汁男優が去り、オレが溶接のスパークと大型トラックのハイビームに目を眩ませている間に、Airaは地球の重力を脱ぎ捨てた設定になっていた。
心身の疲弊を噛み締め、左右下の6番7番をボロボロにして少し大人になったオレは、神妙に苔の世界に踏み入った。
エロい枝振りの五葉松と昭和レトロな精工舎の置き時計、黒田嘉治のともしびのような裸婦像を心の裾野に並べられたら、蛇の目ソースの鏡を覗いたオレが、「う~ん。マンダムだお~。」と呟く姿もだいぶ様になるようになるだろう。
ルリヲと亀。
ピロン1号とマチュ子。
昭和天皇の御真影。
オレの寂寥の陰りを照らすべく光を放つ物達。
乾燥しきってゴミのようにしょぼくれた苔が水を含んだ途端、小学校の通学路にばらまかれていた裏本のごわごわギラギラとした陰毛のように鬱蒼と膨らむ様は、オレの舌打ちを口笛に変える。
オレは待つ身だ。
チラシを見ながら、わかばをふかしながら、キミを待つ身だ。
キミとのり弁を食べた公園から、心の中で蹴飛ばすための小石をくすねたりしながら。
999円の長靴を買い、苔を眺め、苔に成るべくおにぎりせんべいをむさぼり、心の芯を冬眠させて。
春になったら、つくしを湯呑み盆栽にしたい。
今年はペヤングで年越ししよう。