いくら飛行機に乗って旅行することが好きだからといっても、「これには乗りたくない」というフライトもある。例えば、現在ではこのフライトは存在しないけれど、「条件付運航の南西航空301便」がそれに該当する。

 ではそれがどんな展開になるかといえば、那覇から南大東島へ225マイル・約1時間半の飛行。客室は1人-2人の腰掛配置だが身長174cmの私が屈まないといけない高さで、WCに気密性は無い。それで1時間半かけて南大東空港へ降りたら良いが、降りられずに旋回しながら待ち続け、遂には那覇へ引き返そうものならまた1時間半、上空待機の時間も加わるだろうから合計4時間位DHC-6に乗り続ける!? 

 乗客最大14名・乗員3名、皆辛い思いをするに違いない。あの狭さにあのWC、「緊急事態」を除けば我慢し続けねばなるまい。

  こうなることを思えば、「条件付」となった時点で島へ渡るのは止めるべし・・・否、次便回しにしたところで那覇~南大東は席が取り辛い路線、空席待ちをしたところで乗れるとは限らない。2008年の私ならJALグローバルクラブの優位性があるかもしれないが、「予約のお客様で満席となりました」の可能性が高いように思う。となると条件付でも降りることに賭けるしかない、降りられなかったら、その時はしゃ~ないな。

 等々のことをCAと話しながら私はJA8936で飛んでいた。目的地は南大東島、そしてこのRAC861便も条件付運航である。

 

 その日未明、雨が窓を叩く音で目が覚めた。時刻は午前4時、宿の外を見たら大雨・・・おいおい前日の予報では降雨とはあったが大雨なんて見聞きしとらんぞ。

 明るくなれば雨足は弱くなった。宿のビジネスコーナーのインターネットで気象レーダーを見ると、真っ赤なエコーが沖縄本島東方にあり。さっきの大雨はこれのせいか。その赤いエコーは東へ移動中で、いずれ私の本日の目的地南大東島近くを通るが、まあ到着予定の11:00頃にはこの動きから察するに抜けているだろう。

 JAL発着案内画面では9:50発那覇~南大東RAC861便は所定通り、午後の867便も同様。現地で私がそこに閉じ込められる事態も避けられるだろう。その他では久米島行きはともかく粟国行きまでもノーマル、天候によるイレギュラー発生は午前7:00時点では無し。

 意気揚々と那覇空港へ、ターミナルビル3階へエスカレーターで昇った。そして出発電光掲示を見たらRAC861便のところには「天候調査中」。時刻は搭乗便出発1時間5分前、到着2時間15分前の午前8:45なのに・・・私の心の中で何かが覚醒した。2008年5月1日(木)の朝のことであった。

 

 搭乗手続きでは、前線通過を待つので出発が1時間程度遅れる見込みと言われた。予報とは話が違うではないか、午前5時の発表では南大東島は停滞前線の影響で曇り時々雨、降水確率50%、1時間降水量最大2ミリで深刻な状況が想定できる程ではない。とはいえレーダーを見たら一時的に大雨に見舞われるのは素人目からでも推測でき、一体あの予報は何処から出てくるのか?尤も予報が刻々と変わるのが南西諸島の天気でもある。

 ひとまずCoralラウンジへ入ったが、そこの出発掲示では10:50発に変更となっていた。と、このまま案内を待つのも落ち着かないのでレセプションで気象庁サイトのレーダー画像を見せてもらうと、南北大東島に真っ赤なエコーが架かりつつあるか、それとも架かっているかの状況。これではランウェイが視認できず、降りることはできない?? 何が2ミリだと思いつつ通過を待つが、何やら大東諸島南西側にも赤いエコーがあるぞ、私の見間違いならよいのだが。

 

 10:30前に28番搭乗口へ来て搭乗開始を待つが、そこへアナウンス「只今最終の出発準備を執り行っております」。けれどもそのまま10:50になった。ひょっとして、Q300・JA8936に不具合が生じた?

 またアナウンスがあり、前線通過が遅れており、もう1時間待って新しい出発時刻は11:50。ただし前線通過後も雲が晴れるまで時間を要するかも知れず、その際はさらに遅れるかもしれないとのこと。

 おいおい、私は16:15発RAC835便で南大東島を離れるつもりなので、この新しい出発時刻でも現地へは13:00頃着、遅れたら向こうで何もできなくなる。あるいは、その前に欠航になってしまうかも!?

 旅行中止を視野に入れる私だったが、パッケージツアーゆえその際の払い戻しはどうなるのか。JALツアーズに電話を入れたら乗らなかったぶんの額が返金されるとのことで、「お金が勿体無い」とはならずに済む。

 一旦ラウンジへ戻り、そして11:30頃28番ゲートへ。こんどは搭乗開始。ただし那覇引き返しもあり得る条件付。13:30までに降りてくれたら用件の1つは済ませられるので私も乗ろう。

 

 ランプバスはJA8936傍に着いた。私には2度目のリュウキュウエアーQ300で、前回は59マイルだったけれど今回は225マイル、そのフライトを堪能できよう。ステアを昇り、私は「まいど~」。

 1Hに座ろうとしたら肘掛内臓テーブルがセットされ、その上に新聞などが置かれていた。103型では座面に置いていたのが、Q300でインアームテーブルが付いたのか!が新発見その1。「前は4Hに座ってそのシートピッチの大きさを確かめられたので、今回から通常通り1Hです」とCAへ説明するが、この位置をアサインしたことでテーブルの存在が判った。

 ドアクローズしてエンジンが始動したのが11:43。乗客は8~9名、この人数ゆえ50席客室が広々と見える。ランウェイ36エンド近くまで来たが、そこで管制指示により待たされる。この時私の頭に10年前の記憶が・・・。

 1998年9月28日(月)の朝、八重山地方は大雨。午前の石垣~与那国NU961便は1時間半近く遅れて離陸したが、出発遅れ以外でも客室でしばらく待たされていた。そして降水確率50%の与那国島に降り立つも午後には台風接近で大雨になり、午後の967~968便は欠航、私は予定外の与那国ステイ。

 大雨といい、50%といい、今日の南大東はあの日の与那国と似ている。加えて今乗っているのが「861便」で下2桁が石垣~与那国往路便と同じ。搭乗機材JA8936も赤い垂直尾翼のターボプロップ機で、あの日のYS11A・JA8794と同じ!果たして南大東へ上陸しても私は本日午後便で那覇へ帰れるのか、10年前と似ていることが不吉な予感を漂わせる。

 

 不吉な予感は緊張感を抱かせることになり、今からは自身の神経を研ぎ澄ませてのフライトになろう。

 11:58離陸、左旋回し本島南部上空を通過、ヘディングを東100度に取り南大東島へ。5日前にA-net羽田~三宅島を往復した際、AMXやRACの103型、ORCのQ200より巡航速度が速いと感じたのだが、それは本日のJA8936でも同様。前回の那覇~久米島よりも速いように思えるのだが、CAへ訊けば560km/h。RACでは「440km/h」を聞くことが多く、本日の861便でのこの値はRACでは速いほう。なお103型でも与那国~那覇を570km/hで飛んだこともあり、比較的長い航路の東行きならば速いということだ。

 巡航は当初19000フィートの予定を13000フィートで飛行、さらには11000フィートへ下げているそうで、下には海面が見える。よってこの辺りでは雲が架かっていないのだが、果たして東進すればどうなる?

 

 ベルトサインは12:08~12:20に消灯しCAが機内を巡回。新発見その2はサービス基地で、103型では新聞・キャンディは前方ギャレイに備えていたが、Q300では後方ギャレイに置き、CAは一旦後ろへ下がってからサービスに当たるようになった。

 前方ラバトリー向かいにあった物置カートの所がすっきりし、同時にリュウキュウエアーCAがギャレイに入ってそして出てくるのが新鮮な場面に映り、ドリンクサービスでも行われそうに錯覚するが、そちらは今も実施されず。

 対してA-netのQ300ではドリンクサービスを実施、リキッドコンテナを用いて温かい飲み物も出す、とホットコーヒーをJA801KとJA802K客室で飲んだ私がCAに説明、加えて5日前の三宅島線再開往復の画像も見せれば「2人乗務なんですね~」。

 A-netのQ300はYS11置き換えを目的として導入され、機内サービスもYS時代のものを踏襲している。いっぽうRACのQ300は昨春2007年4月路線就航であり、1999年7月に退役したJTA YS11A代替ではない。しかしながら赤い垂直尾翼はJTAのYSを思わせ、客席数50というQ300の客室はDHC-8-103以上にYS11Aの64席に迫るものだ。そして私が石垣~与那国で乗ったYSでもキャンディ・新聞だけだったので、今日の861便フライトは私の記憶の中にあるYSと相似形を成している。

 そしてそのことは快適性にもつながる。特に本便のように引き返す可能性もあるフライトなら長時間でも心地良く過ごせる客室空間が必要不可欠で、対して「オッターはしんどかったやろな~」などとCAと言い合っていた。

 

 ベルトサインが灯り全員着席、私は隣に座るCAと空旅情報交換。話題は伊平屋空港DASH8乗り入れも挙がったけれど、主になったのはDHC-6のことだった。

 ラストフライトから6年、本日当便CAは往時の退役セレモニーに出席しており、オッターは印象に残っていようが・・・今になってもDHC-6か。否、実は今でも必要な機種ではなかろうかと私は思うことがあり、CAは「大井さん、キャプテンに訊いてみて下さい。いつもRACのことを考えて下さる大井さんに、このお話についてキャプテンを会わせない訳にはいきません」、気合のこもったCAの台詞だった。

 そういうやり取りの間に降下、海が雲で隠されるようになりやはり大東島地方の天気は悪いのか。DASH8は真横の風でも25ノットまでなら降りられるので、問題は視程のみだが。

 方位磁針が回り東100度から北20度へ、ん?ランウェイ02へ進入?風向きが変わった?そのまま北へ向かえば雲の隙間から陸地が見えた。そうか回って20アプローチか、ともあれ右旋回してヘディング200度、だが着陸するには高く、それは当然でその島は北大東島であった。ここまで来るとは計器飛行/IFRで南大東へ進入中。

 再度洋上へ出たが、この位置なら既にランウェイ20に正対していると思われるが下は雲。それに突っ込み下へ出たら確かに雲は低い、けれどもCAへ「致命的な低さじゃないですよ」。成田ではここまで雲が下がっていたのかと思う時があったが、今の南大東空港はそこまでではない。

 着陸は12:52、今回飛行時間は53分で、2005年1月の有視界飛行/VFRランウェイ02降り46分に較べればやっぱり遅かった。

 

 エプロンは小雨、ターミナルでは862便那覇行きの搭乗手続き中。私はそのカウンターで午後便の見込みを訊くと、今の時点では通常通りの予定と言われた。また天候調査がかかるのならすぐに862便で那覇へ帰るつもりだったが、スタッフの言から島での用は済ませられそう。

 そこへ861便機長が降りてきて、まず訊いたのは先程の進入のこと。北大東の上からはランウェイは見えず、雲の下へ出て初めて視認できたとのこと。「当初は雲が低かったんですが、時間が経てば上がっていくだろうということで出発しました。それでもミニマムで降りましたが」、そういう状況だったのか!と戦慄する私。そして「この先の天気はどうなるんですか?」「また南の方に厚い雲があって、こちらへ上がって来ているみたいです。この先天気は悪くなると見込まれます」、さあ。どうする?私はここで862便に乗るか、ここに留まるかの決断を下さねばならない。

 肝心のことでは「悪天候時、アイランダーとオッターではどちらが着陸する可能性が高いか?」。私の質問の意図は離島空港就航率向上にはどちらが有利か、ということで1人乗務vs2人乗務などの運航側の経済性よりも、ここでは旅客側の旅行成立を問題として訊いてみた。

 機長の回答は「オッター」、理由は計器飛行が出来るということから。ならば噂に聞くDHC-6-400を導入して、残る800mランウェイに飛ばせないものかと言ってしまう私であった。

 

 さて小規模離島空路確保はこの先どないすんねん。規模の大きい、より大型の機材が入れる空港にしてしまう手もあり、ここ南大東がそう。同様に北大東・多良間が1500mランウェイを有するに至り、多良間ではDHC-8就航によって欠航が減ったと聞く。与那国に至ってはとうとう2000mになり、石垣よりも降り易くなったのではなかろうか。

 雨が横から降りつけるデッキに上がりQ300出発を見る。赤い垂直尾翼のQ300の客席数は50、南大東航空路史上で最大のキャパシティを誇る。昭和49年8月半ばまで来ていたYS11Aは60席だったけれど、旧空港の特殊事情により乗れるのは40人台だったと聞くので、やはりQ300がここでは最も大きな飛行機だ。また現地でもQ300は「大きい飛行機」と呼ばれている。

 ランプアウト、機長がグランドスタッフに手を振り、そして送迎デッキへも手を振った。離陸はランウェイ20のまま、ターミナル前で離陸、デジカメのシャッターを2度押し、すぐにその写り具合をを確かめ、再度南の空を見上げたらJA8936は音だけ残して見えなくなっていた・・・。

 

 2005年1月下旬から再開と聞いていたレストランは閉まっており、「大東そば」を食べようにも在所集落は歩けば遠い。この際幾つかある要件のうち博物館「まるごとミュージアム」だけに行こうと歩き始める、外は小雨。ああ初めて与那国へ行った時は小雨~曇り~大雨だったなあ、今日もそうなるのかなあ、と思って歩いていたらワゴンに拾われ、そのまま博物館へ。入り口前には大きな水溜りがあり、先に大雨が降ったと聞いていたがそれが判る水溜りだ。

 館長からお話を聞き、そうするうちに空港へ戻る時が来て、館長が空港へ14:50頃電話。まだ那覇を上がっていないけれど飛ぶということで、ほっとする。

 なるほど空が明るくなっている。いっぽう867便出発が遅れたのはこちらの天候調査ではなく、空港で訊けば「前便到着遅れ」。私は思わず「与論便やな~」。

 カンパニー無線が聞こえ、867便はこちらへ向かっている。そうなれば私も落ち着き、南大東で霧が発生した時の状況を聞いてみた。ターミナルからランウェイが見えなくなり、そのため午前便が3~4日続けてキャンセルになることがあるそうな、ただし午後には晴れて午後便は飛ぶとのこと。さすれば霧が発生し易い状況を予め調べておこうと空港測候所へ行こうとしたが、今は無人測候所。

 

 867便到着が近くなりデッキへ上がると、確かに視程は良くなっており北大東島が見える。風がややあるけれど南風で着陸には問題あるまい。あ、867便DASH8を視認、東向きから右旋回で進入、の様子がここから見えるというのはVFRではないか、861便とはえらい違いだ。ともあれ無事ランディング、機材はJA8935。

 ささっと私は1階へ降り、ターミナルへ来た機長に質問「キャプテン!さっきの進入はVFRですね!」「ええ、途中で(IFRを)キャンセルしました」。

 話を戻し、往路861便CAから861便で私のRAC搭乗歴を訊かれたのだが、「僕はそんなに古くはないですよ。2000年1月からなので搭乗歴8年です」。けれどもCAには私がベテラン搭乗者に見えたらしい。

 だとすればDHC-6に乗り、そのオペレーションを見聞きしたのは、私には相当の財産になっているんだなあ。