写経屋の覚書-なのは「じゃ、今回で『本市に於ける朝鮮人住宅問題』はお終いだから、はりきっていくね」

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写経屋の覚書-第120号_18
写経屋の覚書-第120号_19
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        B 家賃の滞納
 さらに家賃の不払を原因とする争議にして未解決のもの七二九件につき期間別に家賃滞納を観察するに、次表に見る如く一ケ月以上三ケ月未満のもの二三六件、三ケ月以上六ケ月未満のもの二三八件をかぞへ、結局家屋の賃貸借に連繋して常に問題となりがちである六ケ月未満のものが四七四件にして総数の半ば以上を突破してゐることは、一ケ年以上も家賃を滞納してゐるもの五二件にも及んでゐることと共に注意に値する。

出身道3ケ月未満6ケ月未満1年未満1・半年未満2年未満2・半年未満3年未満3年以上
全南132137823616575420
全北413-----8
慶南4657401251--161
慶北29231297-1182
忠南9711----18
忠北56-1---315
平南131-----5
平北2-------2
咸南--1-----1
咸北-1------1
京畿823---1-14
江原--1-----1
黄海-1------1
2362381445928699729


写経屋の覚書-フェイト「家賃滞納の半分強が半年分以内分なんだね。一旦滞納するとなかなか支払いが追いつかなくなるのかな?」

写経屋の覚書-はやて「不況やし、失業でもして安定収入がなくなったらそうなるん(ちゃ)う?そやけど、全羅南道出身者の滞納者がむっちゃ多いんやね」

写経屋の覚書-なのは「絶対数は多いんだけど、割合の問題になるから、出身道別の戸数内訳を見ないことにはどうとも言えないんだよ。で、ありがたいことに出身道別戸数内訳と家賃滞納戸数の割合を示した表が続いて載っているんだよね」

 次表によつて在住朝鮮人住居総戸数に対する家賃滞納戸数の割合を見るに八・二%即ち一割弱が家賃を滞納してゐることになり、更にこの割合を各出身道別に観察すれば全羅南道が第一位の一五%を占めてゐるが、この事実は南鮮地方が歴史的伝統及び地理的環境の複雑なる要素を多分に有することを想起せしむるに足るものである。
 戸数家賃滞納戸数百分比
全羅南道3,99523,4518,35131,80242015.0
全羅北道5733,5411,1254,66681.3
慶尚南道2,1078,9354,75313,6881617.6
慶尚北道8354,4251,5325,957829.8
忠清南道3571,8655772,442185.0
忠清北道2401,2984041,702156.2
江原道11551517268710.8
京畿道2981,4956322,127144.6
黄海道9346715760411.0
平安南道9758522180655.1
平安北道652938938223.1
咸鏡南道8745316261511.1
咸鏡北道652379333011.5
8,92747,56018,24865,8087298.2


写経屋の覚書-はやて「朝鮮人全体やと8.2%が家賃滞納やけど、全羅南道出身者は15.0%、倍近くあるやん。これは確かに高い数値やで」

写経屋の覚書-フェイト「でも、『南鮮地方が歴史的伝統及び地理的環境の複雑なる要素を多分に有することを想起せしむる』っていうのはどういうことなのかな?」

写経屋の覚書-なのは「朝鮮南部、特に全羅道が貧しかったことだけを指すんだろうね。当時は済州島も全羅南道所属だったし」

写経屋の覚書-はやて「巷間よお言われる全羅道や済州島への歴史的な差別感や蔑視いうんは指してへんのかな?」

写経屋の覚書-フェイト「全羅道・済州島への差別?」

写経屋の覚書-なのは「ああ、その話ね。後三国時代、全羅道に割拠した後百済が慶尚道の高麗に最後まで抵抗したので、高麗初代王の王建が遺言の中で全羅道の人間を重用するなと言ったのが起源とか、済州島は流刑地ということもあったりしたので低く見られていたとかいう話なの」

写経屋の覚書-はやて「全羅道の方は九姓漁戸の起源伝説みたいなもんやなぁ」

写経屋の覚書-なのは「ま、そうでなくても、ソウルを軸にしての一極集中の伝統による地方の相対的貧困、各道間の交流不活発、地域対立特に慶尚道と全羅道の激しい対立って問題がずっとあったからねぇ…」

写経屋の覚書-フェイト「作者は、NAVERやエンコリ、あるいはヤフー掲示板でも、慶尚道の人間が「全羅道やつらごみだ」なんて罵る場面を見たことがあったそうなんだけど、そういう背景があったんだね」

写経屋の覚書-はやて「大韓民国になってからは、大統領の朴正煕・全斗煥は慶尚北道、盧泰愚は慶尚南道出身やったから、よけいに全羅道の人は反権力感情を持ったんかもしれへんね。光州事件もそういう背景があるんかもね」

写経屋の覚書-なのは「じゃ、最後は結語だよ」

       四 結語
 近年加速度的に増加しつつある朝鮮人の内地移住、殊に労働者階級の都市集中が各方面に著しい脅威を与へてゐることは上述した如くであるが、彼等の多くは下級農業労働者であり朝鮮本土におけるその生活はまことに惨めなものであるから、内地の生活標準が高ければ高いほど彼等の移入を招来するは当然である。
 要するに朝鮮人の渡来は失業の移入を意味し、斯くて均衡を失せる労働需給の関係は刻下の失業問題に一段の重要性を加へつつあるが、一面失業問題以上に彼等をなやましつつ日増しに社会問題的色彩を深め行くものに朝鮮人の住宅問題、即ち常に来住朝鮮人の増加による失業群の簇生と因果関係に立つ彼等独特の家賃難又は借家難の問題がある。
 之を要するに在阪朝鮮人住宅問題の重要性を強めるものは来住朝鮮人の増加であるが、しかも本問題をして更に一層悪化内攻せしむるものは彼等の失業その他による家賃の滞・不納であり、その乱暴不潔な居住振りであり又驚くべき多数の群居生活によつてそこに醸さるべき幾多の犯罪、不道徳、不衛生である。従つて本問題の解決方法としては、先づ積極的には漫然内地に渡来する朝鮮人をその本土に踏みとどまらしむると共に既に移住せるものに対してはその生活水準を向上せしむる必要があり消極的には人口の過剰より生ずる危険と弊害を未然に防止する必要がある。

写経屋の覚書-はやて「解決方法として『積極的』と『消極的』の2つを提示しとるんやね」

写経屋の覚書-なのは「『積極的』のほうは『漫然内地に渡来する朝鮮人をその本土に踏みとどまらしむる』と『既に移住せるものに対してはその生活水準を向上せしむる』の2つが挙げられてるんだけど、次の段落で詳しく説明されてるんだよ」
 
 朝鮮人の約八割弱は自作兼小作乃至小作人であるが、内地渡航者について見るも亦七、八割方は一般に朝鮮人労働者の名において呼ばれてゐる農民または農業労働者である。而してこれ等下層農業者階級の朝鮮における生活いかんといふに、彼等のある者は一日僅かに二十銭内外の賃銀で九時間乃至九時間半の労働に従事してゐる有様で、これを火田民又は土幕民の生活に比するもはるかに低く更に失業苦になやみつづけてゐる在阪朝鮮人労働者の収入及び生活状況に対比するも尚ほ余程劣つてゐるが、この彼我の開きこそは所謂朝鮮人労働者の大多数を絶えず内地殊に主要都市に誘引する原動力であり而かもこの傾向は恰も水の低きにつくと同じであるから、朝鮮本土においてこれ等の階級を保護善導するの方法として小作制度を改善し或は失業救済事業を企画して彼等の生活より不安と脅威を取り去らない限りは、百の渡航阻止策も畢竟するに雪をかついで井戸を埋むるの愚に終り在阪朝鮮人の住宅問題は依然その暗影を広め行くであらう。

写経屋の覚書-フェイト「『漫然内地に渡来する朝鮮人をその本土に踏みとどまらしむる』の具体的施策として『朝鮮本土においてこれ等の階級を保護善導するの方法として小作制度を改善し或は失業救済事業を企画』を挙げているんだね……あれ?どこかで聞いたような感じがするよ。獄長日記だったかな?」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよフェイトちゃん。獄長日記の「朝鮮人移住対策の件(一)」・「朝鮮人移住対策の件(二)」で触れられている昭和9年『内甲第149号 朝鮮人移住対策ノ件』にある「朝鮮内に於て朝鮮人を安住せしむる措置を講ずること」とか漫然渡航の「諭止」ってあたりだよ」

写経屋の覚書-はやて「あー、これかー。朝鮮内で雇用を創出して労働力を吸引するんやな。その施策の一つが朝鮮北部の重工業の開発やったんやな」

写経屋の覚書-なのは「朝鮮北部では、当時は商品作物としての稲作が無理だからね。工業を起こすしか選択肢がなかったんだよね。で、次は『既に移住せるものに対してはその生活水準を向上せしむる』のほうだよ」

 第二は在阪朝鮮人の生活水準を向上せしむる問題であるが、まづ都市生活の調和ある進化をのぞむならば、職業、性、居住様式及び教育程度が正常なる状態において向上調和さるべきである。しかるに今在阪朝鮮人のそれ等について見るに、職業では官公吏其の他〇.四%、商業〇.七%、職工三四.五%、その他の労働者三二.〇%で特に目立つのはその他の労働者に含まれてゐる土方及び雑役が多数を占めてゐることであり、男女の割合では男七二%、女二八%となつてゐる。更に居住様式は上述する如く驚くべき多数者の群居生活によつて常に都市生活の正常なる進化をさまたげてゐるし、教育程度は文字を解せざるもの五四.四九%、尋小中途退学二一.三一%、尋小卒業一六.八七%といふ風で、それ等のいづれもは都市生活の調和ある進化換言すれば在阪朝鮮人の生活水準を向上せしむる所以でないから、これ等総べてを正常なる状態にもち来たすための努力が要る

写経屋の覚書-フェイト「…結局、具体的にはどうすればいいのかな?」

写経屋の覚書-なのは「んー、内地にあうかたちに生活指導するしかないよね」

写経屋の覚書-はやて「なんや、同化政策とか皇民化政策とかいわれるやつやんwww」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよねぇ…内地各地で昭和7、8年ごろから内鮮人援護団体が増加していくのもそれが理由の一つなんだろうねぇ…」

写経屋の覚書-フェイト「ここで見た『本市に於ける朝鮮人住宅問題』の提言と獄長日記にある朝鮮総督府の施策が一致しているのは偶然なのかな?」

写経屋の覚書-なのは「どうなんだろうね。時系列順としては『本市に於ける朝鮮人住宅問題』が朝鮮総督府に影響を与えたってことになるんだろうけど、根本的な解決策を考えていったら同じ地点に到達したってことかもしれないよね」

 終りに人口の過剰より生ずる危険と弊害の問題であるが、断るまでもなく都市住宅政策の眼目は労働者階級の住宅標準を現在より低下せしめないことである。しかるに人口の過剰は経済的負担能力の低下及び文化的差異と相結んで群居を促し群居生活は往々にして住宅標準を低下せしめる最大要素となり得るから、先づ一戸内における最低の居住人員を制限すると共に人口の過剰を防止するための住宅供給が考慮さるべきであり、これ等のことは過密居住、住宅過密が在阪朝鮮人住宅問題の中核をなす現状において特に然りとする。

写経屋の覚書-はやて「最後は、とにかく住宅供給を増やすっちゅう一番直接的な手段やな」

写経屋の覚書-なのは「住宅建設と不良住宅の改良っていうのは昭和初期からの大阪市の一大施策になるんだよ。市内の環境劣悪な土地にある住宅をどんどん改良していくの」

写経屋の覚書-フェイト「その環境劣悪な土地と朝鮮人居住地が重なっていることが多かったんだろうね」

写経屋の覚書-なのは「うん。ま、順調に行ったかどうかは別の話になるんだけどね。じゃ今回はここまでにするね。次回は『大阪市住宅年報』の昭和7年版を見る予定だよ」

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