印象派以前の作品を案内します。

 ティッセン=ボルネミッサ美術館の元となっているコレクションは、1920年代にドイツの鉄鋼財閥ティッセン家とハンガリー貴族ボルネミッサ男爵家の流れを汲むハインリッヒ・ティッセン=ボルネミッサ男爵が収集したものが最初で、その息子のハインリッヒ・ティッセン=ボルネミッサ男爵は近現代の作品をコレクションに加えていった。

 

ガスパー・ファンヴィッテル『ナヴォーナ広場』

 1699年の作品。ここに行かれた人も多いと思うが、今は地面が石畳になっているだけで、ほとんどこの姿のままだ。

 

アントン・ファン・ダイク『十字架のキリスト』

 ファン・ダイクといえば王侯貴族の肖像画が有名で、あまり宗教画を見たことがなかった。これほどの技量を持ながら意外と作品を見ない。

 以前、彼の生まれ故郷のアントヴェルペン(アントワープ)へ行ったとき、目抜き通りに立派な銅像が立っていた。その碑文を見て、1641年、42歳の若さで亡くなっているのを知った。作品が少ないわけだ。ファン・ダイクはロンドンで客死し、旧セント・ポール寺院(今は焼失してない)にイギリス王チャールズ1世に愛され、王による墓碑銘のもとに葬られた。

 

ヤーコブ・フィリップ・ハッケルト『ガゼルダ宮殿とヴェスヴィオ山』

 

フランソワ・ブーシェ『化粧』

 ブーシェは18世紀フランスの宮廷の優美、繊細な美術様式、ロココの代表的画家だ。若い女性がストッキングをリボンで留めている。その目元にはつけぼくろ。屏風には中国趣味の絵、暖炉の上にも中国製と思しき磁器がある。おめかししてどこへ行くのだろう。

 

ヴァトー『ピエロ コンテント』

 

ヤーコブ・イサク・ロイスダール『ナールデンの眺め』

 17世紀オランダは絵画の黄金時代を築いた。レンブラント、フェルメール、そして風景画のロイスダールはその代表者だ。

 空が大きく描かれ、雲間から陽が大地に所々射している。干拓地であるオランダの水平な大地がよくとらえられている。黒い巨大な建物はナールデンの大教会。よく見ると地平線に何基も風車がみえる。干拓地に入ってくる海水を汲み上げるのに風車を用いた。遠くに光って見える町は20㎞離れたアムステルダムだろうか。

 

レンブラント『帽子と二本の鎖を付けた自画像』

 肖像画は無数といっていいほどあるが、どこが違うかうまく説明はできないが、これはレンブラント36歳頃の絶頂期の最高傑作の一つだ。まるでいまにも言葉を発しそうな存在感のある作品だ。

 

ジャン=オノレ・フラゴナール『シーソー』

 フラゴナールはロココ最後の人で、享楽的で安逸な世界はフランス革命(1789年)以後の大変革とともに軽薄なものとして全面否定にあい、失意と貧困のうちに1806年に亡くなったという。

 

 大きな美術館に行くと、けっこう見かける。ベニスの風景画といえばこの人の作品だ。

 

カナレット『ベニスのサン・マルコ広場』

 ヴェドゥータ(都市景観画)の大家だ。がっちりとした透視図法のこのような絵を描くために、カメラ・オブスクーラという道具を使っていた思われる。

 

カラヴァッジョ『アレクサンドリアの聖カテリーナ』

 

ホセ・デ・リベーラ『ピエタ』

 正面からだと画面が照明で光っていたので少し斜めから撮った。ピエタとは死んで十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの絵画や彫刻作品をいう。

 

エル・グレコ『受胎告知』

 羽の生えた天使が舞い降りてきて、若い女性に話しかけていれば、それはたいてい『受胎告知』だ。英語で‟The Annunciation”というので覚えておこう。

 エル・グレコはギリシア人の意。本名は覚える必要もないが、ドミニコス・テオトコプロス

 

ベロネーゼ『犬を連れた夫人の肖像』

 ヴェロネーゼはティッツァーノ、ティントレットと並んで、ルネサンス後期のヴェネツィア派の画家である。リアルというより装飾的な描写でお金持ちか、貴族の婦人か分からないが堂々たる感じがいい。

 エル・グレコと同じくベローナ出身なのでベロネーゼと呼ばれた。ちなみにレオナルド・ダ・ヴィンチはヴィンチ村出身のレオナルドの意。

 

ルーカス・クラナッハ『噴水のニンフ』

 

同じく『皇帝カルロス5世の肖像』

 

ハンス・ホルバイン『イングランド王ヘンリー8世の肖像』

 跡取りに男の子がなかなか生まれなかったので、離婚を繰り返して6度再婚した。カトリックでは離婚が許されなかったので、イギリス国教会まで設立した。奥さんを浮気したと因縁をつけて処刑したりもした。

 

ドメニコ・ギルランダイオ『ジョヴァンナ・トルナヴオーニの肖像』

 ルネサンス期の絵画に見られる真横から描いた肖像画。装飾的で美しい。

 

ジェラルド・ダヴィッド『磔刑』

 

ウィレム・クラーズ・ヘダ『フルーツパイと様々なオブジェのある静物』

 シャルダンかと思ったら、私の知らない画家だった。光沢のあるグラス、銀器、パイ、テーブルクロスの質感が巧みに描き分けられていて素晴らしい。

 

ペーター・パウル・ルーベンス『ロザリオを持つ若い女性の肖像』

 いかにもルーベンスらしい豪華絢爛、華麗な作品だ。

 

アノミノ・フラメンコ『エジプトへの逃避行中の休息』

 聖母が幼く可愛らしい。背景の町、ベツレヘムでは子供たちが殺されている。

 ベツレヘムに生まれた「ユダヤ人の王となる子供を恐れる」ヘロデ王の幼児虐殺から逃れるため、聖家族は幼いイエスを連れてエジプトに赴き、難を逃れようとした。

 

ジョヴァンニ・アントニオ・ボルトラッフィオ『聖ルチアに扮した貴婦人の肖像』

 

フランシスコ・デ・スルバラン『聖カシルダ』

 

フランス・ハルス『ヴァイオリンを持った漁夫』

 

ジャン=バプティスト=シメオン・シャルダン『猫と魚のある静物』

 こちらが静物画の巨匠シャルダンの作品だった。

 

 ティッセン・ボルネミッサ美術館を堪能して、歩いて帰るつもりだったが、さすがに疲れたのでバスで帰った。

 日本のバスのセンスと違うね。

 

 ヘンリー8世の寵愛を受けたアン・ブーリンの話。主演はナタリー・ポートマン。