歌うギタリスト 歌わないギタリスト | マノンのMUSIC LIFE

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ギタリストだのベーシストだの言っても、本来は職業じゃなくて役割に過ぎないわけで、ギター抱えて歌えばヴォーカリストだし、抱えててもフェーダーが下がり切ってればギタリストでもない(はず)。

 

標題はもちろん年明け早々のジェフ・ベックの訃報にひっかけたものですが、以前から書きたかったこと。

最後のオリジナルアルバムは2016年だから、生きてれば次作もあったかもしれないし、新作後すぐの死だったボウイほどじゃなくても、いちおう現役認定してよいのでしょう。

 

「ギター殺人者の凱旋 BLOW BY BLOW」「WIRED」の2枚は19756年という時期にあって、フュージョンブームの先駆けとなり、パンク~ニューウェーブの流れにおきざりにされた人達がドッとなだれ込んで大人のジャズへ向かう水路を作ったと言っていいでしょう。

 

歌モノしかノレないこのあたしですら「ギターでこれほど多彩な表現が可能なら歌がなくても聴けるな」と思ったもの。とはいえ時代をリードする音楽になりえたかというと、そこはやっぱり人の声ほどの訴求力はない。

日本では80年代に入ってもスクエアとかカシオペアとかバンドやってる人の間では人気あったけど、ジェフ自身もその後記憶に残る作品は「People Get Ready」(ロッド・スチュアートと組んでカーティス・メイフィールドをカバー)くらいだしね、やっぱ歌モノ。

 

JEFF BECK, ROD STEWART - People Get Ready (1985)

 

もし、ジェフがあえて歌う選択をしていれば?と思うんですよね。

エリック・クラプトンがソロアーティストとして今の地位があるのも、自ら歌ってヒットを飛ばしたからで、そうでなければゲストとしていいように使われるか、昔の曲で商売するしかないんですよね。

じゃあジェフがそんなに音痴だったのか?という疑問も沸きますが・・・聴いてみましょう!

 

JEFF BECK - Hi Ho Silver Lining (2003)

あたしから見れば、エリックとどっこいどっこいの歌唱力だと思うんだけど、まぁロッドという強力な歌い手と組んでいた過去があるからこそ、自分がヴォーカルって気にはならなかったということか。

 

ガタガタ言う前にまず歌えばいいじゃん!と思うギタリスト、他にもいますよ。

 

単音でツラツラ弾きまくるようなギターソロが駆逐されたポストパンク時代のギターヒーローの代表がこの人、JOHNNY MARR。

 

THE SMITHS - This Charming Man (Live)

初めて聴いた、観た人は「なんじゃこりゃ?」と思うでしょうが、あたしもかつてそう思ったwww

ですが、これがその後の英米双方のギターロックに最も大きな影響を与えたバンドなんですよ。ザ・スミス。

本国イギリスのみならず、特に90年代の米国オルタナティブ系のバンドのインタビューで、影響源として最も多く名前が上がります。

「ローリングストーン誌の選ぶ史上最も過小評価されている25人のギタリスト」第15位も納得。

 

この曲もイントロはギターソロといえば言えるんですが、バッキングでもあるし、サビ以外はずっとこのパターンを中心に弾いてる。

その音に英国情緒と皮肉と憎悪をまぶした歌詞をのっけて朗々と歌うモリッシー。彼がテキトーに回してるのが歌メロなわけだから、昔ながらの作詞・作曲という概念からすればモリッシーが作曲ということになるんだろうけど、ジョニーのギターがないとなにも始まらないチームですよ。

 

まぁ自ら歌う選択をしなかったがために、いいように使われた名ギタリストの代表のような人。スミスの解散後、動向が注目されてたものの、ブライアン・フェリーやらプリテンダーズとセッションしたり、その後、ひとりプロジェクトだったTHE THEの正式メンバーとしてアルバム2枚を作って来日もしました。

 

リンゴの息子ザック・スターキーらを引き入れたジョニー・マー&ザ・ヒーラーズでやっと歌う気になったのが2003年だけどパッとしなくて、またギター侍の放浪に戻ることに。MODEST MOUSEやTHE CRIBSという英米のそこそこのバンドに正式加入というニュースを見るたびに思う「あんたがやる仕事じゃないでしょ!」

 

そして、やっとソロアーティストとしてやっていく決心をして2013年に1st発表。

聴いてみれば悪くないんだけど25年遅かった。この選択をすぐにしていれば、スミス旋風の勢いのままいいところに行けたと思うんですけどね。

 

JOHNNY MARR - Spirit Power and Soul  (2022)

 

 

さてジョニー・マーと同様の残念さがあるのが、去年再解散したNUMBER GIRLの田渕ひさ子。彼女の場合は解散後すぐに自分のバンドtoddleを率いて歌い出したので「歌わない」わけじゃないんだけど、あまり注目されないし、パッとしませんね。

まるでジョニー・マーをなぞるかのようにbloodthirsty butchersやフルカワミキのLAMAに正式加入したりするものの、やっぱりいいように使われた感。

どんなギターを弾くのか見てみましょう。

 

NUMBER GIRL - OMOIDE IN MY HEAD (last live, 2002)

椎名林檎とは同郷のバンド仲間で、あたしは向井秀徳の歌が

好きじゃないので、林檎with田渕のバンドでデビューしてたらと夢想せずにはいられないのです。

一回限りのコラボはその後何度かあり、3年ほど前にも「正しい街」をミュージック・ステーションで披露、林檎の横で「正しいギター」を弾いていました。これほど相性がいいのになぁ。

デビュー前にいっしょに組む話もきっとあったと思うんだけど、パーマネントでやるには相容れないものがあるのかも。バンドはむずかしいネ。

 

 

21世紀には良くも悪くもスーパーギタリストというような存在が注目される時代でもないけれど、この人なんかはそれに近い存在。リズムプレイの魅せどころが多いのも「ギターソロが始まるとスキップする」時代ならでは。

 

シンガーとしても悪いとは思わないけど、見た目のカッコよさ・派手さに見合う曲が書けていないように思う。昨年末の紅白にYOSHIKIとかのスーパーバンドで出ていましたが、このままじゃいいように使われて終わりそう。

 

MIYAVI - WHAT'S MY NAME? (2010)

 

 

「歌えるか 歌えないか」なんて線引きは楽器と違って存在しないわけで、ジョン・レノンじゃなくとも自分の声なんて好きじゃないに決まってる。

そこを超えて表現したいものがあるのか、ないのかの問題で、恥ずかしくてもパンツを脱がないと何も始まらないのです。

 

ジミヘンだってあれだけ派手なギタープレイをやっててもなお物足りないものがあったからこそ、横に立つシンガーを見つけてくるんじゃなくて、自分で歌わざるをえなかったんでしょう。

彼の音楽はあたしにはあんまり響いてこないけど、なにかを求めるその熱量が人をかき立てるんだってことだけはわかります。

 

後からごちゃごちゃ言っても歴史にifはないですね。

ジェフ・ベックがもし自分で歌って成功してたらあの2作はなかったかも・・・と思うとロックの歴史にとっては歌わなくてよかったのかも、というのが結論。

 

 

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