『ザビ家物語』ソロモンの巻 | Ноль минус пять минут

『ザビ家物語』ソロモンの巻

慈音精舎


慈音精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

万代の富久しからず、春の世の夢の如し。登りし日もやがては沈みぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。


ソロモンの合戦


 さるほどに、ジオンの兵ども、宇宙鏡に打ち滅ぼされ、或ひは白き悪魔に射殺され体を直すに及ばず。

 中将ドズル殿、急ぎ宮に参り給ひて、おののく女房たちに「万一のことも在りなむ。急ぎ船に乗り移られよ」とおほせる。
 ゼナ殿、中将殿に「やや、軍の様は左様に悪しかりしや」と問ひたまへば、中将殿、「だた万一のことぞ。やうやく手に入れたるミネバの為と聞きわけよ」と申され候。ゼナ殿、泣き給へるいとけなきミネバ様を抱き給ひて「御声が大きう候」とおほせければ、中将殿、からからと笑ひて「我こそはジオンの伝統を守りし者也。ミネバを強き子に育て給え」と申され候。
 中将殿、兵どもに命じ残りたる者を集めてこれを最期と打ち出でさせ、自らも兼ねてより整へたる機動ビグ・ザムに乗りて出で候。
 宇宙には、薄紅ひの光輪まさに綺羅星の如く煌きぬ。
 ゼナ殿の乗りたる船、いずちを指すともなくただ中将殿の無事を祈りて離れ行くこそ哀しけれ。
「かやうなものはやりにくき候」と連邦の兵も哀れみてこれを撃たざるなり。


ドズル殿最期


 中将ドズル殿はただ一機、ソロモンの空域へぞ駆け給ふ。中将殿、「世の中は今はかふと覚へ候」と兵どもを遁れさせ、涙をはらはらと流す兵たちに「さらば」とて、一人ビグ・ザムを操り給ふ。打ち行くほどに、新たなる敵モビルスーツ百機ばかり出で来たる。

 かかりしかども、落ち行く兵が行方のおぼつかなさに、振り向き給ふ所を、連邦の兵、ホワイトベースが中尉スレッガーなる者、「哀しかれども此れ戦場也」と言ひて、中将殿の乗りたるビグ・ザムにコアブースターもろとも打ちかかり候。中将殿のビグ・ザム、これをどうと蹴り上げたる。スレッガーの乗りたるコアブースター、宇宙に咲きたる花と散りぬ。

 これを見て、ホワイトベースが白き悪魔に乗りたる少尉アムロ、ビグ・ザムを真つ向よりビームサーベルの鋒に貫き候。ビグ・ザムより出し光輪、暁と燃えぬ。

 中将ドズル殿これを最期とビグ・ザムより打ち出でて、「やらせはせぬ。ジオンの栄光をおのれ等如きにやらせはせぬぞ」とて、白き悪魔に鬼神が如く銃を放ちて光の中に失せにけり。

 ソロモンの空域には、連邦もジオンも、木っ端を嵐の吹き散らしたるに異ならず。魂なき虚しき哀戦士どもは、ただ慣性に従ひて、いずちを指すともなく、流れ行くこそ哀しけれ。


めぐり逢ひ船


 さて、刻すでに遅かれども、ジオンが御方の船、グラナダにおはすドズル殿が姉中将キシリア殿の命にて、ドズル殿を助けむと月より出でてソロモンへと向かひぬ。
 そこへソロモンが方より流れ来る小船一艘、あれはいかにと見つところに、船より助けを求むる信あり。
 艦長、「あれは御方が船。急ぎ助け候へかし」と兵におおせるを、大佐マ・クベ殿艦橋へ参りつつ、「ソロモンが軍の様さぞ悪しかりしや。助け候はむべきはソロモンが御方也。かやうなものは構ふにあたはず。急ぎソロモンへ向かひ候へかし」と宣ひぬ。
 これには艦長、「嗚呼、大佐殿は宇宙に散りゆく兵の情けを存じ候はざるかな。かやうな時、同士相助け給ひ候はむとぞ信ずればこそ、力を尽くして戦へるものを。これを捨て果て給ふは永き御方の疵にて候」と申され候はれば、大佐殿恥じ入りてこれを承ひ候。
 果たしてゼナ殿の乗りたる船、御方に助けられ候。
 世の人、「ゼナ殿助け給ひしはマ・クベ殿にあらず。中将殿の守りしジオンの伝統なり」と皆口々に言ふ也。