写経屋の覚書-はやて「今回は『軍需会社と援護法~準軍属たる「現員徴用者」の確認方法~』から、現員徴用の定義についてみるんやよね?」
写経屋の覚書-なのは「うん。構成的には軍需会社についてもいっしょに触れているから、合わせて見ていくよ」

二 軍需会社・現員徴用者とは
 軍需会社とは、軍需会社法(昭和一八年一〇月三一日法律第一〇八号)第二条によると、兵器、航空機の生産など軍需事業を営む会社であって、政府の指定するものをいう。
 同法は、軍需の充足上必要な事業について、その経営の本義を明らかにし、その運営を強化することにより、戦力の増強を図ることを目的としていた(同法第一条)。
 同法の成立した昭和一八年といえば、年初にはガダルカナル島からの撒退か開始され、四月には山本連合艦隊司令長官が戦死、五月にはアッツ島の守備隊が玉砕するなど日本の敗色が濃厚となってきており、「国力ヲ挙ゲテ軍需生産ノ急速増強ヲ図リ特ニ航空戦カノ躍進的拡充ヲ図ル為軍需生産ヲ計画的且統一的二遂行確保スル」(「軍需省設置二関スル件」昭和一八年九月二八日閣議決定)ことが求められた時期であった(「関係年表」参照)。

写経屋の覚書-フェイト「えーっと、「兵器、航空機、艦船等重要軍備品其の他軍需物資の生産、加工及修理を為す事業」を「軍需事業」と定義して、それを営んでいる会社のうち、政府が指定するものを「軍需会社」としたんだね」
写経屋の覚書-なのは「軍需会社法は1943(昭和18)年10月31日公布の法律第108号だよ。第一条と第二条は以下の通りだよ」

第一条 本法は兵器、航空機、艦船等重要軍備品其の他軍需物資の生産、加工及修理を為す事業其の他軍需の充足上必要なる事業に付其の経営の本義を明にし其の運営を強力ならしめ以て戦力の増強を図ることを目的とす
第二条 本法に於て軍需会社とは兵器、航空機、艦船等重要軍備品其の他軍需物資の生産、加工及修理を為す事業(以下軍需事業と称す)を営む会社にして政府の指定するものを謂ふ

写経屋の覚書-はやて「軍需物資の生産の強化、効率化が狙いやねんな。11月1日の軍需省設置とも関係しとるんやろね」
写経屋の覚書-フェイト「軍需省?…商工省のほとんどの機能と企画院の国家総動員部門を統合した省庁なんだ」
写経屋の覚書-なのは「うん。それでね、今回の本題はその続きなの」

 この軍需会社の営む軍需事業に従事する者は、国家総動員法により徴用されたものとみなす(同法第六条)とされていたが、これら「徴用されたとみなされた者」が、いわゆる「現員徴用者」である。

写経屋の覚書-フェイト「みなされる?徴用の命令が来たわけじゃないんだね」
写経屋の覚書-なのは「そうなんだよ。軍需会社法の指定を受けて軍需会社とされた会社は、従業員どころか会社ごと全部政府に丸抱え雇用されたような形になるの」
写経屋の覚書-はやて「んー、個人じゃなくて会社組織そのものの徴用みたいな感じになるんかな?」
写経屋の覚書-なのは「イメージとしてはそうだね。だから、国家総動員法、国民徴用令に基づかない処置だけど、それらに基いた徴用と同じとみなす、というわけだよ」
写経屋の覚書-はやて「根拠となる法律が違うから「徴用」とは呼べへんねんな…」

 政府による「軍需会社」の指定は、昭和一九年一月一八日付け「軍需省、陸軍省、海軍省、運輸通信省告示第一号」により第一次指定がなされた後、数次にわたり行われ、指定の際は主務大臣より軍需事業を営む会社に対し、軍需事業の種類、軍需事業を行う工場事業場の名称等が記 載された指定令書が交付(軍需会社法施行規則(昭和一八年一二月一六日軍需、内務、大蔵、陸軍、海軍、厚生、農商、運輸通信省令第一号)第一条)されることになっていた。
 昭和二〇年になると、軍需充足会社令(昭和二〇年一月二六日勅令第三六号)により、鉄道事業などの「軍需ノ充足上必要ナル軍需以外ノ事業」が軍需充足事業とされ、これら事業を営む会社のうち、主務大臣の指定した会社に対し、軍需会社法を準用することとなった(同令第一条)。

写経屋の覚書-フェイト「ここは軍需会社に関する話の続きだね。軍需充足会社令は、軍需物資の生産、加工や修理には直接関わらないけれど、輸送のような形で関わってくる鉄道事業なども軍需関係として軍需会社法を準用するってことだね」
写経屋の覚書-はやて「あー、なるほど。直接軍需物資に関係しないけど、間接的に関わってくるってことか」
写経屋の覚書-なのは「なぜ軍需会社法の制定時点でそこに気づいて処置しなかったのかは気になるけどね。で、軍需会社の指定を受けるとどうなるか?という説明が続くよ」

三 軍需会社の組織
 ある会社が軍需会社となると、生産責任者が選任され(軍需会社法第四条)、政府は、当該会社が政府の指定した事業以外の事業を営むことを制限もしくは禁止することができた(同法第九条)。また、政府の命令に反した場合の罰則規定も設けられていた(同法第二十三条)。
 この生産責任者とは、その会社を代表し、業務を総理する(軍需会社法施行令第六条)者であり、軍需会社のうち、例えば株式会社であるならば、取締役の過半数の同意をもって選任することとなっていた(同令第三条)。また、政府は生産責任者を解任することができ(同法第四条)、その辞任にあたっても、政府の認可を必要とした(同令第七条)。生産担当者は、生産責任者によって任命され、その指揮に従って、担当業務を遂行する責任を負う者(同法第五条)である。
 軍需会社の従業員に対しては、生産責任者、生産担当者の指揮に従うことが義務づけられており(同法第七条)、これに従わない時は譴責、訓告、減給、昇給停止等の懲戒規定(同法第二十一条)が設けられていた。
 このように、軍需会社には様々な制限があった反面、政府の命令又は処分によって損失を出し、又は適正利潤を得ることができなかった場合、主務大臣は補助金の交付、損失の補償、利益の保証をすることができ(同令第十八条)、また、賃金統制令、会社経理統制令等の各種統制、取締規定の適用を排除することができる(同法第十五条、同令第二十六条)など、優遇措置がとられていた。このほか生産責任者は、主務大臣の認可を受けた場合、株主又は会社の債権者に対して、財産目録、貸借対照表等財務諸表の交付や、財産の状況の検査を拒むこともできた(同令第二十三条)。

写経屋の覚書-フェイト「? 制限や統制もあれば、逆にいいこともある?」
写経屋の覚書-なのは「民間の私営企業から、政府が丸抱えするいわば国営企業のような形になるからね。まず会社の運営について政府の全面的な指示監督に服さなければいけなくなるの」
写経屋の覚書-はやて「政府が社長の上に来るんやね。軍需物資以外の生産や事業の運営はあかん、転職等の移動も禁止…まぁそれは当然やよね」
写経屋の覚書-なのは「その代わり、政府の指示で生まれた損失については補償があるし、賃金統制令などの統制は排除できる。株主や債権者の要求や検査も拒否できるの」
写経屋の覚書-フェイト「政府がむりやり押さえつけるだけじゃないんだね」
写経屋の覚書-なのは「そのへんが全体主義国家とはいえ、私営企業の存在しない共産国家とは違ったんだろうね。良くも悪くも強制力が弱い」
写経屋の覚書-はやて「不徹底と言えば不徹底なんやね」
写経屋の覚書-なのは「政府もそうだけど朝鮮総督府もそのへん甘いというか徹しきれないんだよね。今回はここまでにするね」

徴用の種類(1)