「毎日新聞」2024年6月24日付け朝刊社説

 

 国と地方の対等関係が損なわれる転換点となりかねない。厳しく監視していく必要がある。

 緊急事態に備え、国から自治体への指示権を拡大する改正地方自治法が成立した。衆院と同様、参院でも十分な審議が尽くされないままの決着である。

 

 法改正により、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が発生したと認定した際、政府は関係する自治体に必要な措置を指示できるようになる。一定の条件を満たせば他の自治体への応援を指示したり、職員の派遣をあっせんしたりすることもできる。

 

 国から自治体への指示は、これまでも個別の法律で定められてきた。包括的な規定が設けられたのは初めてだ。しかも発動する要件はあいまいで、どのようなケースを想定しているかについて、政府は例示すらしなかった。

 

 感染症や大規模災害などを想定した自治体への指示規定はすでに整備されている。立法の真の狙いは結局、判然としてしない。それだけに、時の政権に恣意的に運用されかねない。2000年に施行された地方分権一括法が打ち出した国と地方の対等関係が「上下」に逆戻りしないか。憂慮すべき事態だ。

 

 危うさをはらむにもかかわらず、全国知事会など地方側の反発は総じて抑制的だった。改正法が成立しても、国の暴走を防ぐ手立てをを講じる責任は地方にもある。

 

 ひとつの方策は、政府と自治体が定期的に意見交換する「国と地方の協議の場」の活用である。

 改正法は、他の法律に指示規定がないことを発動の条件としている。また、日本が武力攻撃を受けた場合などの有事も「想定外」だと政府は説明した。こうした原則について可能な限り、国と地方の間で明文化しておくべきだ。

 

 国が指示を検討する際、対等な立場で市町村が意見を表明できるかについても疑問がある。市町村が望めば、都道府県が調整にあたることも検討に値しよう。

 

 コロナ禍の際は、国が地方に示した方針が逆に助長したこともあった。地域の実情に応じて、多くの自治体が機動力を発揮した。改正法で自治体の「指示待ち体質」が助長されてはならない。地方の気概も改めて問われる。