいものがいっぱいあるし!」
「今度ここに来るときには、王子のなくした金剛石の代わりに珊瑚を、目の代わりに真珠をお持ちしますよ」
「ありがとう。でもそれは僕より必要な人にあげて」
 王子の涙は流れ続けていました。
「それはどなたですか」
ゼロ・マイナス5分 「綺麗な表通りの向こうには貧民街がある。そこで小さなマッチ売りの女の子が泣いている。マッチを川に落として全部駄目にしてしまったんだ。お金を持って帰らないとお父さんにひどくぶたれるものだから、怖くて家に帰れないんだよ。あの子はやせていて靴も靴下もはいていない。僕の残っている目から金緑石を取り出して、あの子に届けて欲しい。そうすればお父さんにぶたれないで済むだろう」
「いけません。そんなことをしたら、あなたは何も見えなくなってしまうじゃありませんか」
「見て見ぬ振りをするのなら、最初から何も見えない木のうろと同じさ」
 とうとうツバメは泣き始めました。
「お願い」
「うん、わかった」もう1羽のツバメは言いました。
「そんなことだめよ」泣いていたツバメは反対しました。
「人の善意を無駄にすると地獄に落ちるってばっちゃが言ってた」
 ツバメは王子の残った片目を取り出すと飛んでいきました。しばらくしてもう一羽も飛んでいきました。
「あなただけ行かせて、大事な目をうっかり川に落とされでもしたらたまらないから」
「優しいんだね」
「さあ、マッチ売りの女の子を探しましょう」
 ツバメは橋の上で泣いている少女を見つけると、さっと降りて宝石を濡れた籠の中に滑り込ませました。
「とってもきれいなビー玉!」女の子は笑いながら走って家に帰りました。(つづく)

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