第15話 初めて見るタグ


夜。

人通りが少なくなった駅裏の細い路地。


白い街灯の下、ソウマは一人で立っていた。


「ここ、昼と全然違う…」


昼はただの古い道だった場所。

でも今は、壁一面に文字が浮かび上がっている。


小さな名前。

重なった線。

かすれた色。


その中で、ひとつだけ違うものがあった。


「これ…見たことない」


黒く、細く、速く書かれたような文字。

ほかのタグよりもシンプルなのに、なぜか強く目に入る。


ソウマはノートを取り出し、その形を写した。


線は少ないのに、バランスが独特だった。


「なんだろう…この感じ」


そのとき。


「いいところ見てるな」


低い声がした。


振り向くと、知らない男が壁にもたれていた。

フードをかぶっていて、顔はよく見えない。


「それ、初めてか?」


ソウマはうなずいた。


「はい」


男はゆっくり近づいてくる。


「それは“タグ”だ」


「タグ…」


「名前を一番シンプルにしたものだ」


ソウマは壁とノートを見比べた。


「でも、他のと違います」


男は少しだけ笑った。


「いいタグは、少ない線で覚えられる」


「覚えられる…」


「一回見たら、頭に残る」


ソウマはもう一度その形を見る。


たしかに、もう忘れない気がした。


「これ、誰の名前なんですか?」


男は少し黙ったあと、こう言った。


「それを知る必要はない」


「え?」


「大事なのは、“誰か”じゃなくて、“どう残るか”だ」


ソウマは言葉の意味を考えた。


そのとき、男はポケットからペンを取り出した。


そして、壁のすみのほうに、さっと同じタグを書いた。


一瞬だった。


でも、さっきと同じ形だった。


「…!」


ソウマは息をのんだ。


「同じだ…」


男はペンをしまった。


「これで、この場所にも残った」


ソウマはノートを見た。


自分が写したタグ。


そして、その下にある自分の印。


少しだけ、重ねてみる。


「…合う」


線が自然につながった。


男はそれを見て、小さく言った。


「面白いな」


「え?」


「それ、広がるかもしれない」


ソウマは顔を上げた。


でも、もう男はいなかった。


「消えた…?」


静かな路地に、街灯の光だけが残る。


ソウマはノートを閉じた。


「誰かじゃなくて、どう残るか…」


その言葉が頭に残る。


ソウマはページのタイトルを書く。


「はじめての形は、誰かの続きかもしれない」


そして小さくつぶやいた。


「これ、つながってる…」