仲間の皆様

 

 福岡県春日市の市立小学校の新任教諭の男性(当時24歳)が精神疾患を患い自殺したのは長時間労働と指導担当の教諭によるパワハラが原因として、男性の遺族が市と県に計約9000万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁に起こした。遺族の代理人弁護士が18日に福岡市内で記者会見を開き、明らかにした。提訴は11日付け。

 

 福岡の小学校

 

 訴状によると、男性は2019年4月に新任教諭として配属され、3年生の担任となった。1カ月目から長時間労働を強いられたとし、自殺までの4ケ月間の時間外労働時間は月平均100時間で「過労死ライン(月平均80時間)」を超えていた。

 

 また、男性は指導教諭から運動会の出し物の振り付けを覚えていないことなどを理由に同僚の前で繰り返し叱責され、精神疾患になったと主張。同年9月には、児童が宿題を忘れたことを巡って指導教諭から謝罪させられ、男性は立ったまま泣いていたという。男性は、その日に自殺を図り、翌日に死亡した。

 

 地方公務員災害補償基金福岡県支部は21年11月、長時間労働や必要な範囲を超えた厳しい叱責と自殺との因果関係を認め、公務災害(労災)に認定した。ただ、遺族の請求に対して22年3月に開示された認定理由書は黒塗りの部分が多く、指導教諭による具体的な叱責内容などは不明だという。遺族は県と市に謝罪などを求めたが、応じなかったため、提訴した。「校長と春日市何安全配慮義務に違反したことは明らか」と訴えている。

 

 男性は自殺の約3〜4カ月前、親友に無料通信アプリ「LINE(ライン)」で「超絶ブラック」「パワハラ受けてます(笑)」などと送信。遺書には「人のためにと思ってついた職業。あこがれた仕事(中略)大好きな子どもなのに・・・こんなことなら生きていても仕方がない」などとつづられていた。

 

 代理人弁護士は会見で「採用から半年の間に何があったのか。誰にも相談することなく一人で悩み、諦めなければならなかったのか。なぜ起こったのか知りたい。学校から一切謝罪はもらっていません」とする遺族のコメントを読み上げた。その上で弁護士は、学校は熱心な教師に頼る形で長時間労働を強いていたと指摘。「男性は指導教諭から攻撃され、周囲も止めなかった。異常な職場で新人だった男性を追い詰めた。訴訟を通じて何があったのかを明らかにしたい」と話した。

 

 春日市教育委員会は取材に「訴状が届いておらず、コメントできないが、未来ある若い教員が命を失ったことは無念でならない」、県教委は「訴状が届いておらず、コメントできない」としている。

【山口響、志村一也】

 

 教育現場  進まぬ働き方改革

 

 148時間15分ー。自殺する約4カ月前、福岡県春日市の市立小学校の新任教諭だった男性(当時24歳)の時間外労働は、過労死ライン(月平均80時間)を大幅に超えていた。文部科学省は学校の「働き方改革」を掲げるが、長時間労働は依然解消されず、若手を中心にメンタル不調を訴えるケースは少なくない。

 

 地方公務員災害補償基金福岡県支部は、男性が2019年4月に新任教諭となってから約半年後の9月に自殺するまでの間、時間外労働時間を出退勤時刻表や関係者の証言を基に算定した。その結果、5月の大型連休明けから2カ月連続で月120時間を超え、自殺の1カ月前も86時間41分に達していた。医師の知見も踏まえ「長時間に及ぶ時間外勤務により、相当強い精神的、肉体的負荷を受けていた」と認定した。

 

 教員の長時間勤務を巡っては、文科省の諮問機関「中央教育審議会」が19年、学校現場の業務のあり方について①学校以外が担う②教師が担う必要がない③教師の負担軽減が可能ーなどと分類し、削減を促した。だが、学校現場の「働き方改革」はなかなか進んでいない。

 

 文科省が22年度に実施した勤務実績調査(確定値)によると、学校での1日あたりの在校時間の平均は小学校で10時間45分、中学校で11時間1分で、6年前の調査と比べ、それぞれ30分ほど減少した。ただ、国の指針で時間外労働時間の上限とされる「月45時間」を超えるとみられる教員は小学校で64、5%、中学校で77%に上り、依然として深刻な状況だ。

 

 長時間労働が解消できない中で、精神疾患を理由とする離職者が増えている。24年3月に文科省が公表した「学校教員統計調査(確定値)」によると、21年度に精神疾患を理由に離職した公立小中高校の教員は950人で、前回の18年度より168人増えて過去最多を更新した。

【山口響】

 

 教員への定額働かせ放題である「給特法」をなくすことが必要と言える。

 

 

「毎日新聞」2024年6月19日付け朝刊  引用