「神無月(カンナヅキ)~いたよ~」
「ホントか、睦月(ムツキ)っ」
少年の言葉に、床に寝そべっていた青年は飛び起きた。
少年、睦月は柵に手をかけ、向かいの建物の中を見た。
焦げ茶色をした髪を短く刈り上げ、見た目10歳前後だろうか。
自分の背丈以上もある柵の隙間から、向かいの建物を見る。
建物の中には学生服やセーラー服を着た学生が沢山いた。
睦月の隣に立って、神無月と呼ばれた青年がスボンの中に手を入れて、睦月と同じ方向を見る。
肩まである薄い茶色の髪を一つに縛っている。
細くつり上がった目付きは悪く、着崩れた上着からも乱暴な印象を与えた。
「どいつだよ」
不機嫌そうな声で目の前の建物を凝視しながら睦月に話しかける。
「ほら、あれ。あの4人だよ」
睦月が一つの窓を指差した。
その先には4人で談笑してる雷架たちの姿があった。
そう、二人がいたのは雷架たちのいる学校の屋上だった。
「あ?あいつらか」
ドスの効いた低い声で話しかけられても、睦月は怯まない。
「あの人たちだよ。神無月のほうがよく分かるでしょ」
「あぁ…しかしあいつら何話してるんだ?」
「ん~…分かんないや。ちょっと神無月、あれ使ってよ」
「あ?なんで俺が。めんどくせー」
頭をかきむしった。その勢いで髪を縛っていた紐が取れそうになっていた。
「お前だって似たようなの出来んだろうが」
神無月の言葉に睦月は何故か焦った。
「あれは全然似てないよ!」
「にしたって、あいつらの会話聞き取れることには変わりねぇだろうが」
「でも……!」
「あ?」
神無月はスボンに手を入れたまま、睦月を睨んだ。
「う~」
睦月は神無月から視線を外して指先をいじりだした。
「睦月」
「だって…できないもん」
「あ?」
「まだあの術は使えないもん……」
神無月は深いため息を一つついた。
「お前な…だからあれほどサボるなって言ったろ」
「だって…」
「全く…しゃーねーな」
神無月は再度嘆息して柵から離れた。
「帰ったら練習だぞ」
「うん…」
睦月は渋々頷いて、神無月の方を見た。