2018年度上半期に放映されたNHKの朝のドラマである「半分青い」をたまたま見ていたところ,主人公が「いつもポケットにショパン」を読んでいる場面がありました(番組の中では,豊川悦司扮する「秋風羽織」という漫画家が描いたことになっています)。
 主人公は,これをきっかけに漫画家を目指すのです。


 僕は,高校2年生の時,妹がたまたま買っていた少女雑誌「別冊マーガレット」で連載が始まったばかりの,くらもちふさこの「いつもポケットにショパン」(1980年~1981年)を読んで,初回からファンになってしまい,それから最終回まで,欠かさず「別冊マーガレット」を買って読んでいました(当時はいちいち切り取って保管してました。あれ,どこに仕舞ったんだろう,捨てるはずないのに)。

 幼少時代から一緒にピアノを習っていた須江麻子と緒方季晋(正しくは「おがたとしくに」と読むのですが,劇中,麻子は間違った音読みで「きしんちゃん」と呼んでいます)が,ピアニストを目指す青春ドラマなのですが,きしんちゃんの麻子に対する愛とその境遇に関する嫉妬(麻子の母は著名なピアニストである一方でそのライバルだったきしんちゃんの母親は腱鞘炎のためピアニストを諦めた)が混ざり合った複雑な心情を中心に,麻子と彼女を突き放すような(しかし実は不器用な愛情に溢れた)ピアニストである母親との関係,麻子と同級生のえりちゃんとのちょっとねじれた友情など。
 これにさらに,きしんちゃんのライバルたちとの関係が複雑に入り交じるのです。
 (少女漫画に詳しいわけではないのですが)今思えば,絵にしても,そのストーリーの構成にしても,それまで読んだ単純な恋愛ドラマや,逆に大上段なSFや歴史物語とは違い,リアルさを重視しつつ,日常生活の機微を取り入れてドラマを描いており,とても魅力的でした。
 僕のとっても勝手なイメージは,横浜の山手あたりに主人公たちが住んでるというものです(当時は横浜に行ったこともなかったのですが)。当時,独学ですがピアノを触り始めたこともあり,より興味を持ったのかもしれません。
 これ以外にもいくつかくらもちふさこの作品を読みましたが(「東京のカサノヴァ」など),これほど好きになることはありませんでした。


 山岸涼子の「日出処の天子」(1980年~1984年)も雑誌「LaLa」に連載している時から読んでいました。

 

 僕は,(共通一次試験の受験科目として日本史を選択しなかったこともあり)日本史を全然勉強しなかったので,高校生の時に通知簿で5段階の1という評価(赤字で書かれる)をもらったこともあるくらい不得手だったのです。しかし,この漫画がきっかけで日本史に興味を持ち,今では毎日のように何かしら歴史の本を読む程に歴史のことが好きになりました。
  「日出処の天子」は,もちろん聖徳太子(但し,生前の呼称は厩戸王子(うまやどのおうじ)であり漫画の中ではそう呼ばれます)を主人公としたものです。
 この中で,聖徳太子は,テレキネシスやテレパシーなどを使い,また仏界や地獄を見ることができるなど,超常能力を持った「美少年」として描かれています(そのため,彼は母親を含む周囲の人たちから孤立してしまうのです)。
 皇族である聖徳太子が,当時隆興しつつある仏教を重視する蘇我氏とつかず離れずの関係を保ちながら,宮廷内での政争を繰り広げ,その中で,蘇我毛人(そがのえみし)との同性愛関係,蘇我毛人とその妹である刀自古郎女(とじこのいらつめ)の近親相姦など,連載当時としては異色の人間関係が描かれます。
 史実的には,天皇家が蘇我氏と組んで物部守屋を滅ぼすあたり(587年)から,聖徳太子の子である山背大兄王が誕生し,また,聖徳太子が小野妹子を遣隋使として送る(607年)前あたりまでを描いています。
 ストーリー自体は史実に忠実でありながら,それに巧みに肉付けしているので,当時は本当に聖徳太子が同性愛者で蘇我毛人と関係があったのかしら,そんな史実があるのかしら,などと思ったりしてました。
 今でも,歴史の本や考古学に関する新聞記事を読んで,聖徳太子,蘇我馬子,蘇我蝦夷などが出てくると,この漫画でのイメージと重ねてしまいます。