プラナカン 東南アジアを動かす謎の民

著者:太田 泰彦

日本経済新聞出版社

 

 

「プラナカン(Peranakan)」

シンガポールにいるとたまに耳にする言葉です。

 

この本を読む前は、中国文化とマレー文化が融合された文化、と理解していました。

読み終わった後もこの認識で間違ってはいなかったと再認識しています。

ただその定義は曖昧で、地域・国によって定義が違っていることも知りました。

 

プラナカン料理(ニョニャ料理)はなかなか日本では食べる機会がないと思いますが、イメージしやすいものではシンガポール航空の客室乗務員の女性用衣装、サロン・ケバヤはプラナカン文化の1つと言われます。

※シンガポール航空のユニフォームのデザイン自体はプラナカンに着想を得たフランス人デザイナーによるものです。

 

「プラナカン」そのものにはうっすらとした興味を持っていましたが、この本を手に取った1番の理由は「なぜリー・クアンユーは隠し続けたのか?」という帯の言葉でした。

シンガポール初代首相のリー・クアンユーさんが客家(はっか)というのは知っていましたが「プラナカン」とは知らず、しかもそれを隠していたという事実に驚き、中身を確認することなく購入しました。

 

第1章、そのリー・クアンユー初代首相へのインタビューシーンから本書は幕を開けます。とても臨場感のある描写で、自分がその場にいるかのような張り詰めた空気まで感じられます。

 

その後はなぜ同氏が「私のことを、その名前で呼ばないで欲しい」と語ったのか、その背景にあるシンガポールの歴史や社会文化に触れられます。本章の最後はリー・クアンユー氏の長男で現シンガポール首相のリー・シェンロン氏のスピーチでの一言、「私はババです」を通して改めて、シンガポールにおける「プラナカン」の位置付けを、現在の社会動向とともに紹介されます。

 

第2章以降は、主に食や芸術といったプラナカンの文化面がフォーカスされつつ、要所要所では政治にも話題が広がります。ただ多くのインタビューや各地のプラナカンに関わりの深い場所を訪問した筆者の書き口はとても軽やかかつ躍動感があって一気に読み進みました。(著者は日本経済新聞の記者だそうです、さすが!)

 

どの章もとても面白いのですが印象に強く残ったのは、第3章:日本が破壊したもの・支えたものです。

一見、直接関係のなさそうなプラナカンと日本が深く交わったのは第二次世界大戦中、資源を求め東南アジアへ進軍した日本軍がシンガポールを占領した3年半でした。

悲しい歴史ですが、日本人としてこの事実は知っておかなければいけないと思いますので、このトピックに1章割かれているのはさすがだなと感じます。

 

東南アジアの文化に興味のある方にはとても読み応えのある本だと思います。特に、シンガポールへ行かれる機会のある方はぜひ読んでみて頂きたいです。(日本→シンガポールの7時間弱のフライトにちょうど良いかもしれません!)