「この格安航空券全盛の時代に、エコノミークラスフルフェアの航空券を買う人なんているんでしょうかね」と言い放っていた者がいる。この私だ。

 正確には「日本国内での発券の場合」であり、海外発券ではノーマルY運賃はかなり安くなることが多い。ともあれ日本発のは1年有効・変更自由という柔軟性を考慮しても割高感があり、誰が買うのかという印象すら抱いてしまう。しかし、そういう私がノーマルYの航空券を買う時が来た。果たして如何なる事態が発生したのか!?

 

 2000年10月下旬、ANAの時刻表を見ていると関西~ソウル線に「NQ」の文字があった。8月の時点で関西~ソウル線を新会社「エアージャパン」に移管すると全日空プレスリリースにあり、それで1月より新エアラインデビューを知った。そうなると例によって初日の様子は見に行きたくなるもので、時刻表でスケジュールが発表されたらデビューとなる1月1日のNQ171便に乗ってみようと、全日空大阪支店へ運賃のことなどを相談しに行く私であった。

 当初案はその頃に達するであろうAMC15000マイルの使用もあったが、使えない時期。ではゾーンペックス運賃GETは・・・63000円もしてノーマルY往復66900円に近い額。いっそのこと、という訳でもなく普通運賃で行くことが浮上した。

 しかし片道511マイルのソウルへそんな額で行くのも抵抗があり、もっと安くする方法は?そうだ、かつて熱心に研究していた韓国発のY運賃で飛行機に乗るか、「セマウル号」と船で帰ろう。かくして日本からはエコノミークラスでは「最も高い」37300円の片道Yで行くことにした。

 

 カウンターでNQ171便航空券のことを告げると、NH171便としてなら発券できるが、NQなら「チケット・バイ・メール」だけとのこと。また認可前だったので、購入は後日回し。

 その後正式に1月1日から「エアージャパン」の機材・乗員で運航とプレスリリースに出て、私も予約しに行った。今度は別スタッフへ1月1日のNH171便と告げると「この時期のGETって幾らやった?」、対して私は「片道Yです」。「!?」、次の瞬間笑われることに。

 上のことだけではまだ終わらない。さらに別スタッフから「不満の残る機内サービスかもしれません」と言われた。私はサービスが縮小されるのかと思っていると、家に電話が掛かり機内食が出ない旨を知らされ、ここで仰天。国際線でそんなのあり!? 全日空大阪支店で訊くと、エコノミークラスではドリンクサービスに特化し、ビジネスクラスではオードブルが出されるという。

 

 発券の時の担当スタッフから「お帰りは?」。「向こう発券で帰るので予約は12月に入れます。満席なら空席待ちか、列車・船で帰りますよ」「そんな冒険を??」「スリリングで楽しいですよ」、そう、こういうことは今しか出来ぬ。

 12月28日、全日空大阪支店カウンターが開くのは年内はこの日まで。私の20世紀最後のここでの台詞は「行ってきますね」・・・私の旅行は多くの人を巻き込んでいる、いや多くの人たちに支えられているのだ。

 

 2001年1月1日午前6:45関西空港ターミナル4階、9:15発NQ1そしてNH71便搭乗手続き開始。カウンターには「Air Japan」の札が掛かっていた。

 ANAとのコードシェア便なので、電光掲示板には「エアージャパン」「全日空」が2段に並んでいる。さてこのカウンターでも「今日からエアージャパン運航なので食事は出ません」と告げられ、私は地階ローソンで食料を買い込みベンチで朝食。

 8番搭乗口に来たのは8:00で、私が乗ったウイングシャトルのは丁度セレモニーへ向かう人たちも同乗していた。そこでは既に記念ゲートが用意され、報道陣もカメラをスタンバイ、出発1時間15分前なのに国際線ではこういうのは早く始めるのか。

 

 初便搭乗の方ですかとスタッフに訊かれ、そうだと答えると記念撮影に案内された。記念ゲート前でポラロイド撮影、おお、エアーニッポンと同じだ。ということはANKスタッフもいるのではと思ったが、そちらは見当たらず。

 いっぽう、一般搭乗客はまだ少なかったが、昨年8月7日フェアリンクデビューフライトで一緒だった趣味人と再会。171便で行き178便で帰るCクラス日帰りとのことで、私は感心。対してその方も、私が初日の出フライトチェックインも見るべく4:00に関空へ来たとことへ感心された様子。

 ポラロイドサービスは8:10までで、8:15からセレモニー。エアージャパン社長、全日空カンパニー長の挨拶、花束贈呈、そしてテープカットではなく鏡開きで、8:25に終了。8:45の搭乗開始まで再びポラロイド撮影、そして酒・ジュースが配られていた。

 その間私はジュースを飲んだり機体を撮影したりで、機材はANAのボーイング767-300ERだが、機首部にANKのロゴがあり中央部に「Air Japan」ロゴが入っているという外観である。

 

 アナウンスが入って搭乗開始。始めはCクラス客からで、私や報道陣が記念品を受け取って搭乗改札を通る場面を撮ろうとするが、皆控えめでぱらぱらと機内へ向かう。

 続いてYクラス客、私もL1ドアから入ればそこはCクラスキャビン。767-300ERにはHD・BC・BRで乗っているがNHのものは初めてで、2人-2人-2人で並ぶCLUB ANAのシート見るのも初めて、ピッチが大きいぞ。

 私の席は最後方でさらに奥へ進むが、Yキャビンは国内線767-300と同じ感じであった。9:13プッシュバック、満席近いではないか。

 

 ビジョンに映し出されたいつものANAのセーフティインストラクションを見た後、いよいよエアージャパン就航第1便が離陸、その時刻は9:23だった。

 シートポケットにあるのは「翼の王国」国際線版やヘッドホン。私はオーディオを聴くのだが、このオーディオというのが意外で、私は「機内サービス見直し」と聞いた時はこれが省かれると思ったからだ。というのは、同じく大阪~ソウルを飛ぶアシアナ航空がこちらのサービスを実施していないから。

 ベルトサイン消灯は9:34、キャビンクルーによる機内サービス開始。韓国入国書類を配り、その次はカートを押してのドリンクサービス、だけではなく袋入りおつまみも手渡していた。

 

 ああ、本当に食事無しだ、いや、この「おつまみ」付きドリンクサービスは見方によれば「茶菓子」とも受け取れるな、等々私は様々に思い巡らせていた。それが終わると一段落、OZクルーが終始動き回っていたのとはえらい違いだ。

 しばらく座って客室を眺める。おかしい、デビューフライトなのに静か過ぎる・・・キャビンで撮影する人がエコノミークラスにいないのだ。取材の人っていないの?と思いつつ私は客室模様1カットを撮影。そして客室散策をすれば空席僅か、ギャレイでCAへ訊けば韓国人旅客のほうが多いとのことだった。

 

 私は次のような「食事無し」機内サービスの感想を伝えた。大阪~ソウルのような国内線感覚の路線ではドリンクだけであってもおかしくはなく、従来のJAL福岡~プサン線でも食事は無い。しかし「国際線サービス」として食事に期待する層もいる。「おかき」のような「おつまみ」なら、クッキーも出して「茶菓子」サービスにしてしまえばどうか・・・私には「せめて茶菓子を」という気持ちがあるのだ。いっぽう短距離国際線サービスの在り方としてAJXの方針を注目されよう、ということも。

 AJXのこのサービスの在り方は、これまでの利用者の様子を調べた結果「アルコール類が多く出される」ことが判り、よって食事よりドリンクになったと聞いた。そうか、利用者動向がそうだったのか。そして日本人と韓国人の比率も無視出来ない要素かもしれない。

 国が違えばサービスに対する考えも違うのでは。韓国国内線サービスは、モノクラスキャビンでドリンクだけで、国際線でも国内線同様の感覚で乗るとすれば食事は気には掛けまい。そしてこの先AJXのサービス体制が支持されたら他の航空会社も追随することが予想され、チャーターで韓国に就航するスカイマークや、近い将来大阪~ソウルで移管を受けると予想されるJEXでもそうなりそうな気がする。

 

 ここでは上のような堅い話だけではなく他のことも。「就航に当たっての抱負を」とCAへ言う私へ、同じくギャレイにいたCAが「面接みたい!」と笑い、「いや私はただの一般市民です」と自身の正体を明かす。で、回答だが「客室乗務員も楽しめるような雰囲気のキャビンにしたい」であった。

 AJXは関西~グアム線もANAからの移管が予定され、ダイヤ・機材が今のままで移管されるとなると569人乗りボーイング747-400Dでの深夜~未明往復。この場合の機内サービスは、深夜便という事情のもとでどんなふうにすればいいんでしょうねと訊かれた。よし、それではNH173~174便でグアムを往復、乗客の様子を見て来よう、というのが頭をかすめる。

 

 下を見たら陸地で、もう韓国上空。巡航高度35000フィートから降下しつつあるのだろうか。それにしても寒そうで、アナウンスによるとソウルはマイナス8度。ルートは米子から韓国東海岸へ進んできたと思われ、眼下には山地が見える。

 10:44ベルトサイン点灯。高度を下げたら道を行く自動車が見え、そして高速道路らしきも多く見えるが、正月だからか台数は多くなく、というよりがらがら。

 10:55着陸、その瞬間を狙って拍手しようかと思ったが、本日は自重。私の周りに同時に拍手しそうな人がいなかったからで、私は飛行中からこのフライトがデビューだと知って来た人は果たして何人いただろうと思っていたくらいだ。

 エア・ドゥ、スカイマーク札幌線、天草エアライン、フェアリンクのデビューフライトでは旅客機に関心のある人が多かったけれど、国際線ともなれば状況は異なるものだ。

 

 ともあれ1時間32分のフライトは終了。これまでの機内アナウンスにはデビューを知らせるものが勿論あったが、「キンポ空港では撮影は禁止されております」・・・これもデビューならではのアナウンスではあるまいか。

 機体停止、私は後方ギャレイへお疲れ様ですと挨拶へ行った。CAから今日の私の旅程を訊かれ、自ら呆れながら「日帰りです」と答えた。ここで「178便で帰りましょう」と誘われ、そしてそちらに心が傾いたが、私は比較のため敢えて16:05発JL964便で帰国。他社便と冷静且つ厳しい比較をすることも、新生エアラインに対する礼儀であると考えているから。

 クルーと記念撮影の後、カードが手渡された。メッセージカードだ!このフライトで一番楽しい思いを出来たのは私かもしれない、ありがとうAJXクルーの皆さま。

 

 ボーディングブリッジをわたれば到着歓迎式が・・・なんてのは無く、皆入国審査へ急ぐのだった。いっぽうソウルでの出発式はあったのやら。

 以下は復路のこと。帰国の航空券はソウル発のノーマルYで買うつもりで、その額は215000ウォン。市内ではもっと安価なものもあるようだが、空港発券で購入。こうしてJALカウンターにてフルフェア215000ウォンと隣の両替での空港使用料9000ウォンがキンポ空港で支払った額で、円換算で21160円。航空券代だけなら20310円。

 そしてJL964便で帰国したのだが、機内サービスでは何があったかを簡単に書くと、おしぼりタオル、元日記念品(たぶん)の盃、ボックス軽食、ドリンク。ボックスの中身はクロワッサンサンド、寿司。チョコレートであった。AJXの比較対象がこちらとなる訳だが、サービス内容の優劣は明らかで、AJXが現行方針のままなら「乗客に提供するもの」以外の部分でアピールしなければならない。

 

 サービス簡略化を積極的に捉えるなら、短時間フライトに於ける慌ただしさがなくなったことで、もし今日従来通りに食事を出していたら、私がCAと話す時間は取れなかっただろう。

 37300円相応のサービスを求める乗客との接点は、私が言った「茶菓子」であり、また搭乗時に「軽食ピックアップサービス」を施せば従来の国際線サービスを保て、なお且つゆとりのあるキャビンを作れるのではと私は思う。

 いっぽう機内サービスは時代とともに変わるものでもある。エアージャパン関西~ソウル線もこの先どうなるだろうか。