今日は「プラド美術館」と「サンフェルナンド・アカデミー美術館」のゴヤの絵を紹介しましょう。ゴヤの絵に興味がある方はプラドだけではなく、是非サン・フェルナンドにも行って欲しい。

 「プラド美術館」のベラスケス門の前にあるベラスケスの銅像。金髪美人のガイドさんによるとベラスケスという苗字は、日本の鈴木さん伊藤さん並みの平凡な苗字だそうだ。
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 「サン・フェルナンド・アカデミー美術館」
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 「カルロス4世家族」(プラド美術館所蔵)

 荒いタッチで描かれている。きっと宮廷画家だったゴヤはベラスケスの絵を見ていたに違いない。その影響をみてとることができるが、ベラスケスには及ばない。
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 「着衣のマハ」(プラド美術館所蔵)

 絵に興味のない人でもこの絵ぐらいは知っているだろう。しかし大学の卒業旅行でスペインへ行ったという我が社の若い社員とこの絵の話をしていたら、私に「マハ」じゃなくて「マヤ」でしょと言った。マハを人の名前だと思っているらしい。粋な女のことを「マハ」、伊達な男のことを「マホ」という。
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 「裸のマハ」

 モデルはアルバ公爵夫人という説もあったようだが、次に紹介するゴドイの愛人ペピータ・トゥドーだという。ゴドイの部屋の壁には「裸のマハ」の前に「着衣のマハ」が飾ってあって、「着衣のマハ」が上下するようになっていたそうだ。女性の裸は神話のヴィーナスなどに限られ、個人の裸を描くなどというのは宗教裁判ものの言語道断な所業だった。スペインでは多くの人が宗教裁判で処刑された。ゴヤには頭に三角帽子を被せられ、宗教裁判で裁かれる人や処刑される人を描いたエッチングもある。
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 「着衣のマハ」と「裸のマハ」の所有者だった「マヌエル・ゴドイ」(サン・フェルナンド・アカデミー美術館所蔵)、コテコテの脂ぎったいかにもスペイン的な人物で、王妃の愛人となって何と25歳で宰相になった。先に挙げた「カルロス4世家族」の王妃が手をつないでいる子供は、ゴドイの子供だとも言われている。カルロス4世は機械時計を集めたりいじったりするのが趣味だった。政治に全く無関心な国王だったようだ。そのため王妃の方が政治的な影響力があったのだろう。暗愚な国王は、ゴドイには「神輿(みこし)かつぐなら馬鹿がいい」とみえたかもしれない。ゴドイは王妃と喧嘩をして、王妃の子供たちの前で王妃を殴ったりもしたという。王妃のただの若いツバメではなかったようだ。
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 ゴヤの「自画像」(サン・フェルナンド・アカデミー美術館所蔵)。アラゴンの石頭と呼ばれたゴヤもスペイン的人物だ。面構(つらがま)えからもわかる?
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 「黒い絵」(プラド美術館所蔵)シリーズの中の「運命」、空中に浮かぶ三人の人物はマクベスが荒野で出会う三人の魔女を想起させる。その中の台詞“Fair is foul,and foul is fair”は、「綺麗は汚いで、汚いは綺麗」あるいは「いいは悪いで、悪いはいい」などと訳されていて、“f”の音の頭韻を踏んでいる。美と醜、善と悪が同じだと言っており、まさにフランス革命がスペインにまで波及し価値観が転倒しようとしていた。
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 「ボルドーのミルク売り娘」(プラド美術館所蔵)

 この絵は日本にも来たことがあるが、ゴヤ最後の絵である。ゴヤ80歳~82歳頃の作品と推定されている。絵としては「老いたるにやありけん」という感じは否めないが、好きな作品だ。ボルドーへ亡命しているとき毎日驢馬に乗って牛乳を届けに来たという少女の肖像で、下から見上げて空が大きく描かれている。現在でも人口100人そこそこのフエン・デ・トードス村から野心を抱いて宮廷画家にまでなり、アルバ公爵夫人(国王に次ぐ大貴族で、今でも子孫はリリア宮殿という宮殿!に住んでいる)との恋など波乱万丈の人生も、フランス革命の余波を受けてとうとう亡命するまでに至った。マドリッドはフランス軍に占領され、戦争の惨禍も戦争による民衆の恐るべき醜悪な姿も目の当たりに見た。戦闘場面や銃殺の場面、幻想的な黒い絵も描いた。しかし最後にこの絵を描いたのをみると何か救われた気持ちになる。

 ゴヤの気持ちを詩的に書いたとしたらこんなだろうか。ゴヤの見た永遠の女性?彼女はゴヤを天上の世界へ連れて行っただろうか?

 ゲーテは「ファウスト」を20代から書き始め82歳で亡くなるまで、60年もの歳月をかけて書き上げた。「ファウスト」はゲーテの世界解釈だともいえる。

 

 ≪神秘な合唱≫

 

  なべて移ろいゆくものは、

  比喩にほかならず。

  足らわざることも、

  ここにて高き事実となりぬ。

  名状しがたきもの、

  ここにて成しとげられたり。

  永遠の女性、

  われらを高みへ引きゆく。

                   ゲーテ「ファウスト」(手塚富雄訳)の最終行

  
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 スペイン旅行へ行く前には、ガイドブックだけではなく、四巻組でちょっと長いが是非これを読んでいきたい。堀田善衛の「ゴヤ」だ。ゴヤの評伝だがスペインの精神というかディープな部分が分かったような気がする作品だ。もちろんスペインへ行く予定がなくても、十分に読み応えがあり、長さも感じさせないほどの大変面白いものだ。
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