仲間の皆様

 

 「受給資格者には該当しません」。窓口の職員にそう告げられ、男性はあっけにとられた。共に働き、共に家事を担ってきた妻を過労で亡くした。ところが、労働基準監督署で遺族のための年金を受け取れないと知らされた。理由は男性が妻を亡くした「夫」だから。夫を亡くした「妻」なら、受給できた。直面した「男女差別」に、男性は行動を起こした。

 

 (中略)

 

 最高裁は17年3月、働く意思がある人の割合や平均的な賃金、一般的な雇用形態を踏まえれば、男女間で格差がある社会状況にあり、法律の規定には合理的な理由があると判断。法の下の平等を定めた憲法14条には違反しないとした。

 

 しかし、社会状況は近年、大きく変化している。00年前後は共働きと専業主婦世帯の数はほぼ拮抗していたが、22年には共働き世帯が専業主婦世帯の約2、3倍に達した。

 女性の労働に詳しい大分大の石井まこと教授は「労災の保補償はかって、男性が多く働く建設や製造現場での事故が主だった。14年過労死防止法ができるまでは、労災被災者ができるまでは、労災被災者について男女別の統計もなく、補償制度の対象として女性の労働者は想定されていなかった」と指摘する。

 

 その上で、「男性だけが働くというかっての『標準的』な家庭は一部になってきており、国は社会構造の変化に目を向けるべきだ」と言う。

 男性は24年4月、労災補償保険法の規定は憲法14条違反するとして、遺族年金を支給しないとした労基署の処分取り消しを国に求める訴訟を東京地裁に起こした。

 

 男性は、規定について「妻が家庭を守るべきだという古い価値観で、昭和の制度が変わらずに残っている。仕事のやりがいを持って働いてきた妻の生き方とは異なる女性像を押しつけられている気がするする」とし、「自分の子どもたちの世代のためにも制度を変えていきたい。妻もそう願っているはずだ」と訴えている。

【菅野蘭、写真も】

 

「毎日新聞」2024年5月8日付け朝刊  引用