うちの子の中学校の後輩に柔道がとても弱い子がいました。
痩せていて背も低く、小学生の頃はいつも負けてばかり。
うちの子の1学年下の後輩として中学校に入学してきて、弱いけれど楽しそうに柔道をする子でした。
入学して間もない頃に試合があり、その試合の応援に行った時のこと。
その子のお母さんと隣の席になりました。
「うちの子は弱いんですけど柔道が楽しいらしくて」
そのような会話をしました。
試合が始まると、その子はやはり一回戦であっさりと負けてしまいました。
しかし、うちの子など他の子たちは結構良い結果でした。
「先輩たち、すごく強いんですね。いい学校に入れてよかった。私すっかりみんなのファンになっちゃった!」
そのお母さんはそのように言いました。
しかし、その後そのお母さんは練習を見に来ることもなく、試合に応援に来ることもありませんでした。
『なんだ、あの時の試合の雰囲気であんなこと言っただけだったんだな...』
と、私は思っていました。
それから半年ほど経って、その後輩の子が練習を休みました。
いつも休まず熱心に練習をしていたので珍しいなぁと思ったら、顧問の先生から、
「あいつ、お母さんが亡くなったんです。ガンだったそうです」
と、聞きました。
私は言葉がでませんでした。
あんなに楽しそうに試合を見ていた姿。
後で知ったのですが、その時にはもう外出するのも難しい状態だったそうです。
自分の余命を知ったうえで、あんな輝くような笑顔を...。
最後までお子さんのことを気にかけて、ご主人には申し訳ないと謝り続けていたそうです。
その彼も現在は大学生となり、先日試合場で会いました。
痩せていた体はすっかりたくましくなり、お母さん似の顔は凛々しさを感じさせました。
高校生以降柔道をかなり頑張ってなかなかに強くなったようでしたが、その試合は一回戦で敗退。
負けても堂々とした姿を見て、心の中で彼のお母さんに、
『立派な青年になりましたね』
と、語りかけました。
試合の後に話しかけたら、大学卒業で柔道は引退するとのことでした。
やりきった。
お母さんも彼のことを誇りに思っていることでしょう。
こういう貫き方もあるのだなと思いました。
何を目指すのか。何を貫くのか。
彼の生き様に、人生何が大事なのか教えられたように思います。
息子さんは立派でしたよ。
もし彼女に話すことができるならば、そのように伝えたいと思います。