写経屋の覚書-なのは「ここのところ李東暉について見てきたけど、しばらく中断するよ」

写経屋の覚書-フェイト「え?何かあったの?」

写経屋の覚書-なのは「前に戦後日本に残留した朝鮮人について見たけど、せっかくだから戦後の朝鮮人の不法入国についてもまとめておこうと思ったんだよ」

写経屋の覚書-はやて「そやなぁ。togetterのまとめのタイトルも『xiaoke_Asさんによる「WW2戦直後から朝鮮戦争までの朝鮮人不法入国者推移」概要』なんやし、本題に沿ったこともやっとかなあかんよねw」

写経屋の覚書-フェイト「たしか以前HPのほうで、アジ歴の史料をもとにした『昭和21年度第2予備金支出要求書朝鮮人送還費』と『昭和21年度密航朝鮮人取締について』12でも触れてたよね」

写経屋の覚書-なのは「うん。あのときは対策とその予算面から見たんだけど、今回は統計等から見ていくんだよ。ツイッターの方でa_nightbreedさんに約束したしね。李東暉のほうはこっちが終わり次第再開するね」

写経屋の覚書-はやて「いつもtoggeterのまとめでお世話になっとるしなぁ」

写経屋の覚書-なのは「うん。じゃ、最初は『在日朝鮮人処遇の推移と現状』(森田芳夫 法務研究報告書第43集第3号 法務研修所 1955)のp84から取締の概要沿革について見ていくね。流れがよくまとまっているし、HPで取り上げたことも出てくるからいい感じなんだよね」

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   四、不法入国と退去強制
 二十一年三月十六日、総司令部の引揚に関する基本指令の中で「本国に引き揚げた非日本人は、連合国最高司令官の許可のないかぎり、商業交通の可能となるまで日本に帰還することは許されない」ことが示され(1)、四月二日には「占領軍にぞくさない非日本人が随時日本入国の許可をあたえられることがあるであろう」と指令された(2)。外国人登録令には第三条に規定があり、これに違反したものが不法入国者とみなされる。
 これより前、二月十九日に朝鮮米軍政庁で法令第四十九号「朝鮮に入国または出国移動者の管理および記録に関する件」が出ている。それは七条よりなり、集団帰国者、連合国軍人または随伴者および官庁命で旅行するものをのぞいて、朝鮮から出国するものは、入国地点で外務課官吏に旅券または信任状、入国理由および目的、旅行予定等を通知することをさだめ、これに違反するものは管轄裁判所で処罰すると規定されていた。
 二十一年春から夏にかけて、朝鮮人の不法入国者は圧倒的に多くなつた。そのほとんどはかつての日本在住者で、朝鮮に引き揚げたが生活苦のために日本の生活のよさを回想して逆航するもの、日本のやみ(ヽヽ)に出す物資をつんでくるもの、日本に残した家財をとりにくるもの、日本の学校に入りたいというものなどさまざまであつた。二十一年四月から内務省に不法入国者の統計が集められた。その年十二月まで検挙一万七千余とあるが、実数はそれよりはるかに多かつた。逮捕されたものは、五月以降、仙崎、博多から引揚船にのせて送還していた(3)。
 総司令部が不法入国者の取締に神経質になつたのは、当時朝鮮に蔓延したコレラである(4)。総司令部は、六月十二日の覚書で不法入国船舶の捜索逮捕を講ずること、不法入国船舶は、仙崎、佐世保、舞鶴に廻航して米軍官憲に引き渡すこと、警備に必要な援助は地方軍司令官に要請すれば与えられることなどを指示した。(5)


写経屋の覚書-なのは「密貿易については省略して、本文と気になる注について見ていくね。まず注1はSCAPIN822の附則だよ」

7.Non-Japanese nationals who have been repatriated to their homelands will not be permitted to return to Japan untill such time as commercial facilities are available, except as authorized by the Supreme Commander for the Allied Powers.
7.その本国に送還された非日本人は、連合国最高司令官に許可される場合を除き、商業交通が利用できるようになる時まで日本への帰還を許可されない

写経屋の覚書-はやて「SCAPIN822を修正して送還についての基本指令になったSCAPIN927の附則1でも(おんな)し規定やったね」

写経屋の覚書-フェイト「当時は日本そのものがGHQの管理下だし、日本への出入国にはGHQの許可が必要なんだね」

写経屋の覚書-なのは「1946(昭和21)年春からの不法入国者の増加っていうのは昭和21年度密航朝鮮人取締について2の予算追加要求事由で『密航朝鮮人の取締に関しては曩に本年四月頃の状況を基礎として差当り六ヶ月分の追加予算を計上して■■が其の後密入国者の数は逐月激増し七月中に於て既に一万名に達し八月中に於ては一万五千名を突破する見込である而も其の中には「コレラ」患者仝保菌者が相当数混入して居り又密貿易を企てる者が続出する等治安上乃至防疫上極めて憂慮すべき状態となって来たので』とあるのと対応するんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「ってことは、それは注4のコレラの話にも対応するよね。コレラによる送還停止は戦後朝鮮人の送還について4でも触れてたね」

写経屋の覚書-はやて「あー、ベッキーが解説しとったあの話か」

写経屋の覚書-なのは「日本への不法入国の理由については、1951(昭和26)年3月27日の衆議院行政監察特別委員会で、証人として出席した出入国管理庁の田中三男第一部長がこんな証言もしてるんだよ。
国会会議録検索システム
で年月日と委員会名を入力して、発言番号107を確認してね」


密入国者は、もちろん韓国人には限らないわけであります。欧米人等もあるわけなのであります。しかしこれは数においてきわめて少いわけでありまして、われわれが強制送還いたしております大部分の者は韓人であります。これはやはり日本に非常に縁故があるとか、あるいは日本に従来住んだことがあるとか、そういうふうに土地になじみが多いこと、あるいは朝鮮海峡との間が地理的に非常に近いこと、さらにわれわれの想像いたしますのに、日本も非常に生活苦でありますが、韓国の実情は日本以上に、特に戦争後は日本以上の生活苦のために、日本をあこがれて来る者が多いのではないか、こういうふうに考えられるのであります。


写経屋の覚書-はやて「『日本に非常に縁故があるとか、あるいは日本に従来住んだことがあるとか、そういうふうに土地になじみが多いこと』っちゅうんは、戦前戦中は日本におって、戦後の送還で、親戚や家族を置いて朝鮮半島に引き揚げたもんや、戦後も日本在住を選択した朝鮮人の親戚ってことやねぇ」

写経屋の覚書-なのは「注5はSCAPIN1015 Suppression of Illegal Enrty into Japan:日本への不法入国の阻止だよ」

 七月十五日、次官会議で不法入国者の取締について大蔵・内務・厚生・司法・運輸各省の分担と協力を明らかにした(6)。内務省は強化対策として、九州、中国を主として監視哨を配置し、沿岸巡邏船隊を編成して警戒にあたつた(7)。六月十二日の指令にもとづいて、佐世保引揚援護局(長崎県東彼杵郡江上村針尾)内に収容所が設けられ、その援護業務は援護局が、監視と護送は警察が行うことになつた(8)。
 その頃、不法入国者の取締には、占領軍が積極的にあたつていた。呉の英軍部隊からの二十一年八月十八日の総司令部あて報告には、約五千名の朝鮮人が逮捕送還されたこと、インド海軍のスループ型(単檣帆船)や英空軍部隊も哨戒にあたり、数多くの密輸船が飛行機で発見逮捕されたこと、陸上を警戒するニュージーランド兵により八月七、八日に三百名が逮捕されたこと、また英歩兵師団により四日前から七百名ちかく逮捕されたこと、捕獲船は没収され、首謀者は逮捕されて軍事裁判にかけられたことをのべている(9)。
 十月十四日の次官会議決定で、さらに各省の分担連絡を明確にした(10)。総司令部は、十二月十一日に、朝鮮で船舶航行許可証を発行するのは、朝鮮米軍政庁海上輸送局のみであることを明らかにした(11)。

写経屋の覚書-なのは「注6の次官会議の決定内容は『在日朝鮮人管理重要文書集1945-1950』(外務省政務局特別資料課 1950 湖北社より1978復刊 以下『文集』)p82に載ってるんだよ」

昭和21.7.15 次官会議決定

不法入国不法密輸入事犯等の取締に関する件

密貿易並びに不法入国等の取締に関する具体的措置については、大蔵、内務、厚生、司法運輸各省は相互に連絡協力しこれに当ることとしその実施に際しては次の要領による。
一、取締監視船はこれを海運局ににおいて準備し取締に必要な税関管理警察官を乗船せしめる。
二、密貿易事犯、不法入国及び検疫は関連するものであるからこれが取締については税関及び警察の各官吏は相互に援助協力して取締の徹底を図ること。
三、GHQへの密輸事犯、検挙、報告は各税関から大蔵省に報告し大蔵省においてこれを取り纏めの上同司令部に提出するという方法によること。

写経屋の覚書-フェイト「分担を明らかにした、とまでいえるほどの内容でもないような気がするんだけど…とりあえず内務省の警察と大蔵省の税関官吏が不法入国者の取締の主役になるってことくらいしかわからないよ」

写経屋の覚書-なのは「そうだよねぇ。まぁそれについてはもう少し後で続きが出てくるから置いといて、注7はCLO3293 Report on Suppression of Illegal Entry into Japan:日本への不法入国の阻止の報告だよ。日本政府がGHQへ警備船の配備状況報告と武器弾薬・燃料の供給と米軍憲兵の援助を要請したの」

写経屋の覚書-フェイト「監視哨の設置っていうのは『昭和21年度密航朝鮮人取締について2』に出てきた監視哨とか監視員の話でもあるよね?」

写経屋の覚書-はやて「ほんまやね。あれは1946年7月か8月作成の予算追加要求やったから、ちょうど該当するやん」

写経屋の覚書-なのは「うん、そう考えて問題ないと思うよ。注9は英軍の話なんだけど、新聞記事にもなってるんだよ」

写経屋の覚書-460819朝日新聞(大阪版)

1946(昭和21)年8月19日付 朝日新聞(大阪版)
密航者に英軍の断
朝鮮人の大規模な日本密航を防止するため英占領軍の陸海空軍が共同作戦を行ひつゝあることが十八日呉英軍司令部から発表された、右によれば約五千名の朝鮮人が、上陸したところや密航船に拾ひあげられたところを逮捕され、帰国したといはれる、彼らが上陸を狙つてゐるのは朝鮮に最も近接した地点の本州北岸である、朝鮮人の流入は占領軍及び日本国民全体の衛生に対する脅威であり、流入者中にまじる感染者によりコレラ、チフス伝染の惧れがあり、軍医当局は悪疫防止のため万全の措置をとりつゝある

彼らの潜入目的は闇市で活動するため、または最近朝鮮へ引揚げた者が日本に残した家財や貴重品を集めに帰るためである、かゝる非合法行為は最近増大し英軍は大規模な防止活動を行ふに至り、印度海軍のスループ船を含む海軍艦船が呉から出動、英連邦空軍支援下に沿岸遮断哨戒を実施、朝晩海岸向け船舶の行動を報告してゐる、密航船舶は没収され船長は軍事裁判を受けるため■■■■てゐる


写経屋の覚書-なのは「注10はさっきフェイトちゃんが首をかしげていた次官会議決定の役割分担を改める内容になるんだよ。これも『文書集』p96に所収されてる『不法入国の取締に関する海上保安庁保安局長通牒』に添付されている『不法入国者取締の件』なんだよ」

不法入国者の取締に関する件

(昭和二一・一〇・一四次官会議決定)

 不法入国事犯の取締に関しては本年七月十五日次官会議決定「不法密輸入、不法入国事犯等の取締に関する件」によりその要領を定めその実施に当つているがその後に於ける不法入国事犯の質と規模とは当初の予想を超えて遥かに悪質且広汎なものがあるので此の際更に之が徹底的取締を期する為之に関する内務厚生運輸各省の分担区分を次の如く定め関係各省はこれら分担省の要請に応じ必要な事項につき協力をすることゝし、以てこの取締の万全を期することゝとしたい。
  記
一、不法入国者の逮捕、留置及び連合国軍の指定する不法入国者の常設収容所への送致は内務省これを担当すること。
二、前記常設収容所の設置及びこれが経営並に不法入国者のその収容所内に於ける給養はその収容所の指定が現存する地方引揚援護局に所属する施設につき為された場合はその地方引揚援護局の存続する間厚生省之を担当することゝしその他の場合は内務省これを担当すること。
三、強制送還用船舶の配船運航及び船内に於ける被送還者への給食は運輸省これを担当すること。但し、その給食に必要な糧食の補給は前項の区分に応じ厚生省又は内務省に於てこれを担当すること。
四、逮捕後に於ける不法入国者に関する警備は凡て内務省これを担当し検疫は凡て厚生省これを担当すること。

写経屋の覚書-フェイト「1946(昭和21)年10月14日の次官会議ではきちんと分担が明記されたんだね」

写経屋の覚書-なのは「そうだね。次に注11はSCAPIN1393 Suppression of Illegal Entry into Japan:日本への不法入国の阻止だよ」

写経屋の覚書-フェイト「日本官憲は船舶航行許可証の真贋の識別判定に苦労してるって、1946(昭和21)年10月16日付のCLO5489 Suppression of Illegal Entry into Japan:日本への不法入国の阻止でも報告してたよね。それも発行機関の一本化・明確化に関係していたのかもしれないね」

写経屋の覚書-はやて「各機関がそれぞれ勝手に許可証を発行しとったらややこしいし、偽造されても確認に手間取るやろしねぇ…って、各機関がばらばら勝手に発行するってまるで大韓帝国期の開墾許可みたいやんw」

写経屋の覚書-なのは「少し中途半端だけど、今回はここまでにして次回も『在日朝鮮人処遇の推移と現状』の本文と注を見ていくよ」