ポール・マッカートニーの変幻自在の声は憧れでした。
自分でギターを持って歌い始めたころ,どうやってこんな風にいろいろな声を出すんだろうと,一生懸命真似てみたりしました。
ポールの声の使い方はいくつかの類型に分けられると思います。彼は明らかに,曲に合わせて意識的に声を使い分けていました。それぞれが単に「ものまね」の域を超えて確立したスタイルとなっているところがすごいのです。
◆シャウト系
有名な話しですが,デビュー当時のポールのシャウトは明らかにリトル・リチャードの影響を受けていました。おそらく一生懸命研究して真似たのだと思います。ジョンが,「Twist&Shout」や「Please Mr.Postman」などに見られるように,デビュー当時からオリジナルとは異なる独自のシャウトをしていたのに比べると,少し「遅れて」いたように思います。
例えば,かなりオリジナルに近い「Long Tall Sally」,もう少し進んだ「I'm Down」などはリトル・リチャードを彷彿とさせます。
ただ,徐々にポール独自のシャウトが確立していき,「Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」や「Birthday」などでは誰も真似できない,ポールなりのシャウトになっていると思います。さらにはロバート・プラントもびっくりのヘビーメタルを先取りしたかのような「Helter Skelter」,あるいは,高音のエルビス・プレスリーといった感のある「Oh! Daring」も素晴らしいと思います。
◆フォーク系
代表はやはり素朴でフォーキーな「Yesterday」でしょう。ロックバンドがこんな曲を歌うとは当時は誰も思っていなかったと思います。これ以降,「I've Just Seen a Face」や「Blackbird」などのギター弾き語りフォーク曲は,現在に至るまでポールの曲作りの中で確固たる地位を占めています。
◆ソウル系
ポールは時折,意識的に歌い方や声を変えて,黒っぽいソウルフルなフィーリングを出しています。代表的なのは,「The Night Before」でしょう。まだビートルズに馴染みがない最初の頃,「誰の声だろう」と不思議に思った記憶があります。
あるいは「What You're Doing」や「She's A Woman」,「DriveMyCar」などもかなり「作った」黒っぽい声だと思います。
◆アイドル系
時折ポールは,聞いていてちょっと恥ずかしいような,とても甘いアイドル系の声で歌うことがあります。典型は「Hello Goodbye」でしょう。名曲で,大好きですが,なんだかちょっと気恥ずかしいです。ジョンはどう思ってたんだろ。
あるいは「Here,There And Everywhere」,「Penny Lane」もこの類だと思います。ジャニーズも顔負けの甘い声です。
「Helter Skelter」を歌っているのと同じ人がこれを歌っているなんて信じられます?
◆ナチュラル系
あえて,あまり意識的に声を変えず,もっとも自然に歌うとこんな風なのでは,という類型です。「Let It Be」,「Hey Jude」,「The Long And Winding Rord」あるいは「For No One」などもこの類型でしょう。作ったところがなく,のびのびととても気持ちよさそうに歌っています。それでいてとても説得力があるのです。
ジョン・レノンが,何を歌っても「ジョン・レノン」なのに対し,ポールは上記のとおり変幻自在で,よく言えば何でも歌いこなせましたが,悪く言うと節操がないようでもありました。
でも,やはりこの二人がいてこその,「軌跡」,「ビートル・マジック」だったことは間違いありません。
恐るべし,ビートルズ。