コロナ禍というのは私にとって必ずしも悪いことばかりではなかった。感染拡大を理由に飲み会や冠婚葬祭等は中止、若しくは規模を縮小する必要に迫られ、過剰に人付き合いで気疲れすることも激減したからね。とは言え、それまで楽しんできた趣味にも大きく影響することになり、さすがにモヤモヤする休日を送っていた気がする。

 

 走ることが嫌いな人には絶対理解できないスポーツがマラソンだと思う。前述の通り、私はチームプレーが苦手だけど、ハマるととことん追求してしまう性質だから、マラソンという趣味を10年以上続けて来られた。「何でお金を払ってまで苦しい思いをして楽しめるのか?」そう問われたら、「ゴールした先で新しい自分が見付かりそうな気がするから」と答える。

 

 新型コロナウイルスは2020年から広まり、パンデミックとなった。私が最後に出たフルマラソンのレースは2020年2月2日に開催された別府大分毎日マラソン。私にとっては、ずっと憧れの大会だっただけに、そこで3時間18分という記録で完走できたことで一区切りが付いた気がする。

 

 コロナ禍による相次ぐレースの中止は、多くのランナーさんにとっても辛い現実だったと思う。私も毎年10レースくらい参戦していたので、「大会に出ない=目標がない」となってしまい、休日に走らない理由を考えることが増えていった。平気で半月くらい休足するようになり、このまま走れなくなるんだろうなって思っていた。Twitterを開くとフォロワーさんのランツイが目に入ってしまうから、SNSからも一時期離れてしまった。

 

 そんなモヤモヤした日々が2年近く続いて、漸く「屋外ではマスクを外しましょう」という政府見解、全数届出の見直し等、少しずつだけど新型コロナウイルスとの共存方法が見えてきているように思う。完全とは言えないけど、マラソン大会の開催も増えてきている。

 

 しかし、コロナ禍開催で経費が膨らんでいるのか、エントリー代の値上げで定員割れの大会が続出。更にランナーを軽視しているような主催者側の悪い対応の噂まで聞こえてくる始末。ランナーさんそれぞれの思いで大会に参戦しているだろうけど、私は前みたいに年間10レースも参戦するのは難しいかなと思っている。

 

 それは走るのが嫌になったというわけではない。必ずしも毎月大会に出続けなくても、私にとっては健康増進や体型維持、気持ちを整理する機会としてマイペースに走り込む日々も楽しいと思っている。人と競うという意味でロードは楽しいけど、自然と向き合うトレイルは全然違う空間がある。

 

 さて枕はこの辺で、本題に入ろう。

 

 2年半ぶりの大会参戦として選んだのが下関海響マラソンで、私にとって初フルマラソンの大会でもある。別大後ダラダラと気の抜けたランニングを続けていて、スイッチが入ったのが今年の8月くらいだろうか。下関まで4カ月で、どこまで走力を戻せるのか?初心に返ったようでまたイチから頑張ろうと思えた。

 

 走力は落ちても10年近く走ってきた経験がある。練習メニューは基本考えない。決めるのは目的に沿ってどこを走るかくらいだろうか。後は走りたいように走るのが私のランニングスタイルです(笑)一緒に切磋琢磨してくれたり、的確にアドバイスをくれる人がいれば全然違うんだろうけど、基本練習は独りで時間も不定、気分屋さんだから型にハメるやり方は難しい。その一方で、走ると決めたら一切手抜きしないことが私の良いところかもしれない。

 

 それは「練習で今日のベストを出せないのに、大会でベストを出せるはずがない」であったり、「明日、事故や怪我等で走れなくなったら、今日全力疾走しとかないと後悔する」って想いがあるから。練習メニューよりも、走りたい気持ちを重視!マイペースって良し悪しはあるけど、そのおまけ的に走力が上がればいいかなと思っている。手抜きできない分、入れ込み過ぎると怪我しちゃうし、怪我をして走りたい時に走れないのが一番辛い。

 

 週一ペースで整骨院に通って身体のメンテナンスをしてるので、大会前日にテーピングを依頼してみたけど、絶対ランナーにテーピングしたことないだろうって状態になってしまった(笑)大腿四頭筋へ縦に2本10センチ間隔で貼ったまでは良かったけど、その間を埋めるように何度も右から左から小さくテーピングを貼り出して・・・。確かに筋肉の伸縮をサポートしている感覚はあったけど、大会前に全部剥がれるって容易に分かった。

 

 案の定、帰宅してトイレに座った勢いでべりッと剥がれてしまい、ワンロール使ったテーピングが30分程度でゴミになりました(笑)私はもっとシンプルなテーピングを考えていたので、10cm×4本、20cm×4本のテーピングを準備。ロング走で違和感が出る場所として大腿直筋にバツ印になるように10cmのテーピングを貼って、その四隅が剥がれないように縦に2枚20cmテーピングを貼ってみた。キネシオタイプだけど、テンションを付けすぎるとフルを走り切る前に剥がれて走りに集中できないので、ほとんどテンションを掛けずに貼っただけの状態。

 

 天気予報では当日快晴、スタート時の気温が14度、気にならない程度の風というコンディション。始発で現地へ到着した時、予想より寒くなくて暑さ対策を考えようと思った。急きょ帽子を被ることにして、大きめのゼリーは3種類、スタート時から手に持って少しずつ飲み続ける作戦にした。私はコンタクトなので、目に汗が入るのが本当に嫌でロング走はハンドタオルを持って走っている。

 

 私は2列目のBグループからスタート。スタート5分前、軽くぴょんぴょんと飛び上がって、スタートに向けてリラックスする。サングラスを付けると同時に一気に全集中(笑)スタートの号砲でゆっくり走り出す。序盤はランナーさんで密集しているけど、隙間があれば一瞬ダッシュして次々に追い抜いていくという、いつも通りの出だし。5km過ぎ、Aグループに混ざって4:35/kmペース、少し速いと思いつつも前半のハーフで貯金を作らないと後半巻き返す脚が残っている保証はなかったので、行けるところまで行こうと思った。

 

 最初の直線は緩い追い風で無風状態、周囲のランナーさんはTシャツに汗が滲んでいたけど、私は額からの発汗のみで済んでいた。とは言え、サングラスを外して汗を拭くという、中々面倒な作業が続いていた。最初の折り返しを済ませ、適度な海風が全身を冷やしてくれた。ペースは変わらず4:30~4:40/km辺り、周囲のランナーさんの入れ替わりが減ってきたので、ペースやリズムが近いランナーさん以外は気にしないよう頭を切り替える。

 

 10㎞を過ぎた辺りから脹脛や大腿四頭筋に違和感が出始める。レッグスリーブとテーピングでサポートをしているものの、ピッチ+ミッドフットで出来るだけ足に優しい走りを心掛けた。ペースを落とさず、後半の坂道ゾーンへ入る。腕をコンパクトに、坂の傾斜を意識し過ぎず、しっかり足を動かす。自然と登り坂でペースが落ちてきたランナーさんを一人二人と追い抜いていく。

 

 難所の長い登り坂はきついものの、追い込まれる感じで改めてやる気が増して心が折れることはなかった。登り切った橋からの見晴らしはとても最高で、海の青と空の青がそれまでの疲労感を一瞬忘れさせてくれた。下り坂に入ってから、登り坂のペースダウンを取り戻そうとブレーキを掛け過ぎず下っていく。

 

 25㎞過ぎ、反対車線でハイペースですれ違っていくトップ集団にエールを送る。もちろん反応はないんだけど、自分に対してエールを送っている意味合いもあった。ゼリーは2袋飲み干して、残りは出島で受け取るゼリー次第。出島へ向かう橋の直前でサブ3のペーサー、出島大橋でサブ3.15のペーサーとすれ違って(私の前方を走っている)、まずPB更新は難しいなと確信。それでも目標であるサブ3.5はまだ望みがある。

 

 出島での最後の折り返しをしてゼリーを受け取った先でサブ3.5のペーサーとすれ違った(私の後方を走っている)。恐らく差は10分程度、残り15㎞が5分前半ペースまで落ちたとしても追い付かれない距離と考え、残りの坂道で追い込み過ぎて足攣り等を引き起こさないよう気を付けた。

 

 前半、元気に走っていた時はそこまで響かなかった沿道からの声援も、30㎞を過ぎると背中を押されるように勇気付けられる。大腿四頭筋はビシビシ疲労が溜まって動きが悪くなっていたけど、ただひたすら前進、今のペースを知って焦りたくないので、余り時計にも目を配らなかった。難所を登り終えてから残りは下りと平坦のみ、脚はまだ残っている。

 

 残り〇kmというカウントダウンが始まってからが意外に長く感じるもの。実は序盤の5㎞辺りから、ずっとトイレに行きたかった(笑)発汗することで急激な尿意にはならなかったが、大会でお腹を壊した経験もあるので、水分のがぶ飲みや急激に身体を冷やすことは控えていた。

 

 残り5㎞を過ぎて、サブ3.5を確信。残り1㎞、段々とメイン会場での声援が大きくなってくる。いつもならゼーハー呼吸を乱しながらラストスパートするけど、今回は走り込み不足で脚が作れていなかったから、そのままのペースでゴールゲートを越えた。振り返って帽子を脱いで深々と一礼する。

 

 PBには届かなかったものの2年半ぶりの復帰レースでサブ3.5で自分に「よく頑張った」と言いたくなった。褒めるのも褒められるのも苦手なんだけど、今日は素直に受け入れられた。走り終えた後も大腿四頭筋はビシビシ痛みがあるものの、歩けないほどの激痛ではない為、我流のテーピングは効果があったのかどうか。今後も検証してみたい。

 

 もう一つ嬉しかったのがフォロワーさんと大会前後で一緒に過ごせたこと。人と居ることで全く気疲れしないわけではないけど、気の知れた関係なのでストレスより楽しさの方が上回っている。独りぼっちの趣味って寂しいからね。私なんかとも仲良くしてくれるフォロワーさんは大切にしなきゃと思います。

 

 次の目標はトレイルレースの復帰。ロードでサブ3を目指すのも格好良いけど、私は時間的にも性格的にも計画的に練習をこなせないので、サブ3.5をクリアし続けるくらいがちょうどいいかなと思う。トレランはリスクが増すし、マラソン程の競技人口もないけど、私に合っている気がする。「自分なりに楽しい時間が過ごせる」ということを、これからも大事にしていきたい。