「作業員を馬毛島に連れていくだけで日当8万円」「みんな先がないことは薄々気づいている」… 国防最前線の島で起きている「基地バブル」と「揺るぎ始めた平和」

 

 

「作業員を馬毛島に連れていくだけで日当8万円」「みんな先がないことは薄々気づいている」… 国防最前線の島で起きている「基地バブル」と「揺るぎ始めた平和」

「作業員を馬毛島に連れていくだけで日当8万円」「みんな先がないことは薄々気づいている」… 国防最前線の島で起きている「基地バブル」と「揺るぎ始めた平和」

潤う島民と妬む島民

潤っているのは飲食店ばかりではない。島内のパチンコ店やカラオケ店も大人気で、駐車場には大分や愛知など、県外ナンバーの車が並ぶ。また、ホテル・旅館も満室が続いている。

西之表市内の不動産会社経営者が明かす。

「作業員の住むところが足りないから、アパートや一軒家を借りる建設会社も多い。そのおかげで、西之表の賃貸物件の家賃は3~5倍になりました。家賃3万円のアパートが8万円、5万円の一軒家が20万円といった具合です。物件のオーナーからしても高い家賃を払ってくれる工事関係者に貸したいから、もとから住んでいた人が追い出されるということも起きています」

それでも作業員の住居は足りず、島内にはコンテナ宿舎も多数建設されるようになった。内部にエアコンやベッド、冷蔵庫などが設置された宿泊用コンテナが、空き地に何十棟も置かれているのだ。西之表市内を少し車で走れば、数多く見ることができる。

 

「コンテナ宿舎は作り過ぎて、全部が埋まっているわけではない。それでも次々に建設されるのは、コンテナ一棟につき月15万円の補助金が出るから、という噂です」(同前)

一方で、こういった「基地マネー」は、種子島住民の間にこれまでになかった諍いも生んでいる。恩恵を享受できなかった島民が、急に生活水準を上げた島民を妬む、という現象が生まれているのだ。

両親とともに種子島で暮らす40代の主婦が言う。

「同級生の家族が、西之表市内の一軒家を県外の建設会社に貸したんです。家賃は月20万円。その同級生は他にも島内に土地を持っていて、そちらも資材置き場やコンテナ宿舎として貸し出しているらしく、かなりの収入を得ている。

そのお金で、子供を福岡の専門学校に行かせて、この円安なのに冬には家族でハワイ旅行にも行ったそうです。車も新車に買い替えて……。うちも土地はありますが、傾斜地で借り手はつかない。同級生としてずっと仲が良かったけど、今ではほとんど口を利くことはありません」

種子島から馬毛島へ作業員を運んでいるのは、地元の漁師たちだ。種子島漁協の組合員約400人の一部が「海上タクシー」となり、毎日、作業員を運んでいる。

祖父の代から漁業を営んでいるという、地元漁師(30代)が本音を明かす。

「作業員を馬毛島に連れていくだけで、日当8万円。一往復だけでもこの金額がもらえます。そりゃ漁を続けるのがバカらしくなるよ。最初は基地に反対していた漁師も多かったけど、次第に基地に協力する仲間が増えていった。海上タクシーだけでなく、馬毛島周辺の警備の仕事をしている漁師も多いですね。

このあたりではトビウオ漁やもじゃこ(ブリの稚魚)漁が伝統的な漁業だけど、基地建設が始まってからは漁をやめてしまった人も少なくない。そもそも、馬毛島周辺が漁業制限区域になってしまったから何もできないですしね」

中国に狙われるのは間違いない

冬から春の時期は波が高く、馬毛島に近づけないため海上タクシーも休業を余儀なくされる。また、馬毛島に建設中の桟橋が完成すれば、大型船が着岸できるようになり、漁師は用済みになるという。

別のベテラン漁師が語る。

「船は動かしているから使えるけど、漁の道具も漁師の腕も錆びついてしまっている。基地建設が終われば漁場も元に戻ると国は言っているけど、それを信じている漁師はいません。基地建設が終われば、この島の漁師もほとんどが廃業ですよ。みんな先がないことは薄々気づいている。でも結局は、目先のカネには勝てないですよ」

馬毛島の買収が決まった'19年当時は反対運動も盛んだったが、現在は「基地反対」などと書かれたのぼりがちらほらと見られるだけで、目立った動きはないという。

 

かつて反対運動に参加していたという陶芸家の男性(80代)は、ため息をつきながらこう語った。

「本当に恐ろしいのは戦争のリスクです。中国と戦争になれば、馬毛島や種子島が攻められるのは目に見えている。種子島には自衛隊の宿舎も建設中ですから。軍事基地というイメージがつけば、観光客も来てくれなくなるでしょう。

でも、私は疲れました。我々老人がいくら戦争の恐ろしさを訴えても、アメリカの言いなりである国の決定は覆らない。私はもう、集落の集会に出るのもやめました」

種子島を取材していると、農地が荒れた、漁師が漁をやめたことで地魚の値段が高騰した、日用品やガソリン代も値上がりした、といった声がそこかしこで聞こえてきた。

基地によって、種子島がかつてない好景気にあることは間違いない。しかし一方で、島にギスギスとした空気が漂っているのもまた事実だ。

台湾有事のリスクが叫ばれるなか、国防の最前線に置かれた島の平和は、すでに揺るぎ始めている。

「週刊現代」2025年4月28日号より