「毎日新聞」2024年5月16日付け朝刊社説

 

 「ブラック職場」の根本的な解決には、ほど遠いと言わざるを得ない。

 

 文部科学相の諮問機関・中央教育審議会(中教審)の特別部会が教員確保策をまとめた。

 最も大きな制度変更は給与の引き上げだ。

 公立校の教員には時間外勤務手当(残業代)の代わりに教職員給与特別措置法に基づく「教職調整額」が一律支給される。その割合を基本給の4%から10%以上に引き上げる。約50年ぶりの見直しだ。

 

 しかし、「定額働かせ放題」と批判される現在の制度を維持したまま、給与だけ上げても効果は限定的だろう。

 

 教員の負担は重くなる一方だ。教える内容が増え、授業での工夫が求められるようになった。休日返上で部活動のl指導などもこなさなければならない。保護者への対応にも追われる。

 

 文科省の調査によると、2022年度に小学校で64、5%、中学校では77、1%の教諭が、国が指針で定めた上限の月45時間を超えて残業していた。現場から「給与増よりも業務減を」との声が上るのは当然だ。

 

 働き方改革の加速は喫緊の課題である。中教審の特別部会は、地域住民との連携、業務量を減らす取り組みの成果の公表、若手教員の支援強化なども打ち出している。しかし、多くはこれまでの対策の延長線上だ。

 

 状況を抜本的に改善するには、教員1人あたりの負担を減らすことが不可欠だ。非効率な業務の精査を続けると同時に、教員定数の拡大も検討すべきではないか。社会人向けの教員免許制度の創設など、多様な人材を登用できる仕組みづくりも急務だ。

 

 教員採用試験の受験者数は6年連続で減少している。23年度採用の公立校教員の選考試験は、倍率が前年度比0、3ポイント減の3、4倍で過去最低となった。

 

 志望者を増やすには、若い世代がやりがいと魅力を感じられる職場づくりが必要だ。未来を担う子どもたちのために教員環境を整えることが求められる。

 

 岸田文雄首相額経済政策で訴えている「人への投資」は教育にも当てはまる。実効性のある対策を速やかに講じなければならない。