性犯罪の刑法改正審議が大詰めを迎えています。いよいよです。

2019年から約1年間だけですが当事者を中心とした団体で活動しましたが、まあ、傷つけ合うことも多くございまして、離れました。できることなら、もうこの問題には関わらず、そっと見守りたい。そんな風に思っているのでありますが、連日、ジャニーズの件も報道されていて、心がざわざわと落ち着かず、今思うことを活字にしてみようと思います。

 

過去、ジャニーズに所属していたタレントさんが本を出し、また文春が特集したときに、大手マスコミ、特にテレビは報じなかった。それは、ジャニーズに忖度しているからだという側面もあるのでしょう。でも、この件は、事件にならないので報道はできなかった。処罰できる法律がないのですから。2017年までの性犯罪の刑法は、被害者を女性に限定していました。男性が男性に、ということは想定されておらず、声をあげたところで、まさに「城壁に石」でした。ニュース報道できる価値判断として、まずは、事件として成立するかどうか、なのです。当時、警視庁クラブの生活安全課担当で、未成年との強制性交事案もいくつか取材したので学びました。ワイドショーならできたか?社会は「ほもおだほもお」で笑っていた時代です。下手にとりあげることで、現役のスターに火の粉が及びます。イメージダウンです。そんな恐ろしいことはできないでしょう。警察にしても、告訴を受理するかどうかは、事件として起訴できるかどうか、です。冷たい対応、鬼、血も涙もない、と被害者は思ってきましたが、警察だって事件にならないのだから取り扱いようがないわけです。

 

性交同意年齢は13歳。13歳以上は、暴行や脅迫があったことを被害者側が証明できなければ、合意があったとみなされます。事件にはなりません。たとえ、相手が親で、長年にわたり性交を強いていても、断ろうと思ったら断れたでしょと無罪判決なんてのが出てしまったのです。むちゃくちゃでした。内閣府の調査によると、「異性から無理矢理性交された経験のある人のうち警察に連絡、相談できた人」は2017年で3%、2021年でちょと増えて5%。相談ですから、そこから事件化できたのは一体どれほどの数か。ほとんどの被害者がなすすべなく、心に深い傷を負って、様々な後遺症を背負って、生きていくのです。いや、死んでいった人もたくさん、たくさんいます。

 

マスコミが悪い、警察が悪い。それもある。でも、本質はそこではない。法律がない、というのが何よりも問題。法律がなければ、それが犯罪だと思わない、思えない。性別問わず子どもとの性行為は犯罪です、とちゃんと明記しないことには、成人の、たとえば、40,50のおっさんが14歳の中学生とのSEXを「真摯な恋愛だもん、何が悪いの?」という妄言がでてくるのです。経済力もなく、大人の保護下にあり、対等な関係になり得ない子に対して、抵抗しなかったから同意しているというの?それは、間違いであると、法律が示さないとわからない人がいるのです。法律家は、いままで一体何をしてきたのでしょう。被害者の声を無視してきた法曹界に大いに責任があるのと違いますか。法曹界だけでなく、立法府、国会議員の皆さんも。

 

今国会に提出されている法案では、強制性交等罪と準強制性交等罪を1つにして「不同意性交等罪」とする。これはとてもわかりやすくていい。準強制性交等罪は、心神喪失または抗拒不能に乗じて、性交等をしてはならない、となっていました。要するに、強制性交等罪は暴行脅迫があった場合、準強制性交等罪は暴行脅迫はないけれど、精神的な障害や抵抗するのが困難、つまり抗拒不能な場合に事件として成立する、ということなのです。が、この「抗拒不能」っていうのがめちゃめちゃ曖昧で、裁判官によってどうとでも解釈可能でブレブレだったのです。だから、これを1つにまとめて、抗拒不能を具体的に列挙したのが今回の法律案。8つの構成要件があります。

 

・暴行・脅迫

・心身に障害

・アルコール・薬物

・睡眠・意識不明瞭

・不意打ち

・恐怖・驚愕

・虐待

・地位の利用

 

これは、私たちが求めてきたものの満額回答な感じです。さらに、盗撮などに対し「撮影罪」、何度も面会を要求して裸の画像を送らせたり、手懐けて性交したりするのを禁じる「性的グルーミング罪」というのも新設されます。

 

処罰される範囲が広がった、と考えるよりも、当然処罰されるべき範囲が明確になった、といえる改正です。中には、反発、懸念を覚える人もいらっしゃるようですが、法律が変わるときは多少ギクシャクするものです。でも、だんだん、その価値観が社会に浸透していくのだと思います。性別問わず誰もが性犯罪の被害者になるのだという認識も、2017年の刑法改正があったからこそ。ようやく、長い長い沈黙の後に、覚悟を決めて発した幾人もの声を、無視せず、受け止める社会になったのだ思います。被害者が声をあげて、共感する人が増えてきて、議員が動き、法務省が動いた。社会を変えるのは、マスコミでも政治家でもなく、1人1人の力なんだなあと改めて思います。みんな、がんばったね。

 

公訴時効、5歳差案件など、まだまだ検討課題もあるけれど、確実に大きく前に進むことになる。同時に、子どもたちを被害者にも加害者にもさせたくない。性教育ちゃんとやりましょうよ。性教育は人権教育です。自分の体は自分のもの。自分を大事に、相手も大事に、自分の境界線に勝手に入られてはいけない。ジェンダー平等、家庭の中での立場も対等、生きていく上で一番大切な教育。物心ついたときから、はじめてもいいんじゃないかと思うのです。