「毎日新聞」2024年4月20日付け朝刊社説 転載
水俣病の被害救済が不十分であることを示す司法判断が、またも下された。その意味は重い。
新潟県の住民ら45人中26人を水俣病患者だと認める判決を新潟地裁が出した。原因企業の旧昭和電工に計1億円余の賠償を命じた。
阿賀野川流域で、川魚を食べた住民が手足のしびれや感覚障害などを訴えた公害病である。上流にある工場の排水に含まれていたメチル水銀が原因だった。
水俣病の訴訟は4地裁に起こされ、今回は3件目の判決だ。
昨年9月の大阪地裁、先月の熊本地裁に続き、国の救済対象にならなかった人を新たに患者と認めた。水俣病かどうかの判断基準に関する国の主張に、疑問を呈したものだ。
原告たちが発症したのは20年以上前である。不法行為から20年が経過すると賠償請求権が消滅する「除斥期間」が問題になるが、判決は適用しなかった。
水俣病では、周囲からの差別や偏見を恐れ、名乗り出られない患者が多い。こうした実態を重視した妥当な判断だ。
新潟水俣病は1965年に公式確認された。その9年前に、九州では水俣病が確認されている。
原告側は、その間に国が対策を取っていれば被害を抑えられたと主張したがが、判決は「被害は予見できなかった」と退けた。
国の賠償責任は否定されたものの、水俣病への対応に問題がなかったと免罪するものではない。
公害健康被害補償法(公健法)に基づき、患者と認定されれば一定の補償がなされる。だが、認定基準が厳しく、認められない人が相次いだ。
このため、2009年に水俣病被害者救済特別措置法が制定され、救済範囲が広げられた。
しかし、居住地や年齢で対象者が線引きされた。一時金や療養費などの申請も2年あまりで打ち切られた。
国は、公健法の認定基準を見直し、特措法に基づく給付を再開すべきだ。被害の実態を把握するため、健康調査も早急に実施する必要がある。
被害を訴える人々の高齢化が進んでいる。4地域に提訴した原告だけでも約1700人に上る。被害救済の拡大が急務だ。