『THEフンドシ守護霊』マッスル.27(最終回)救世主 | ゼロ・マイナス5分

『THEフンドシ守護霊』マッスル.27(最終回)救世主

カベソンの剣によって刺し貫かれ、鳥居から転落するルースター。神の入り口からの転落。

時計の消失により元の姿に戻るアヤメ。意識を取り戻したアヤメは、ルースターを助けようとするが、ルースターは既に死神の管轄だった。


今わの際、憑き物の落ちたルースターが死神に語る遺言は深い。

『人間以外の動物にはこの世界はどんな風に見えるだろう?』

『アフリカの湖から一斉に飛び立つピンクフラミンゴを見て、人間はそれを美しいと思う。だが満員電車に乗っている人間を見て、ピンクフラミンゴはそれを美しいと思うだろうか……』

これは人間以外の知的生命体がいくらでもいそうなファンタジー世界では描けない。

人間はそれを想像するから、そこにファンタジーが生まれる。異世界やSFに逃げ込まなくても、日常の中にセンス・オブ・ワンダーを見つけられたというのがこの作品の収穫だ。


ウサギに生まれ変わりたかったというルースターは、ウサギの妖怪にお前が嫌いだと言われていたり孤独すぎる。

『一人になることに怯えて、誰かを求め続けて、ずっと誰かと繋がっていたい』その考えが孤独を産む。

救いは差し出されるものではなくて、自分から手を差し出すこと。ただ待っていたら、やってくるのは死神だけ。

細川世界は優しいが同時に残酷だ。


結局、メシアスは本当に地球の意思だったのかどうかはやぶの中。

作品として「地球の意思」を完全否定してしまうのも、「地球の意思」という虚構を根拠に人間を断罪するのも傲慢になってしまう。真偽をぼかして解釈を委ねるのが「こっち側」にとどまるためのギリギリの選択肢だ。

だいたい守護霊だってご先祖なんだかアヤメの能力が具現化したものなんだかよくわからないし、そもそも人間の意識だってどこからやってきたやら自分でもわからない。人間の心が最大の幻想かもしれない。


生き残ったケータイ降霊のサヤがさりげなく靴とコートを死神に差し出していたり、何があったのか改心したようだ。案外本当に心を入れ替えられちゃってたりして。

死神が担いできた通りがかりの人は老化しっぱなしなのだけど、ルースターを倒したことだし、多分時間かかるけど元に戻るハズ……。


初期のギャグから、ザクロ、スミレ、メシアスの流れはややガタついていて、混乱が見える点もありますが、全体として今言うべきことは描いたと思うし、いい作品でした。


(細川雅巳『THEフンドシ守護霊』秋田書店刊 2007.2008 「週刊少年チャンピオン」掲載)