認知症患者のJR事故と家族の責任 | 福岡の弁護士 矢口耕太郎のブログ

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こんばんは!

今日は
91歳の認知症患者がJRの線路に入って列車と衝突して死亡した事故で

JRが患者の85歳の妻と長男を訴えた裁判の最高裁判決が出ました。


この判決、介護をしている方にはとても気になる内容だったのではないでしょうか。


今、最高裁のホームページから判決全文を読んでいますが、本当に良かったなあと思います。

全部で32頁もありますが、12頁以降は木内裁判官の補足意見と岡部裁判官、大谷裁判官の意見が書かれてあります。

ちなみに、「補足意見」というは、判決の結論や論理をより詳しくしてくれているもので、より理解しやすくなります。
「意見」というのは、結論は同じだけれども、理由が異なることについて意見を述べたものです。岡部裁判官と大谷裁判官は長男を監督義務者に準ずべき者にあたるとしたうえで免責しています。


簡単に今回の判決文を説明すると


①法律上、同居している配偶者、保護者や成年後見人というだけで、監督義務を負う人にはならなない。
                 ↓
②ただし、責任無能力者との身分関係や日常生活における状況から、第三者に対する加害行為の防止に向けて監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、監督義務を負うものと同視して民法714条の責任を問うことができる。

                 ↓
③妻は、介護はしていたけれども85歳で両足に麻痺があって要介護1の認定を受けていた状況だったから、患者の第三者に対する加害行為を防止することは現実的にできなかった
 長男は、横浜に暮らしていて20年以上同居しておらず、1カ月に3回程度週末に訪ねていただけだから、現実的に監督することができなかった。

                 ↓だから
④責任は、負わない。



「介護の引き受け」と「監督の引き受け」はあくまで異なるわけですね。



補足意見の中で、もともと保護者の監督義務削除の理由について「46時中本人に付き添っている必要があり、保護者、後見人の負担が重過ぎる」という記載が印象に残りました。

私は実際に介護を経験したことはありませんが、母が祖母と祖父の介護をずっとしていて、朝から夜まで休みなしで介護していて、本当に大変だなあと感じていたので、実際そのとおりだと思います。



今回は、どんなケースでも責任を負わないとしたわけではないことに注意しなければなりませんが、介護の現実を踏まえた温かい判断だったと思います。