私の両親は私が子供の頃に離婚しています。

父は自由奔放な人で、家族を捨てて家から出ていきました。

 

父がいないため貧しい暮らしをしてきて、服はいつもいただきものかつ兄のおさがり。

穴が開いたズボンを母が繕ってくれて履いていましたが、そのつぎはぎが嫌で仕方ありませんでした。

 

「おさがりばっかりじゃなくて、たまには新しい服がほしいな...」

 

そのように言った時の母の困ったような笑顔は今でもはっきりと覚えています。

 

母は女手一つで子供二人を育ててくれました。

兄は働きながら専門学校まで行き、私も大学に通わせてもらいました。

私は中学を卒業するときに、当時仕事を2つ掛け持ちしていた母に少しでも楽をさせたくて、

 

「中学を卒業したら働くから」

 

と言ったのですが、母は、

 

「あなたは勉強ができるんだから、将来のために高校に行きなさい」

 

と言って、私立の大学付属の高校に進学させてくれました。

 

私が高校に入ってから、母の仕事量は増えました。

それでも、

 

「あなたが頑張って勉強してるから、こんなのへっちゃらよ」

 

と言って、笑っていました。

 

高校卒業時にも就職して働くと言ったのですが、

 

「せっかく大学付属の高校に行ったのだから、大学に行っておきなさい」

 

と言って、大学にも進学させてくれました。

 

*****

 

それから30年以上が経ちました。

母はすっかり小さくなりました。

でも、不思議ですね。

母にとって私はまだ小さな子供のようです。

80歳を超えた母は今も元気に仕事をしていて、一人で生活しています。

もう高齢なんだから、同居でもしようかと言ったこともあったのですが、

 

「同居なんかしたら、奥さんがかわいそうだから」

 

と言って、笑っています。

 

いつも私の前に立って、大変なこと、困難なことから私を守ってくれました。

いつも大変な重荷を背負って、それでも笑顔でいてくれました。

 

『もう、その重荷はおろしていいんだよ』

 

私はそう思っているのですが、きっと母は変わらず、私の前に立ち続けるのでしょう。

それならそれで、私は後ろからそっと母を支えようと思います。

 

父は数年前に亡くなり、そして兄も昨年若くして亡くなってしまい、この世で母子二人きりとなりました。

母の残りの人生で、できる限りの恩返しをしようと思います。

 

私も自分の子供たちに私の母のようにできただろうかと思います。

親から子に受け継いでいくこととは、こういうことではないかと思います。