「毎日新聞」2024年5月15日付け朝刊社説  転載

 

 国の調査によると、10人のうち4人が孤独を感じている。これを「個人の問題」として片付けてはいけない。

 4月に孤独・孤立対策推進法が施行された。世界に先駆けた法整備である。今月は施行後初の「対策強化月間」だ。

 

 新型コロナウィルスの流行が始まった2020年以降、外出自粛や行動制限などの影響により、人のつながりが薄れた。政府は英国に倣って孤独問題の担当相を置き、対策に乗り出した。

 推進法の目的は、孤独や孤立を本人の内面にとどまらない社会の課題と捉え、予防を進めることだ。首相をトップとする推進本部が設置され、子どもの居場所作りや高齢者を見守り、世代間交流などに取り組む民間団体を支援する。

 

 国の推計では、自宅で孤独死した高齢者は年6万8000人に上り、ひきこもり状態にある15〜64歳も146万人いる。小中高生の自殺は年500人超と過去最悪のレベルが続いている。

 

 参考にしたいのは、06年に施行された自殺対策基本法だ。自殺を「自己責任」とみなす風潮が弱まり、うつ病患者や生活困窮者への対応など、リスクの高い人を連携して支援する体制ができた。対策は途上だが、自殺者数はピーク時の3分の2に減った。

 

 孤独・孤立対策も、高リスク者を把握し、支援者間で広く連携することが欠かせない。例えば、既に20を超えるNPOなどが参加する協議会が作られ、情報やノウハウを共有している。

 

 強化月間では、相談体制の充実のほか、ネット上の仮想空間での交流などを通して声を上げやすい雰囲気作りを進める。市民が身近な人を支える「つながるサポーター」の育成も始める。

 

 政府の政策参与として推進法作りに関わった元厚生労働省事務次官の村木厚子さんは、孤独・孤立の問題を水難事故に例える。

 救命胴衣(自身の備え)や救助隊(プロの支援者)も大切だが、水温が高ければ命を永らえることができる。水温とは「人のつながり」だという。

 孤独にさいなまれ、孤立状態に陥るリスクは誰にでもある。苦しさを抱え込まず、つながりを感じられる社会を作っていきたい。