星野道夫著「イニュニック(生命)」
イニュニックとは、まったく聞きなれない言葉だが、エスキモー語で〔生命〕という意味だそうだ。星野は写真家であるとともに文章家だった。平明で透明感のある文章で、極北の地アラスカの原野に生きる動物とエスキモー、アラバスカン・インディアン、白人の友人たちを描く。この本の中でもっとも感じるのは一種の孤独感だ。一人で寂しいとかいう孤独ではなく、時間の中を旅する一個の生命として生きる動物であり、人間であることの孤独だ。彼の撮った写真の中では、さらに如実に生きることの厳しい孤独を感じる。高峰マッキンレーを背景に、手前には壮大な針葉樹の森とツンドラが広がり、湖畔にはぽつんとムースが佇んでいる。同様な主題で撮られたグリズリーを見ればそれが分かるだろう。
水草を食むムース。背景はマッキンレー。
子供を連れたムース。
壮大な風景の中を行くグリズリーの親子。
1996年、星野はテレビ番組の撮影のために訪れていた、カムチャッカ半島南部のクリル湖畔に設営したテントで就寝中に、ヒグマに襲われ死亡した。43歳だった。
