仲間の皆様

 

 ルモンド紙東京特派員 フィリップ・メスノール氏

 

 日本はもはや世界第3位の経済大国ではない。2月15日に内閣府が発表した2023年の名目国内総生産(GDP)の速報値によると、日本はドイツに抜かれ、順位は世界3位から4位に転落した。

 

 もっともこれはドル換算での数値なので、円がドルに対し、この2年で20%も下落したことの影響を考慮に入れる必要がある。それに日本経済は、対中貿易の減少などで19年以降不振が続くドイツに比べ、好調だ。このランキングは地域の特性も考慮に入れていない。

 

 それでもこのニュースは象徴的なインパクトがあった。日本がゆっくりだが着実に、1990年代のバブル崩壊以来、世界経済の舞台で後退してきていることを決定的にしたからだ。かってGDPランキング2位だった日本は10年代に中国に抜かれ、早晩インドにも抜かれそうだ。

 

 後退の印象は、他の統計にも表れている。賃金だ。厚生労働省が2月27日に発表した毎月勤労統計調査によると、23年12月の日本人の実質賃金は前年比2、1%減となった。減少は21カ月連続だ。この傾向は続くと見られ、24年度に実質賃金が上向くと予想していた専門家も、今や25年になると考えている。大手企業が発表した賃上げは物価上昇と相殺されている。そもそも大企業の賃上げは正社員しか対象となっていないのが実態だ。

 

 後退により最初に苦しめられているのは、パートタイム労働者や契約社員、有期雇用者だろう。

 総務省が24年1月に発表した統計によれば、不安定な非正規雇用労働者層は、日本の雇用者の37%を占める。

 

 多くの企業がこうした不安定な雇用を採用している。厚労省の19年の調査によれば、非正規雇用を取り入れている企業の48、3%が、その理由を賃金または賃金以外のコストの節約のためと答えている。

 

 実際、非正規雇用は正規雇用に比べればコストがかからない。同じ内容の労働でも、正規に比べてずっと少ない賃金しか支払われない。解雇も簡単だ。社内の労働組合にも守られていない場合が少なくない。非正規の雇用管理を子会社に任せている会社もある。不安定な雇用者が直面する困難を、いわば親会社が無視できるというわけだ。手厚く守られている正規雇用者に比べ、彼らはほんの少しの権利しか持たない。

 

 非正規の処遇を改善するための法律は作られた。例えば、15年に労働者派遣法何改正され、同じ職場で派遣労働者が3年働いた場合、正社員に登用する努力が義務付けられた。

 

 それにもかかわらず、非正規雇用者の状況は不安定なままで、先行きが明るいとは言い難い。彼らにとっては国民年金保険料の支払いですら負担になり、満額でも月6万6000円程度にとどまる年金を将来もらえるかどうかの心配をしなければならない。社会保険料も同じだ。収入の低さが生活を苦しめる。

 

 フランスでは、パートタイム雇用者の平均賃金は、フルタイム雇用者の8割弱程度しかない。しかし、企業には正社員と同じように社会保険の負担義務があるうえ、補償などもあって、時間当たりでみればパートタイムでもフルタイムと同水準の報酬を受け取ることができる。

 

 これには二つのメリットがある。まず、せっかく賃金をもらったのに社会保険料を払ったら手元には少ししか残らなかった、ということが起きないこと。次に、将来の年金や健康保険料の支払いがしっかり保証されていることだ。フランスや、そして特に日本のような高齢社会では、公共の健康と福祉のために非常に重要だ。

 

 日本では10年代の終わりから労働力不足が顕著になり、非正規雇用者の数が減りさえした。その一方で90年代からずっと不安定な雇用のままという人たちがいる。その多くは女性だが、彼ら、彼女らは定年後も十分な社会保障を受けられず、自分の生活すら維持できないかもしれない。大きな困難を抱えるであろう高齢者は何百万人にも上りかねない。

 

 日本では高齢者の貧困率は既に高いが、心配な水準まで達する危険がある。人口減少が進めば、働きざかりの若い世代がさらに減り、こうした高齢の貧困者を助けることが一層困難になる。

 

 日本は、数十年のうちに爆発するかもしれない数々の社会的爆弾に脅かされている。それは日本をもっと脆弱にし、衰退に拍車をかける。

【訳・五十嵐朋子】

 

「毎日新聞」2024年4月29日付け朝刊  引用

 

(コメント)

 指摘はそのとおり、自民党と経団連によって進められた雇用流動化政策は、賃金も低く権利もない非正規労働者を大量に生み出した。

 非正規労働者は、社会保障も十分でなく年金も十分にもらえない。

 結果、高齢になったら、生活できなく生活保護などに頼るしかなくなる。

 一方、企業は利益を拡大し、内部留保は約550兆円。

 

 日本の現状は、タコが自分の足を食べている状態と言える。