私が座る席は最後列右窓側62K。いつもは通路側を指定するが、この日ばかりは予め「最後列右窓側」の席番を訊き、事前座席指定できない所だったので、搭乗手続き前から並んでその開始と同時に取った。駄目ならその近くの右窓側でも構わなかったが、とにかくJALコンフィギュレーションコードD12の後方右窓側という所は、旅客機趣味者にとってはファーストorエグゼクティブクラス以上の価値がある席だ。

 タダでエグゼクティブクラスにアップグレードしてあげようと言われても、2004年4月に於ける私のこの便の搭乗においては、団体に囲まれるかもしれない62Kのままにするだろう、しなければならない。

 2004年4月26日(月)、韓国から帰阪する時に選んだフライトはプサン・キムへ/金海空港12:00発関西行きJL968便。前夜のインチョン発でも帰阪できたが、滞在を延ばしてまでも、プサンへ移動してまでも968便搭乗を目論んだのは、同便充当機材がJALから今夏~秋退役予定のマクドネルダグラスMD11だから。そして62Kを指定した訳は・・・。

 

 「いつも御搭乗ありがとうございます。本日の機材はコウノトリでございます」と私は客室乗務員から挨拶される。あれ?確かに私はJMBクリスタル会員で、今日のボーディングにおいてもクリスタル会員カードを高々と掲げ真っ先に機内へ入り、最前方から最後方まで客室乗務員に挨拶していった。だが、所詮はクリスタル。JALグローバルクラブ会員のように挨拶はされない身分なのだが。

 且つCAの挨拶の言葉にはばっちり機材に関することまで入っており、これはもう解る人にしか解らないやりとりである。このような待遇を受ける理由、それは私がMD11愛好家だからに違いない。

 

 12:02プッシュバック、12:07キムへ空港スタッフに手を振られてランプアウト、JA8586はランウェイ36Lエンドへタキシング。途中吹流しを見たら追い風で離陸するのが判り、キムへ空港は36方向が優先使用のようだ。

 12:15離陸。飛行距離が355マイルと短い時の3発エンジン機の離陸上昇感は、まことにダイナミックで素晴らしい。

 ランウェイ18エンド先の山を臨みながら左旋回、上昇しながら270度回り、90度・真東方向へ進んで日本海へ出た。

 

 雲を突き抜け青空の中へ、銀翼に記された「JA8586」と主翼先端ウイングレットに描かれたコウノトリが陽光に照らされる。そしてこの眺めこそJAL MD11 J Bird に乗ったことの証し。私はカメラにその様を収めるが、席番62Kはこれを撮れる位置なのだ。

 キムへでチェックイン・出国手続きを済ませた私は、早々にゲートへ来て関西からのJL967便を待った。スポットインした機体にはウイングレットが付きそこには鳥が描かれており。そう、お目当てMD11でしかも鶴丸塗装。

 新塗装になったMD11・JA8582は旅客機趣味者の間で大きな話題になったようだが、私にとってJAL MD11というのはJ Birdであり、客室からウイングレットに描かれた鳥を見て自分がMD11に乗っていることを実感するのだ。

 

 12:22ベルトサイン消灯、ヘディングは真東90度。高度は29000フィートまで上がるとのこと。ここでCAからギブアウェイ、何かといえばJAL新塗装機ミニモデルと直筆のメッセージカードであった。自分が旅客機趣味者であることを知らせているとはいえ、俺はすごい待遇を受けているな。そしてその余波は隣席韓国人男性にも及び、飛行機モデルが渡されていた。

 

 エコノミークラス後方は団体客で占められ、空席は少ないようだ。しかしながらMD11のYシートはボーイング747-400のそれより若干広く感じられ、MAGICシステムが無いぶん前席までの間隔が大きく「ゆったり」している。

 今乗っているJA8586のコンフィギュレーションコードはD12。長距離用で成田~チューリヒなどにも投入されるが、この居住性なら私は12~13時間乗っても構わない。

 私はJAL MD11過去4回搭乗において中~短距離用コンフィギュD02・D03、J Bird愛称でいえば「クマタカ」「ライチョウ」「エトピリカ」に乗っているが、長距離用D12は今回が初めてで、ようやく元ファーストクラスゾーンとその後ろのギャレイを見ることが出来た。

 

 いやいやこういうことは成田~チューリヒに乗れば簡単に済んでいたことではあるが、大阪発同日成田乗り継ぎで欧州へ向かうには成田発午後便になってしまい、午前10時台出発のチューリヒ行きには乗り難いという事情が今もある。

 ああ、こんなことならもっと早く乗っておくんだった。あと、数ヶ月内でチューリヒに行けることなんてあるだろうか。なお一般的にはJALのマクドネルダグラス系機材は敬遠される傾向にあるが、MD11の高い居住性を知る私には、少なくともMAGICが無いことなどどうでもよい。

 

 食事サービスでは、以前のようなおしぼりタオル配布は無くいきなりランチBOX配布だった。中は紙お手拭・紙パック入り緑茶・例のおつまみ・プラケース入り寿司・クロワッサン1個である。私の席へ回って来た時、私は「安全のしおり」をテーブルに立てて撮影中で、CAに「よろしいでしょうか」と訊かれてしまった。何やら恥ずかしい場面だった。

 箱を開けてその中身も撮る。そしていつもなら中距離国際線に於ける「ドリンク・おつまみ」~「食事」という順番にならい、おつまみをバリバリバリ~ッと口にした。けれども今日ばかりは機外の撮影をするので、食事を取る時間すら惜しい。先にメインディッシュから手を付け、その間にも綺麗に日本の地上が見えたらシャッターを押していた。

 CAがホットドリンクサービスで回って来ても、私はまだパックお茶すら飲みきっていなかったので後回し。おおっ、体が傾く。ターンだ、バンクだ、ウイングレットの先には地上が見える、シャッターチャンス!という有様で、撮り終えたら食事の続きという具合。

  

 それでもMD11フライトでは、食事は重要な要素である。

 私はMD11=国際線=機内食という発想の持ち主で、食事が出ないMD11フライトならそれには乗らない。したがってエコノミークラスでは軽食が出されない関西~プサンJL967便には乗らず、食事時間帯にかかるのでコールドミールとはいえ軽食の出るプサン~関西968便を選ぶという訳だ。

 

 寿司・パンを食べ終えた頃JA8586は直進しているようなので、私はおつまみを口へ流し込みCAへスープをリクエスト。紙コップが2つ重ねられて渡され、結局私は透明プラ製コップを見なかった。

 再度右バンク、シャッター。続いて左バンク、青空にコントレール、それとウイングレットをファインダーに収めて撮影。

 13:02ベルトサイン点灯。方位磁石を見て、食べて、飲んで、NHKニュースを見て、写真を撮って、気付いたことをメモする、何と忙しい搭乗をしていることか。関西空港へ近づいても徳島空港や和歌山市街がよく見え、写真を撮っていた。

  

 進行方向は60度、そのまま海面が近づいたので着陸はランウェイ06。13:10着陸、飛行時間は55分。短絡コースを取ったのでこういう飛行時間になったとのこと。

 よっておそろしく慌ただしい国際線フライトとなり、私には心理的余裕無し、終始緊張感が伴う時間であった。

 降機する時にどっと疲れが噴出したかのようだったが、JALからの退役が近づくMD11、さらに同型機完全退役より前になくなるJ Bird フライトではそれが良いのである。

 ターミナルのウイングシャトルまで先のクルーと一緒になり、聞けば先頃までJAL WAYSにいたとのことで、ということは前までDC10、今はMD11乗務。それから82はどうこう、86はどうこうとレジストレーション下2桁で話していたら隣にいた968便機長が笑っていた。

 

 入国後帰宅前にJALプラザ大阪へ寄ってスタッフと話していたら、新JAL新制服の印象を訊かれた。

 はっ、そうだった、今回が日本航空インターナショナル便初搭乗。そしてJJ統合後の新JAL初搭乗だった。かくして私はそれを梅田で思い出すほどの鈍い有様だったが、実際キムへ~関西ではそのことを全然意識しなかった。

 制服ってどこが変わったんですか~?と機内で訊かず、JALプラザで訊く俺。

 そもそも搭乗機材塗装がJ Birdだったので、新JAL搭乗ということが頭からすっ飛んでいたのだ。