3.構造改革と外国資本(外資)

 90年代終わりから2000年代の初期に行われた構造改革のうち、私見ですが、重要なものを2つ挙げるとすると、「会計制度の変更」と「株の持ち合い解消」だと思います。おのおのについて説明します。この2つが日本の企業を外国資本に売り渡す上で大きな助けになりました。

会計制度の変更 (以下は「拒否できない日本」(関岡英之)の要約です)会計方式には、時価主義と原価主義があります。時価主義というのは、企業の持っている株や不動産を時価で評価することで、米国やイギリスが採用しています。しかし日本はそれらを買ったときの値段つまり原価で評価する原価主義を採用していました。確かに、株や不動産は値段が変化します。従って外から企業を評価するとき、原価主義では実際の企業の価値を評価しにくいという欠点があります。しかし、時価主義ではこれらの値段の変動で会社の価値が変わるため、会社の経営は相場の変動という不安定な外的要素に振り回されることになります。日本は原価主義だったので、それらに一喜一憂せずに、落ち着いて地道なものづくりに取り組むことができたのです。原価主義は、日本の企業の成長を支えてきた制度だったのです。しかし、2000年前後から企業の会計方式は、原価主義から時価主義に変わっていきました。その結果、多くの日本企業は危機に直面しました。その原因はバブル崩壊による土地の値下がりでした。つまり原価主義なら、バブル崩壊で土地の値段が下がっても、土地の取得額が決算書に表示されるので、土地の値段の下落は表に現れません。しかし時価主義だとそうはいかないのです。これを家庭に当てはめて話をすると、たとえば3000万円の土地を担保に銀行から金を借りて土地に家を建てた、しかしバブルがはじけて土地の値段が半分になった、その結果銀行に追加担保を要求された、ということなり、普通の家庭ならば下手をすれば破産、そうならなくても大きな負担です。これが企業ならば倒産あるいは、そこまで行かなくても企業価値の大きな毀損となります。当然その企業の株価は下がります。

株式持ち合い(相互保有)の解消 (以下は「民主党大崩壊」(小泉俊明)の要約です)もともと銀行(メインバンク)と上場企業は1/4ずつ株式の持ち合い(相互保有)をしていました。これにより、株式の外部流出による敵対的買収を防ぐことができ、最大の株主が銀行だったために経営が安定していたのです。メインバンクも、その企業の経営が悪化しない限り、経営についてほとんど口出ししませんでした。しかし、近年になって、持ち合い株を保有する会社同士はなれ合いになって、互いの批判をしないので、経営者の保身を助長し、会社の成長が阻害される、といった批判が強まりました。そして2000年頃から株式持ち合いの解消が始まりました。その結果、大量の株が市場に放出され、株価が低下しました。

 以上のような理由で、小泉政権下の2003年当時は株価が大きく下がっていました。日本の個人・銀行・企業はすべて売り一色でした。しかし、その中で、唯一外国人だけが買い越していました。その結果日本企業の所有権、支配権が外資に移っていきました。2006年末の株式保有の割合は1位が外国人(28%)で、2位の金融機関(22.9%)を上回りました。このような変化に伴い、国内の法制度も外国人の利益を重視する方向に改正されていきました。たとえば商法改正に伴う社外取締役制度の導入です。株主は年1回の株主総会だけしか権利行使できません。それでは外国人投資家は不安になります。日本人を24時間365日コントロールできるように社外取締役をおけるようにし、さらに社外取締役が社長を評価するようになりました。日本人の社長は外人の評価を気にしながら仕事をしなければならなくなりました。そして、2003年6月派遣の期間を拡大した改正労働者派遣法が成立し、7月には契約期間緩和へ労働基準法が改正されていました。その結果リストラで正社員は派遣社員に切り替えられ、多くの人が不安定な経済状況に陥りました。しかし、株式会社は人件費のカットで利益を上げることができるようになりました。さらに、小泉政権末期には、これまで外資比率50%超の企業から政治献金を受けることができなかったのに、外資比率50%超の企業でも5年以上上場していれば政治献金してもいいという提案が行われました(実際の改正は2006年12月の第一次安倍政権時代)。これで外資系企業が、日本の政治に直接影響力を及ぼすことができるようになりました。

 その後外資の比率は増え続け、2015年の段階で、日本の株式のうち外資の保有率は34%を超えています(「空洞化と属国化」坂本雅子p475)。なかでも大手銀行は、2016年の段階で、三菱UFJで38%、三井住友で48%、りそなで43%だそうです。大株主の状況は公開されていますが、わかりづらく、表向き日本の会社が株主であってもその会社の株主が実質外資であるケースもあり、丁寧に解析すると外資の比率はそうなるようです。