レイプ神話というのをご存じだろうか。レイプにまつわる大きな誤解、間違った思い込みのこと。

 

WHOが公表しているものをいくつか紹介する。

 

・女性はレイプをされたと嘘をつく。→偽りの報告をする者は非常に少数である。

・見知らぬ者がレイプする。→大多数のレイプは顔見知りの犯行である。

・レイプは目立った外傷を残す。→ほとんどのレイプは強い力は使われないので身体的外傷はみられない。身体的外傷がないからレイプされていないということにはならない。

・女性の「ノー」は「イエス」という意味である。→「ノー」は「ノー」

・レイプは直ちに警察に届ける。→大多数のレイプは決して警察に報告されることはない。報告されたとしても多くは発生から24時間以上経ってからである。被害者が全く報告しないか、または報告が遅れるのは被害直後は何もできないし、家族やコミュニティーの反応を恐れたり、恥を感じたりするからである。

 

杉田水脈さんは、このWHO報告をご存じないのでしょう。WHOでなくとも、性暴力当事者の声を一度でもちゃんと聴けば、誤解は解けると思うのですが残念です。

 

日本の今の性犯罪の刑法は、暴力や脅迫、あるいは抗拒不能(抵抗することが困難な状況、例えば酩酊など)がなければ事件とみなされない。抵抗しようと思えばできたはずなのにしなかった、あんたが悪い、ということだ。

だけど、多くの人は、恐怖で凍り付いてしまったり(フリーズ)、命を守るためにおとなしくしたり、13歳以上であっても性行為の知識がなく何をされているのかがわからなくて抵抗する選択肢がなかったり、相手が先生みたいな人だったら従うものだと思っていたり、言いくるめられて恋愛だと思い込まされたり、まあ、いろんなケースがあるのだけれど、要するに、暴行脅迫がなく外傷のないレイプはゴマンとあるのだ。血が出なかったから、大丈夫でしょ?そんなことあるわけない。全治何十年にも及ぶ心の傷を負うことになるし、生涯治らない障害者になることもある。精神医学自体が医学の中で軽視されてきた歴史があるが、精神をコントロールできない状況に陥るとき、人は死ぬのだ。だから私は自殺を美化するのも非難するのも間違っていると思っている。自殺は病気だ。依存症もその人の弱さではない。病気だ。深刻な病気を誘発する出来事、それが性暴力だったりする。

 

暴力や脅迫がなくても、性暴力の影響は果てしなく長く続き、精神をむしばむものだということを私は去年1年間、多くの政治家にお会いして話をしてきた。話をした方は、みなさん、理解をしてくれた。でも、暴力脅迫要件を刑法から外し「同意がなければ犯罪」とするのはハードルが高くて難しいだろうという人が多かった。だから、まず性交同意年齢、時効だけでも見直そうか、という人も。

 

でも、同意がない性交が許されるという状況こそ変えなければいけないところ。喧嘩して、逆恨みされて、「私は同意していなかった」と訴えられたらどうしよう、なんて心配をする人もいるかもしれない。でも、本当に訴えるというのは、時間もお金も精神的にもめちゃめちゃ大変で負担しかない。事実でなければ訴えたりしない。それでも、暴行脅迫=性犯罪という図式がすりこまれているのか、同意なし=性犯罪はなかなか受け入れられない感触だった。

 

と・こ・ろ・が

 

今大注目の(!!)日本学術会議が政府に対して政策提言を出しました。

要約ページをリンクします。


「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて―性暴力に対する国際人権基準の反映―」

 

なんとなんと!

感動のあまりしびれました。

 

もう全文真っ赤にしたいぐらい。

「No means No」にとどまらず、「 Yes means Yes」を目指すことまで言及があった。

暴行脅迫の有無が問題なのではなく、同意の有無を問題にする。さらには、「その性行為は、自由意志による参加ですか、そうでないですか」というところが問われるということだ。

ネットで暴力的に流れてくる性的なマンガに慣れてしまって、「いや、やめてー」からの「うふん」みたいなのがマナーだと思っている子もいるかもしれないが、いやなものはいや、いいものはいいと、はっきり言うことがスタンダードにならないと性暴力は減らないと思う。何故なら、今は「同意してると思ったんだもん」といえば、罪に問えないケースが多々ある。

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提言1 法務省は、附則9条に沿って2020年に刑法のさらなる改正案をまとめ、立法府ですみやかに法改正を実現すべきである。

 

提言2 刑法のさらなる改正にあたっては、日本国憲法が定める人権(プライバシー権)の一つである「性的自己決定権」を尊重するためにも、また、国際人権基準を満たすためにも、立法府及び法務省は、性犯罪規定を「同意の有無」を中核とする規定に改めることを最優先課題として取り組むべきである。

 「性的自由/性的自己決定権」は、日本国憲法13条が定める「プライバシー権」に属する。判例・学説も、「性的自由/性的自己決定権」が刑法177条や178条によって守られる利益(保護法益)であるという点で一致している。また、性暴力に対する刑罰法規について国際人権基準の中核とされているのは「同意の有無」であり、この見地に基づく勧告が国連人権諸委員会から日本政府に幾度も出されている。刑法改正にあたっては、国際人権基準に則り、諸外国の刑法改正を参考にして、少なくとも「同意の有無」を中核に置く規定(「No means No」型)に刑法を改める必要がある。その上で、「性的自己決定権」の尊重という観点から、可能な限り「Yes means Yes」型(スウェーデン刑法)をモデルとして刑法改正を目指すことが望ましい

 

提言3 刑法の性犯罪規定を「同意の有無」を中核とする規定に改正するためには、「暴行又は脅迫」及び「抗拒不能」を犯罪成立の構成要件からはずすことが必須である

 日本で「同意のない性行為」が訴追・立件されなかったり、無罪となったりする主要な理由は、「暴行又は脅迫」や「抗拒不能」が犯罪成立の構成要件とされていることにある。「暴行又は脅迫」及び「抗拒不能」を犯罪成立の構成要件からはずし、あくまで,「同意の有無」を判断基準として、これらの要件は刑罰を重くする事由とすべきである。

 

提言4 性交同意年齢の引き上げや配偶者間レイプ規定の導入など、2017年改正で実現しなかった他の改正課題も多くあり、これらについても、今後、順次改正を行っていくことが求められる。

 「同意の有無」を中核とする最優先課題以外にも現行刑法には多くの改正課題が指摘されている。たとえば、性交同意年齢の引き上げ、18歳未満の者に対する監護者以外の地位利用規定の創設、配偶者間における強制性交等罪(配偶者間レイプ)成立の明確化、性犯罪に関する公訴時効の撤廃・停止男性器以外による性交等の追記などである。少なくとも、国際比較からしてきわめて低い13歳という性交同意年齢は16歳にまで引き上げられるべきである。

 

提言5 刑事司法におけるジェンダー視点の主流化を実現するために、法曹界は自ら法曹三者に対するジェンダー教育を進め、法務省・裁判所・検察庁・弁護士会・警察は、性暴力事件にジェンダー平等に理解のある法律家や警察官を関与させるシステムを構築すべきである。また、高校・大学や自治体は、学校教育や市民への啓発活動を通じて、性規範をめぐる「無意識の偏見」を社会から排除するよう努めなければならない。

 性暴力事件では、判断者(裁判官、検察官、弁護人)のジェンダー・バイアスが「経験則」として判断に反映されやすい。このような「司法のジェンダー・バイアス」を克服するには、法学部・法科大学院や司法研修所等の法曹養成教育や実務家研修におけるジェンダー教育の徹底が不可欠である。性暴力防止システムの総合的改革を目指して、裁判関係者のジェンダー・バランスへの配慮を求める国際刑事裁判所規程等を参考に、日本でも刑事司法におけるジェンダー視点の主流化を進めることが求められる。市民が裁判員裁判に参加することをふまえ、高校・大学や自治体は、学校教育や市民への啓発活動を通じて、性規範をめぐる「無意識の偏見」を社会から排除するとともに、性犯罪の特性や性犯罪被害者特有の心理についての市民の理解を高めるよう努めなければならない。

 

無意識の偏見を社会から排除する立場にある政治家が・・・・ああああ・・・・先週は、杉田発言のために、古傷が騒ぎ、涙が止まらなくなって、完全にフラッシュバック、後発性PTSDの症状が出てしまってきつかった。でも、日本学術会議の提言を読んで、心が今日の空のように晴れ晴れとしてきた。

 

全文はこちら。長いけど、読むぞ!おー!

 

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t298-5.pdf

 

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立されました。

日本学術会議の役割は、主に以下の4つ。

  • 政府に対する政策提言
  • 国際的な活動
  • 科学者間ネットワークの構築
  • 科学の役割についての世論啓発

日本学術会議を政府は尊重してほしいと心から思います。