『ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」』(L・V・ベートーヴェン作曲)
 ヴァイオリン・ソナタというとこの曲以前は、ピアノは伴奏的な役割を演じてきたが、ベートーヴェンはこの曲をヴァイオリンとピアノが相競って力強く情熱的に絡み合う画期的な曲として作曲した。
 ベートーヴェンはイギリスのヴァイオリニスト、ブリッジタワーと協演するためにこの曲を作曲したが、初演の直後2人は仲違いしてしまい、そのため当時ウィーンのフランス大使館員でヴァイオリニストだったルドルフ・クロイツェルにこの曲を捧げた。「クロイツェル」という名称がついているが、それほどの意味はない。
 
『クロイツェル・ソナタ』レフ・トルストイ著
 セックスにたいする異様とも思える程の否定の書だ。列車で出会った男が冷めた目で自分の身の上に起こったこと、恋愛観、結婚観を詳細に語る。男の妻が音楽の個人教授を受けているのだが、やがてその音楽教師と妻の関係を疑うようになる。あるとき二人がベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを演奏するのを聴いて、その情熱的なデモーニッシュな響きに、二人の関係が確信にかわり、嫉妬のあまり妻を刺し殺してしまうのだった。
 トルストイはクラシック音楽の造詣も深く、自らもピアノの演奏をした。モスクワのトルストイの家へ行くと家族で楽しんだグランドピアノを見ることができる。 
 
『弦楽四重奏曲 第一番《クロイツェル・ソナタ》』(ヤナーチェク作曲)
 ヤナーチェクはトルストイの『クロイツェル・ソナタ』を読んで、この曲を作曲した。
 ヤナーチェクは56歳の時に38歳年下つまり18歳の人妻と恋に落ち、彼女に600通にも及ぶ手紙を書いた。ヤナーチェクの名作と言われるものは、その恋が始まってからのものがほとんどだという。この曲は69歳のときの作曲で、ヤナーチェクは嫉妬のあまり妻を殺してしまう男に自分をみたのだろうか、冷めた夫婦関係から別な男に走った妻に同情したのだろうか。
 このCDのカップリング曲は意味深だが『ないしょの手紙』だ。 
 
 YouTubeにちょうど私が持っているCDの録音があったので、第一楽章だけだがその真骨頂がわかるので聴いていただこう。ヴァイオリンはパールマン、ピアノをアシュケナージという大御所の演奏だ。