仲間の皆様

 

 昨年末に乗務員らがストライキをして欠航が相次いだ格安航空会社(LCC)ジェットスター・ジャパン。乗務員らが3月に再びストの構えを見せると、同社は「正当性のないストには懲戒処分を含め対応を検討する」と通告。最終的に全面ストは実施されずに事態は収束した。日本労働弁護団幹事長と常任幹事を長く務め、2008年の「年越し派遣村」の開設に尽力するなど、労働問題に詳しい棗一郎弁護士の一連の騒動に対する見解は。

 

 ジェットスター問題 棗一郎弁護士に聞く

 

●協約に定めなく

ー昨年末に実施したストで、乗務員らが加入する労働組合は「48時間前まで、もしくは前日午後6時まで」に実施の有無を通告する方針でした。3月にストを構えた際は「適切な時期に通告する」と期限を決めない姿勢に転じたところ、会社は前回の方針の踏襲を求めました。これが「懲戒処分」の根拠となりましたが、労働協約で定められたものではありません。

 

◆労組が会社側と結ぶ労働協約などで、ストの通告の期限を定めることはあります。例えば、百貨店大手「そごう・西武」の労組が昨年8月に実施したストでは、48時間前までに通告すると労使で取り決め、労働協約で定めていました。

 しかし、ジェットスターのように、労働協約で期限を定めていない場合、会社側への通告をどうするかは労組側の自由です。会社側の主張に応じないために懲戒処分を持ち出すのは、脅しや妨害、スト潰しと言えるでしょう。労働組合法7条3号で禁止されている労組への「支配介入」、すなわち「不当労働行為」に当たります。

 

ー会社側は「公共交通機関という公益事業者として客に迷惑をかけてはならず、(代替要員を確保して)便の運航に影響がないよう準備する必要が」などと説明しています。

 

◆「公益事業」とは、労働関係調整法で「公衆の日常生活に欠くことのできないもの」とされ、運輸事業もその一つに挙げられています。

 ただ、ストに関して同法に定められていることは、ストの10日前までに労働委員会と厚生労働相または都道府県知事に通知することです。労組が会社への通告の義務はありません。

 確かに、市民の日常生活への配慮は必要ではありますが、かって国鉄(今のJR)や郵便局もストを実施していました。そもそもストというのは、経営に打撃を与えることが目的なんです。代替要員を確保されては(労組側に)意味がありません。

 

ー3月のストの発端は労組執行委員が上司に暴言などのパワーハラスメントをしたとして、諭旨解雇処分となったことです。労組側は処分の撤回を求めましたが、会社側は応じず、執行委員は退職しました。一般論として「上司へのパワハラ」は成り立つのでしょうか。

 

◆パワハラは労働施策総合推進法で「優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で労働者の就業環境を害する」と定義され、企業はパワハラの防止を義務づけられています。「優越的な関係」は、一般的に職務上、上の立場から下の立場に対するものと考えられます。

 ただ、地位に関係なく、労働者の人格を侵害、否定する言動はパワハラに該当する可能性があると判例で積み上げられており、部下から上司に対するパワハラも成り立ち得ます。

 ただし、もしもパワハラがあったとしても、処分が妥当か、処分に至る前に明確に注意をしていたかなど、他にも課題はあると思います。

 

●労組への理解必要

ー日本ではストはかってに比べ少なくなりました。年末にストを決行したジェットスター労組は、3月の全面ストを断念する結果となりました。

 

◆労組が本気でストを構えれば、会社は中心的な人物を狙って切り崩そうとしてくるものだということは、歴史を見ればわかります。ストというのはそれくらい大変な闘いですが、日本でも1980年代までは身近に実施されていました。

 ストの実施には、闘うリーダーが一人だけでなく、複数のリーダーが次から次へと出てこなくてはなりません。そのためには、社会全体の労組への理解や機運の醸成も欠かせません。

【聞き手・藤沢美由紀】

 

 

 昨年末にはスト突入

 

 昨年12月末のストの発端は、労組側が時間外労働の算定方法に誤りがあるとして、未払い賃金の支払いを求めたものの、会社側が応じなかったためだ。労組は12月22日からストを実施した結果、欠航便が相次いだが、今年1月1日に発生した能登半島地震を受けてストは中止となった。会社側は中央労働委員会に調停を申し立てている。

 3月7日には執行委員の男性パイロットが上司に対するパワハラを繰り返したとして、会社側派男性を諭旨解雇処分とすると通知し、退職しない場合は懲戒解雇処分とする方針を示した。労組側は処分の取り消しを求め、組合員による投票で97%の賛成を得てスト権を確立。同月29日午前10時以降のスト実施を27日に通告した。

 

 28日の労使による団体交渉で、会社側は「大規模なストについては48時間前まで、小規模なストは前日午後6時までに通告がない場合は、参加者に懲戒処分を検討する」と説明。これに対し、労組は全面ストを見合わせ、執行委員の男性は3月末に退職した。

 

 会社側は29日に東京都内で記者会見を開き、自社の正当性を主張している。事前通告について、田中正和執行役員は「時間的に余裕のある通告を行なった形のストを要望している。繁忙期に利用する客への影響を最小限にとどめることに努めたい」と説明。労組執行委員への処分は「日々の業務において、社員として看過できない言動が複数の社員に対して複数回行われたことが報告され、慎重かつ公正に調査した結果、就業規則に反する深刻な行為と認められた。年末年始のストを含めた組合活動との関係はない」と主張した。

 

「毎日新聞」2024年5月9日付け朝刊  引用